真実の愛?……面白いからほっとこう
「アマンダ、そなたとの婚約は破棄する!」
収穫祭を控えた王宮主催のパーティーの会場というのに、また始まった。
参加者からの白い目が集まる。
あ〜あ、国王陛下も王妃陛下も手で顔を覆われている。お気の毒に。
ん?王子の隣にいるのは?
面白いことになってきた。
暫く好きに喋らせておくとするか。
「私は真実の愛を見つけたのだ。しかしその相手はそなたではなかった!」
「そちらのお方が真実の愛のお相手だと」
「そなたには悪いとは思うが、私はこのアーニー嬢と接する度に惹かれて行く自分の心に嘘はつけない!」
「はあ…」
「なんと言ってもアーニーは一歩引いて私を立ててくれる。その奥ゆかしさは男の気持ちをよく分かってくれていると…」
男の気持ちが分かる? まあそうでしょうね。
「そしてその立ち居振る舞いはエレガント」
否定しないわ。育ちがいいもの。
「そして私が悩んでいる時にそっとしてくれるアドバイスは確かな見識に裏打ちされた的確なもの」
まあ、兄上ならそれくらいできるでしょうね。
そう、王子の隣にいるアーニーとは、私の兄のアナンが女装した姿なのだ。
アナン兄上は重度のシスコンで、常々私を「嫁にはやらん!」と息巻いている。
「父親か!」とツッコミたくなるが、相手がお頭の足りない事で有名なウイリアム王子では尚更か。
「一応、念のためにお聞きしますが私達の婚約は政略結婚であることはご存知ですわね?」
「それは「王子に訊いているのではございません!」」
私は王子の言葉を遮る。
「あなたに訊いているのですわ、兄上」
「なにを言っている、兄ではなくアーニーだ!
そなたはアーニーが男だとでも言うのか!?」
「そう申しておりますが?」
「どう見ても女性ではないか!この容貌を見よ」
「お化粧がまた上手くなりましたわね。母上の化粧品ですか?ばれたら叱られますわよ」
「このふくよかな胸!」
「鍛えてダイエットなさる事をお勧めしますわ」
「!」
それまで黙っていた兄上が口を開く。
相変わらず男声にしては高い、見事なカウンターテノールだ。
「いつ気づいた、アマンダ?」
「なんで気づかないと思いますの?」
「ま、待て!! 本当にアーニーはそなたの兄なのか、アマンダ!?」
「その通りでございます。殿下」
「では公爵家の者なのだな!!」
「? その通りですが、なにか?」
「では相手が代わるだけではないか!!」
「「???」」
「アマンダとの結婚は王家と公爵家の政略結婚。なれば相手が代わっても問題あるまい! そうではないか?」
「「「「「おお!?」」」」」
盲点だった!!
こんな事をまさかウイリアム王子に指摘されるとは!
不覚!!
「ちょ、ちょっと待て!待ってくれ!!
私は男性だぞ」
「誰でも欠点はあるさ」
「ええ!?」
「アーニー、愛している!!」
男らしい!!
私はウイリアム王子を初めて見直した。
「そう言う事でしたら喜んで身を引きましょう♪
どうぞお幸せに♡」
「ありがとう、アマンダ!!」
兄上が何か叫んでいるが無視無視。
見捨てるのかって?
とんでもない。温かく見守りますわよ。
幸せになってくださいましね、あ・に・う・え ♡
ウイリアム王子の茶番に辟易していた国王も王妃も手を取り合って飛び跳ねている。
元々第三王子なので、政略結婚の駒になってくれれば他は目を瞑ろう? ごもっとも。
一ヵ月後、ウイリアム王子とアーニーの挙式が執り行われた。
I’m a boy…I’m a boy…と呟く兄の口を王子の唇が塞ぐ。
誰でも欠点はあるさ…
欠点は補い合えばいいんだ
そう宣言したウイリアム王子を私は心から祝福する。
幸せの青い鳥はやはり身近にいました