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第95話 一方、彼女らは

 枷月葵(カサラギアオイ)がガリアへと向かう一方、人族領域から魔族領域を目指す影が2つあった。


 およそ人間とは思えぬ速度で進むそれらは、己の使命を果たすべく魔族領域を目指す。

 森の中を駆け抜けていることもあってか、誰にも認識されていない。それらを認識できた魔獣たちは見なかったフリをしている。


 木々を器用に避けていることもあって、森に影響は出ていなかった。

 強いて言うならば、それらの通り道に居る魔獣たちが秒殺されていることくらいか。


「ねぇ、ちょっと急ぎすぎじゃない……?」

「空梅雨さん、女神様からの依頼を忘れたのかしら?」


 そう、その2人こそ勇者空梅雨茜(カラツユアカネ)夏影陽里(ナツカゲヒカリ)である。

 2人は森を駆け抜けながら、悠長に会話をしていた。


「いや、それは覚えてるけどさ? こんな全力疾走する必要あるのかな〜と」

「意外と時間がギリギリなのを自覚して欲しいけど……。これでもガリアに着く頃には目的がいない可能性があるのよ?」


 一先ずの目的地は、ガリア。

 女神から依頼されていたことは、魔族の処理だ。女神からすれば魔王の交代はしないで欲しいわけで、影で内乱軍の有力魔族を殺せというのが命令だった。


 尤も、魔王の交代が起こったとしても魔族全体が疲弊していれば問題はない。しかし、それだけでなく、現魔王に勝利して欲しい理由があったのだ。

 故に、本戦とは離れた街に居る魔族を殺しておく。今のうちにガリアを攻め滅ぼしてしまおうというわけだ。


「目的の魔族って…………あ〜、首無しの人か────ってあぶなっ!」


 ザシュッ


 空梅雨茜(カラツユアカネ)の道中に居た熊の魔族が、ぶつかる前に切断される。

 彼女の持つ美しい剣にて、一刀両断されていた。


「もっと周りを見て行動しなさい……」


 殺された熊の魔物自身は幸せだっただろう。この世界で痛みも自覚もなく死ねたのだから。


 空梅雨茜(カラツユアカネ)に注意こそするが、彼女がそれを聞くとは思っていない。

 もちろん耳には入れているのだろうが、「そんなことを気にするのは面倒臭い」と、彼女ならばそう言うだろう。


 なので、半ば諦めていた。

 彼女を直すより、自分が彼女に合わせる方が楽ということに気付いてしまったのだ。


「ガリアってこの方向で合ってるの?」

「合ってるわ。貴女、女神様の話を聞いていたの?」

「もちろん。葵くんにだけは接触しないようにって話でしょ?」


 女神から枷月葵(カサラギアオイ)の生存については聞かされていた。

 正直、やっぱりなという気持ちが強かったのは事実だ。


 メイから聞いていたアオイという少年の話。

 アオイという名前に、勇者を殺す存在、これらを考えて、枷月葵(カサラギアオイ)に辿り着かないほうが不自然というものだ。


 枷月葵(カサラギアオイ)だって勇者として召喚された存在。

 いくら固有スキルとステータスが弱かろうと、どこかに転移されたくらいならば生き残る可能性はあった。

 運良く生存できた、そんな可能性もあるだろう。


 だから、枷月葵(カサラギアオイ)が生きていること自体には疑問を抱かなかった。

 問題は、勇者を2人殺していた点だ。


 枷月葵(カサラギアオイ)の反応から、ステータスを偽っていたとは考えにくい。

 そして、あのステータスでは勇者を殺すことは不可能だ。


 では、なぜ勇者を殺せたのか?

 ここまで分かれば、答えはもう出る。


 固有スキルだ。

 女神に「無能」と言われた彼の固有スキルが、彼の切り札なのだ。


 女神が枷月葵(カサラギアオイ)への接触を禁じた理由もそれだろう。

 支配系統の固有スキルを使用される──支配されることを懸念しているというわけだ。


 ふと、隣を走る少女を見る。

 いつものように明るい表情を浮かべる彼女は、ここまで考えているのだろうか。


───考えていて欲しいところだけど……。


 深く考えてはいないだろう。

 それでも、接触をしないでくれるのならば問題はないのだが。


 そんなことを考えていると、高速で移動していた空梅雨茜が急に止まった。

 その速度で急に止まり、しかも足をブレーキ代わりにもせずスムーズに止まるのだから大したものだ。

 夏影陽里も続けて止まるが、やはり彼女のようにスムーズにはいかなかった。


「……空梅雨さん?」

「ストップ。前で戦闘が行われてる」


 今回、魔族の強者との戦闘ということもあり、存在がバレないように召喚獣による遊撃は行っていない。後方に1匹、尾行がいないかをチェックする要因がいるだけだ。


 それが功を奏してか、前で戦闘をしている集団にこちらの存在はバレていない。

 空梅雨茜のインチキな索敵範囲ギリギリのところで留まっているから、向こうからこちらは認知できていないのだ。


 逆に言えば、こちらからも相手は認識できていない。

 空梅雨茜をもってしても、前方で戦闘が行われている程度のことしか分かっておらず、人数でさえ把握できていないのだから。


「戦闘が終わるまでここで待機するね。終わったらすぐに向かって奇襲」

「分かったわ」


 今戦っているのが目的の魔族──ヒュトールであれそうでなかれ、わざわざ両者の戦いに首を突っ込むひ必要はない。

 戦闘が終了し、疲労しきっているところに奇襲、即座に命を刈り取ることを優先した作戦だった。


 探知できるギリギリのところで静かに待機。

 動かず、話さず、そんな状態で待つこと十分程度。


「……戦闘が終わったっぽい。行くね」


 空梅雨茜の合図で彼女たちは再び走り出す。

 空梅雨茜はその右手にナイフを持って、夏影陽里はいつでも召喚術を使えるように準備をして。


 走ること1分にも満たない間で、彼女らは戦闘跡付近まで近付く。

 ここまでくれば、夏影陽里にも相手は見えてくる。それに、ここはガリアの外壁付近だ。


 ガリア内部には魔族の気配がするが、外にいるのは2人。

 1人の男と、1人の少女。

 そのうち、少女は魔獣────魔獣?


 彼女がそんな疑問を持つよりも早く、空梅雨茜は男に向かってナイフを投擲していた。

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