第88話 紫怨の動き
俺とルリの行動方針が決められたすぐ後、俺は紫怨と対面していた。
丁度紫怨が目覚めたと教えてもらい、部屋まで案内してもらったのだ。
「紫怨、大丈夫か!?」
と、開口一番に心配してしまったのは言うまでもない。
ルイとの戦闘に破れてしまった紫怨だったが、意外とメンタルには来ていないのか、スッキリとした顔でベッドに座っていた。気のせいかもしれないが。
ここまで案内してくれたメイドはフローラだ。雫の計らいか、俺のメイドとして周りの支度をしてくれていた。俺と紫怨が話し始めようとすると、空気を読んで部屋から出ていった。
「ああ、葵。心配をかけてすまない」
「いや、無事なら何よりだ」
肉体的な疲労も回復しているのか、怠そうな感じはしていなかった。
一先ず無事を喜ぶが、まずは内乱について伝えておくべきだろう。起きて早々で悪いが、知っておいてもらわなければ困るのだ。
「紫怨」
「葵」
それを伝えようとして声をかけると、紫怨とそのタイミングが被った。
「なんだ……?」
ので、まずは紫怨に譲ってみる。
紫怨はそのまま話し始めた。
「色々と話は聞いた。魔王が葵の妹だということも、内乱のことも。本当にいきなりで混乱はしたが、今はそれよりも急がなければならないことがある」
「急がなければならないこと?」
「俺はあくまでも女神側だ。帰りが遅ければ、当然疑われる。一度帰らなければならない」
「ああ」
確かに、言われてみればそうか。
ずっとここにいれば女神に怪しまれる。あくまで紫怨はスパイという立ち位置だから定期的に女神に報告しに行く必要がある、と。
駿河屋光輝の死を想像より早く認知した女神は、勇者の生存を確認する能力、または居場所を確認する能力を持っているだろう。紫怨が足踏みをするのは危険なわけだ。
「それはもう伝えてある。すぐに帰る予定だ」
「……分かった」
言われてみれば、積もる話も大してない。
数日ぶりでしかないし、その間に大きなイベントがあったわけでもない。
いや、正確にはあったのだが、それは紫怨も既に聞いている様子だ。
「また戻ってくる。その時に話でもしよう」
「そうだな。気を付けて」
「ありがとう」
紫怨は女神側だからこそ、強い。
それを当人も理解しているからこそ、女神に怪しまれないような行動を心掛けている。
それから1時間後には、紫怨は魔王城を旅立っていた。