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第86話 魔王城会議(1)

 部屋で休んでいれば、2時間が経った。


 正確には、何もせずに2時間が経った。

 当初の予定ではベッドダイブを決めて快眠する予定だったのだが、俺を見守る紫髪の美少女によって、その計画は破綻の一途を辿った。

 さすがの俺でも、ルリが見守る中寝るのは難しかった。


 しかし、体に負担が溜まっていたことも事実。

 ベッドに横になってグダグダと時間を潰していたわけだ。


 2時間が経った頃、フローラが俺たちを迎えに来た。

 その先導に従って、始まりの獣(ラストビースト)と共に会議室へと移動したのだ。


 俺たちが会議室に入ると、既に何人かの魔族はそこで待っていた。

 魔王軍総帥と呼ばれていた、紫怨と戦った男。赤龍。その傍らに控えるエリス。

 紫怨は未だ寝ているのか居なかった。


 それと、玉座の間で魔王の側にいた側近と思われる隻眼の男も居た。

 色が抜け落ちたような美しい白髪と、黒の眼帯が上手くマッチしている。強面だが、不思議と恐怖感を抱くことはなかった。


「エリスさん……」


 俺は、不意に声をかける。

 部屋に入った時から俺を凝視していたエリスも、それに応えるように口を開いた。


「お久しぶりです、アオイさん。命を救って頂いたと、赤龍様から聞きました。ありがとうございます」


 立ち上がり、俺に頭を下げながら言う。

 そこまでしなくていい、と止めるのは簡単だが、彼女だって頭を下げなければ満足出来ないはずだ。俺は素直に例を受け取っておく。


「それと、同族が迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、あれはエリスさんのせいではありませんよ」


 俺が謝罪を受け入れると、エリスは頭を上げる。

 実際、支配していた族長が悪い話であって、エリスにはなんの責任もないのだ。

 むしろ、同族を殺してしまった俺のほうが悪者だろう。


 エリスの話し方から、以前より少し距離を感じる。

 元から距離が近かったわけではないが、感謝で一歩引いてる感じだ。

 そもそも彼女自身、距離を詰めてくるタイプだと思っていた。中々新鮮だ。


 俺とエリスの会話が終わったと見たか、再び沈黙が訪れる前に、今度は赤龍が俺に話しかけてくる。

 試練の時よりも威厳に満ちた若干渋い声なのは、こちらが素の声なのだろう。


「久しいな、枷月葵(カサラギアオイ)

「久しぶりだな、赤龍」


 ”面白いものが見れそう”と言っていた赤龍の意図は、雫と会った時点で分かった。俺を見たときから、俺と魔王が兄妹なことに気付いていたわけだ。

 それを知った時の反応が見たいがために、わざわざ魔王城まで送ってくれたと。コイツも良い性格をしている。


「くく、そんな顔をするでない。なに、嫌な気はしなかっただろう?」

「……言ってくれても良かったと思うが?」


 俺が顔をしかめて文句を言えば、赤龍は余計面白そうに破顔する。

 それがなんとも恨めしくて、絶対に仕返してやると心に誓った。


「言ったら面白くないだろう! 我がそんなことをするとでも?」

「聞いた俺が馬鹿だったよ」


 赤龍はこういうヤツだ、という認識だ。

 愉快犯のようなものなので、俺たちがとやかく言ってもどうしようもない。

 試練を見る感じ真面目ではあるのだろうが──敵ではないし良しとしよう。


 俺がエリスや赤龍と話している間も、隻眼の魔族はだんまりだった。

 腕を組み、難しい顔で座っている。元より怖い顔でそんな顔をされると……ヤクザの頭みたいだ。


「……兄上様」


 と、そこで声がかけられる。

 その正体は総帥だ。


 一見して寡黙そうな見た目だったので、俺に話しかけたのは不思議だった。玉座の間での態度から、魔王への凄まじい尊敬を感じていた。


───なんか恨まれてる……か?


 そう思うような威圧がある。

 とても友好的な態度に見えないのは、俺が彼にバイアスをかけ過ぎだろうか。


「葵よ、気にするでない。ソイツはいつもそうだ。我に対しての態度も変わらぬ」


 横から、赤龍の補足が入った。

 地球にも、もとから目つきが悪い人というのは少なからず存在したものだ。そう考えれば友好的に見えなくも……ない……と思う。


「私は魔王軍総帥を務めております、ルイと申します。以後、お見知りおきを」


 「兄上様」なんて鋭い目つきで呼ばれた時は何事かと思ったが、ただただ丁寧に挨拶をされただけだった。


 流石にこれを言われては俺も返さなければ無礼。

 そう思った俺は即座に自己紹介をする。


枷月葵(カサラギアオイ)と言います。雫の兄に当たります。よろしくお願いします」

「私に敬語は不要です。何卒、お控え頂ければと」


 魔王への絶対的な忠誠からか、その兄である俺にも凄まじい敬意が飛んできている。

 雫と違って俺は凄い人間じゃないし、正直ここまでされる筋合いはないのだが、ここでそれを受け入れずに敬語を続行したらもっと面倒なことになるのは目に見えていた。


「分かった」

「ありがとうございます」


 動きは小さいが、いちいち言葉が大げさだ。

 まあ、敵意を抱かれるよりは断然良いので、気にしないでおこう。



「皆、待たせたな」


 そこで、とうとう今回の主役が部屋に顔を出した。

 フローラを隣につれて現れたのは、雫──魔王様だ。


 それを見てルイはすぐさま地面に膝を付き、頭を垂れる。

 続いて、隻眼の魔族とエリスもそれに従った。


 赤龍とルリ、俺はそのままだ。

 実の妹に頭を下げる意味もない。


「まずは、集まってくれたことに感謝する。忙しい中、ありがとう」

「いえ、魔王様がお呼びとあらば、どこへでも馳せ参じます」


 雫の言葉に代表して答えるのはルイだ。

 その間も、頭を上げることはしなかった。


 雫は部屋に入ると、真っ直ぐと奥の席へと向かっていく。

 大きなテーブルを囲うように座っている俺たちの椅子と比べて、一段と禍々しさのある代物だ。

 今度、それは雫の趣味なのか問い詰めてやりたい。


 雫が椅子に到達すると、フローラがその椅子を引き、雫が座った。

 メイドと魔王様、なのだが、メイドとお嬢様にしか見えない絵面だった。


「皆、座ってくれて良い」


 雫が椅子に座り指示を出して、ようやく彼らは自席に戻る。

 主よりも先に椅子に座らない──忠臣とはそういうものなのだろう。


「さて、今回の招集は他でもない、現在起こっている内乱に関する作戦会議となる」


 雫がハンドサインを出すと、フローラは流れるような仕草でテーブルに巨大な地図を敷いていく。

 人族領域は描かれていない、純粋な魔族領域だけの地図だ。


 図書館で地図は見たことがあったが、やはり魔族領域の詳細は書かれていなかった。

 それに比べて、人族領域が省略されていることも相まって、この地図にはかなり詳しく書かれていた。


 人族領域は、大陸の南半分に当たる。

 つまり、魔族領域は北半分だ。


 そして、魔王城は魔族領域の中央に位置している。その北側には魔都ガルヘイアがあった。

 ガルヘイアが魔王城より北にあるのは、人間が攻め入って来た時に魔王城を盾とするためだろう。魔王がその力を持って魔族を守っているからこそ、人族と違い煩わしい貴族制度もないのだ。

 会議にシンプルなメンバーしかいないことから、俺が得た結論だった。


「まず、地図を見て欲しい。魔族領域の詳細な地図だが、所々赤くマークがされているな。これが内乱軍の主な拠点となる」


 魔王口調というか、偉そうに話す雫だったが、童顔で声も可愛らしいこともあり、威厳は欠片も感じない。

 それでも魔王としての権威を持つのだから、やはり強いのだろう。


「そして、戦の場所として指定されたのが、青くマークされている場所──アルテリオ平原だ」


 赤いマークは点在していた。

 とはいえ、合計で7つほどだ。

 ガルヘイアから見て、西に4つ、北に1つ、東に2つとなっている。


 しかし、ガルヘイアを戦の場にする気はないらしい。

 挟撃できそうな位置取りではあるのだが、戦の場として指定されているアルテリオ平原は、ガルヘイアの西に位置する広い平原だ。

 およそ、ガルヘイアは綺麗な状態で手に入れたいとか、そんなことだろう。


 魔族領域の中心にあり、地図で見てもかなり巨大なガルヘイアは、どう見ても魔族たちの中心の地だ。

 他にも中規模の街は点在しているものの、やはりガルヘイアほどの規模はなかった。

 魔王の交代を求めているだけあって、魔王城とガルヘイアは必要だと、そういうわけだ。


───戦の場を指定されても、か。


 戦の場はアルテリオ平原ではあるのだが、内乱軍の拠点はガルヘイアを囲むように存在しているのだ。

 全軍を西側──アルテリオ平原に集結させるわけにもいかない。

 ある程度はガルヘイアの警戒をしなくてはならないのが、魔王軍の不利な点だった。


「ちなみにこれは魔王軍の特殊部隊で調べた情報だ。間違いはないな?」

「はっ。ございません」


 体裁だろうが、雫はルイにあえて確認をした。

 ルイがそれに頷くと、話を再開する。


「そして、既にアルテリオ平原では小規模な戦が始まっている。参謀に指揮を任せているが、どうやら情報によると向こうは1000の兵を導入してきたらしい」

「……はい? 魔王様、今千と仰いました?」

「ああ、聞き間違いではないぞ、宰相よ」


 隻眼の魔族がついといった感じで口を開く。


「お前の言いたいことは分かる。あまりにも多すぎる、と」

「こちらはおよそ200ほどでは?」

「そのとおりだ」


 小競り合いということもあって、投入する戦力は少なめの小手調べが定石。

 こちらは軍の約5%である200の兵を使ったにも関わらず、向こうは1000の兵を使ってきた。


 戦争の前哨戦には細かいルールはない。

 しかし、前もって互いの戦力の一部を知ることで、作戦の修正を行おうという魂胆なのだ。

 なので、失っても痛くない戦力だけを使うことが多い。それにも関わらず、1000という、魔族にしては莫大な戦力を投入した。


───魔族の3割以上が内乱側とか? 後は、前哨戦に掟破りの勝利狙いとか……。


 前哨戦で勝っても旨味はないはず。ぶっちゃけ、目的が分からなかった。


 だからこそ、宰相と呼ばれた隻眼の魔族も声を荒げたのだろう。何を考えているんだと、そう言いたくなってもおかしくない。


「前哨戦については、随時現場から報告が上がるだろう。今共有しておくべきは、各拠点を統べる魔族についてだ」


 相手の親玉の情報の共有というわけだ。

 内乱軍というだけあって、やはりリーダー格は何人かいる様子。拠点7個はそれぞれが中規模な街だし、そこを治めていた魔族が手を組んだと予想できた。


 ちなみに、魔族領域に街は他にもあるが、そこは内乱の意思を確認できていないらしい。とはいえ、魔王軍に従軍するわけでもないので、勝者に従うという魔族らしいスタンスを取っているのだろう。


「東の者から、1つずつ紹介していく」


 そう言うと、雫は紹介を始めた。

 長くなったので2話に分けました。

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