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第87話 魔王城会議(2)

 初めに紹介されたのは、ガルヘイアの南東にある中規模の街ガリアだ。

 俺が通ってきた森は魔族領域の中央と南東を区切るようにも広がっていて、ガルヘイアとガリアは森によって仕切られていた。


 魔族の街の中では最も人族領域に近いということもあり、街の外壁は強固な壁で覆われているらしい。さながら、要塞のような街だとか。

 ただ、規模が中ということもあり、大規模な進軍にまで対応できる防御力は有していない。しかし、魔族領域に小遣い稼ぎにやってくる冒険者程度であれば、十分に要塞としての力を発揮できるそうだ。


 正直、魔族のイメージを勝手に野蛮なものとしていたので、街があること自体驚きだった。

 街を作り、人と同じように生活している。そんなイメージは持っていなかったのだ。


「……魔族も人と同じく知能がある。そして、ほとんどが人と似たような形」


 とは、疑問を漏らした俺にルリが耳打ちした内容である。

 そう言われればその通りだと納得だ。


 ガリアを治めている魔族の名は、ヒュトール。首無し族(デュラハン)──その名の通り、首の無い騎士だそうだ。全身を漆黒のフルプレート──これも強力な魔道具らしい──で包んでいて、左手に己の頭部を、右手には白銀のロングソードを持っているんだとか。


───治めているから強いとは限らないんじゃ?


 そんな俺の疑問も、ルリの耳打ちによって解決した。


「魔族は強者が上に立つのが基本」


 こればっかりは人族とは相容れない部分だろう。


 つまり、ヒュトールと呼ばれる魔族がガリアで最も強い魔族ということだ。

 ただ、ガリアは戦場から離れていて、更には防衛を主に置いている街。住む魔族の強さを度外視すれば、問題になりそうな場所ではなかった。


「他にガリアの特徴は?」

「いえ、特にありません。人族領域からやってくる冒険者を第一に受け止める重要な街として、これまで存在してきました」


 冒険者相手とはいえ、人族との不仲の象徴の街ということだ。

 魔王は人族に攻めないが、冒険者はこちら側にやってくる。鬱憤が溜まってもおかしくなかった。


「次は、ガルヘイアのちょうど東に位置する街、コリンだ」


 ガルヘイアとコリンはちょうど真横にあるが、その距離はガルヘイアとガリアのそれよりも離れていた。

 間に何かを挟むわけではなく、ひたすらに何もない場所が続いている。


「それだと、コリンが一番ガルヘイアに攻めてくる可能性があるんじゃないのか?」

「いえ、コリンからガルヘイアまでの道には、地竜の巣があるんです」


 一見して何もないが、実際にはそうではないらしい。

 地竜──地中に暮らす竜が、この何もなさそうな平野に住んでいるということ。迂闊に軍を動かせば、地竜が怒って飛び出してくるというわけだ。

 故に、ガルヘイアからコリンに行くためには迂回が必須となる。森を抜けることを考慮しても、ガリアからの方が攻め込みやすい。


「コリンの特徴は?」

「海産物が特産品です」


 なんと言えば良いのか。

 戦争にはあまり関係なさそうだが、海に近いということもあってのことだろう。

 強いて言うならば、水に強い種族である可能性が高いとか?

 後は、コリンを潰してしまうと海産物の輸入が減ってしまう、その辺りか。


「コリンを治めているのは──竜人のアルフレッドだ」


───竜人、か。


 なんか凄そうな奴が出てきた。

 竜と人のハーフなのだろうが。

 竜はどの個体も強力だった。ハーフになると力は弱くなるのかもしれないが、それでも竜魔法が使えるとなればその脅威は想像に難くない。竜人が複数いるのであれば、警戒は必須だろう。


 尤も、そういった強力な魔族たちはアルテリオ平原の主戦に参加するものだとは思うが、それにしても警戒は必要だった。

 聞く限りだと、首無し族(デュラハン)よりも警戒する必要がありそうだ。


「北に位置するのはズー。7つの拠点の中で最も大きい街だ」


 ガルヘイアとは大きな湖を挟んで、その北に位置する街だった。

 赤く印の付けられている7つの街の中で、最も大きい。ガルヘイアに比べれば半分ほどしかないが、それでも魔族にとって重要な街であるはずだ。


「ズーは勇者によって魔王が倒された際、ガルヘイアに住む魔族が逃げた先で作った街だ」


 これもまた、反乱に参加する理由の想像が容易だった。

 人間から逃げた末にできた街だから、住む魔族は人への恨みを持っている。それを無視して保守的な行動を取る魔王を許せないとか、そんなところ。


───よく300年間持ったな。


「元から反乱の兆しはありました。長引いてその最中に勇者を召喚されることを恐れていたんですよ」


 勇者が召喚されたことで人間の戦力が確定し、それも2人落ちている。今こそ絶好の機会だというわけだ。


「最後に、西に位置する4つの街──位置関係からも推測できる通り、同盟を結んでいる街だ」


 菱形の頂点のような形で、それらの街は密集していた。

 一応、街は4つに分かれているが、あまりに近い。同盟関係ならば納得、むしろそうとしか考えられない距離だった。


 街の名前はそれぞれ、ヴァルギシア、ノーズ、ダグニアク、ドラド・ディスク。

 治めている魔族は、サキュバスのアリア、悪霊族のマイラ、巨人族のド・ジン、悪魔のバルデス。


 この同盟が今回の内乱の中心らしい。

 街1つの規模はそうでもないが、4つ合わさればかなりの規模だ。それこそ、ズーよりも普通に大きい。

 物資、軍事力、あらゆる面においてここが中心となるのは合理的なだった。


───アルテリオ平原も近いしな。


 それに、ガルヘイアとはアルテリオ平原を挟む位置関係。どちらにとっても、兵を動かしやすい場所だった。


「本題に移る」


 街の説明は、俺を気遣ってのことだろう。他の面々は知っていたことだと思う。

 それが終わり、ようやく俺を交えての作戦会議へと移った。


「まず問題になるのは、内乱勢力の分布だ。それを話すために、1人紹介しなければならない者がいる」


 雫はそう言うと、エリスを指差して続けた。


「彼女はエリス。南の森に住む狼人族の者だ」

「はい」


 エリスの紹介を聞いて、なんの関係が? と言った顔になる一同。かく言う俺もその一人だ。


 それを察してのこともあるだろう、雫は続けた。


「彼女の部族は表立って内乱の意思を示してはいないが、その実では勇者の首を狙っていた。しかも()()()にそれを献上しようとしていたのだとか。つまり、このように表立って内乱を起こしはしないが、内乱の肩を担いでいる魔族も多くいるということだ」


 周りの反応を見ながら、「更に」と雫は続ける。


「前哨戦では予想以上に内乱軍の兵士が多かった。つまり、私たちが思ってる以上に内乱の肩を担いでいる魔族は多いということだ」


 表立って内乱の意思を示している7つの街に、他の集落や、もしかしたら他の街も。

 7つの街々はアルテリオ平原に軍を集結させると言ったが、他がガルヘイアに攻めないとは言っていない。屁理屈ではあるが、ガルヘイアの警備を怠れない理由になった。


「7つの拠点も魔都を囲むように位置している。ガルヘイアの防衛に軍を割かなければならないわけだが、どうするべきだ? 宰相」

「それを俺に聞きますか? そういうのはアイツの仕事だろうに」

「参謀は前哨戦に出向いている。次に頭が回る者に聞いただけだ」


 宰相と呼ばれたのは、隻眼の魔族。

 宰相という役職なだけあって、政に向いた人材なのだろう。軍について聞かれたことには少し顔を顰めていたが、それでも答える。


「魔王軍の2割が妥当でしょうね。それ以上だと本戦に大きく支障が出ます」

「……千も割くのですか?」


 宰相の進言にルイが突っ込むが、意に返さないように宰相は言葉を続ける。


「ガルヘイアのことも考えるならそうでしょう。そもそも、そこまで考えれば内乱軍の方が戦力が多いのでは?」

「なぜだ? ガルヘイアには魔族の7割が住んでいるだろう?」

「兄上様、ガルヘイアに住む魔族は戦わない者の方が多いのです」

「ああ、なるほどな」


 戦える魔族の殆どは内乱軍側に属している。

 魔王軍を除けば、魔族だって普通に生活をしているのだから、飲食店を営む者、花屋を営む者、様々だろう。ガルヘイアにはそういう魔族が多いのだ。


 結果として、魔族全体では内乱側は3割以下だが、戦える魔族に限定すれば魔王軍より多くなると。


「あれ、それってまずくないか?」

「魔王の配下である魔族はステータスに恩恵を得られますので、単純に数の差というわけでもないのです」


 ならばそこまで問題にはならないのか。

 というか、内乱軍が必死になってまで魔王を交代したい理由がソレか。内乱軍側もステータス上昇の恩恵を得たいのだ。


「5日後には4000の兵士をアルテリオ平原に移動させる。1000はガルヘイアの警備に。総帥はアルテリオ平原、宰相はガルヘイアに残って警備、だな」

「はっ。魔王様はいかがなさいますか?」

「私が戦場に赴かなくてどうする?」

「それはその通りですが……」

「なに、心配事があるなら言いなさい」


 ルイは一瞬躊躇ったようだが、すぐに雫に向き直って言う。


「いえ、魔王様が出られるとすぐに終わってしまうのではないか、と」

「流石に、向こうも私対策を考えているだろう」

「それは……どうでしょうね……」


 好戦的でない魔王として知られている雫だが、その実力は魔族であれば知っている者も多い。

 余程慢心でもしていなければ、普通は対策を講じてくる。


「本戦におけることは参謀に任せる。それと、赤龍はどうする?」

「ふむ、どうせ内乱軍とやらは我対策も考えているのだろう? ならばそれを正面から叩き割ってやろうではないか」

「参謀に伝えておく」


 現状の役割は、こんな感じだ。


 魔王軍四千……本戦

 雫(魔王)……本戦

 総帥……本戦

 赤龍……本戦

 参謀……本戦

 魔王軍千……防衛

 宰相……防衛


「俺と始まりの獣(ラストビースト)はどうすれば良い?」


 役職名で呼び合っていることから、俺も空気を読んでルリを始まりの獣(ラストビースト)と呼ぶ。


 俺は各魔族を好きに倒して回って良いと聞いていたが、それでもあまり自由に動きすぎれば作戦に支障が出るだろう。

 なので、指示を貰っておきたい。


「では、兄さんはガリアを、余裕があればコリンをお願いしても良いですか?」

「ガリアとコリン、了解」


 西側のアルテリオ平原に軍を集めれば、最も警戒が必要なのは東側2つの都市だ。その動きを見張ることも兼ねて、俺はそちら側に配属される。


「兄さんの動きを考慮してほしいのは宰相だな。東側の牽制に始まりの獣(ラストビースト)を使う」

「それは構わないんですが、始まりの獣(ラストビースト)がアルテリオ平原ではなくガリアで暴れるのは問題では?」

「彼女は魔獣だぞ? 魔王軍の傘下にはない」

「……ああ、なるほど。了解しました」


 こちらもまた詭弁ではあるが、間違ったことは言っていない。

 政治的な意味合いも含まれる戦争だからこそ、こういったことも通じるわけだ。


 それに、俺は一応勇者だ。魔王軍ではない。

 俺がガリアに攻めこもうと、それを攻められる魔族は存在しないのである。


「防衛の作戦は宰相に任せる。知っての通り、私に頭を使う才能はないからな」


 堂々と言い切る雫だが、それは自慢げに語ることではない。

 兄として恥ずかしいぞ、妹よ。


「この面々で話すことはそれだけだ。他に何か言いたいことがある者は?」


 そう言いつつ、順々に周りを見る。


「ありません」

「同じく、ございません」

「俺もないな」

「我も特にないぞ」


「では、これにて閉会とする」


 そんなこんなでつつもなく会議は終わった。


 魔王城に居るのは見回りの兵士と護衛の強力な魔族くらいだったので、内乱の近いこの時期は忙しそうだった。

 俺は自室でこもりきり。邪魔をしないことに精一杯を注いでいたわけだ。



 それから5日間が経つのは、一瞬のことだった。

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