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第29話 教皇と勇者

 教皇の部屋だと言われ、礼拝堂の奥にある1つの部屋に案内された桃原愛美(モモハラアミ)


 ラテラは部屋に入ることは許されないらしく、ここからは桃原愛美(モモハラアミ)一人で行ってほしいとのことだった。


 それは全然構わないため、ラテラに礼を述べ、桃原愛美(モモハラアミ)は部屋の扉へと手をかける。


 ドアノブを回し、扉を開け、そのまま部屋の中へと入った。


「お待ちしておりました。桃原愛美(モモハラアミ)さん」


 そこに居たのは、一人の男。

 優しそうな印象を与える穏やかな顔立ちをした、青髪の男だ。

 身に纏う白と金で織られた祭服は重厚なもので、見るだけで相当な価値の付くものであることが分かる。それのみならず、強力な装備として機能しているに違いない。


 印象通り、物腰も穏やかだ。

 それが教皇としての仮面なのかはともかく。

 話に聞いていた”ヘアシャー”の教皇であることは、間違い無かった。


「お呼び下さりありがとうございます、教皇様」


 聖女としての仮面を被る桃原愛美(モモハラアミ)

 彼女もまた、一人の聖職者として相応しい態度を見せていた。


「とりあえず掛けてください」


 教皇に言われるまま、桃原愛美(モモハラアミ)は向かいの席に座ることにする。

 一人用の椅子ではあるが、幅は広く、ふかふかとしたソファのような座り心地だ。

 さすが教会の最高権力者なだけあり、財力に果てはないのだろう。


「ご足労感謝します、桃原愛美モモハラアミさん。本日はお日柄も良く…と言いたいところですが、異世界人は形式を好まないご様子。早速本題に入らせていただこうかと思うのですが、よろしいですか?」

「はい。是非お願いします」


 面倒な形式が無いだけ、桃原愛美(モモハラアミ)から見た彼の評価は既に高い。

 異世界人についての常識を身に着けて来ているところ、彼の性格の周到さが見られる。


「女神様よりお話は聞いているかもしれませんが──民を導き、打倒魔王への意識を高めなくてはなりません」

「はい、聞いております」


 駿河屋光輝(スルガヤコウキ)の死に対するカバーである、と認識している。


「具体的には──スピーチです。民衆の前でスピーチをして頂きたいのです」

「ヘイトスピーチですね。かしこまりました」


 あまりにも察しが良すぎる桃原愛美(モモハラアミ)と、それに驚く教皇。

 ヘイトスピーチを請け負いそうな印象が無かっため、色々と用意していたのだが…、その全ては杞憂で終わりそうだ。


「えー、と。他には何かありましたか?」

「あ、いえ…。後は一応顔合わせだけしておけとの事でして…」


 なぜか会話のペースを握る勇者。

 気の弱いヘアシャーが原因であるが、それはともかく。


 桃原愛美(モモハラアミ)にとって、スピーチというのは得意分野であった。

 なにせ、学級委員という仕事を続けてきた身だったのだ。

 クラスメイトの様々な意見をまとめあげ、一つの方向へと向かせる。

 それは彼女にとっては慣れたことであり、それがクラスメイトなのか異世界人なのかの差でしかなかった。


 ゆえに、躊躇することもなかったのだが。

 それがかえって不気味に見えたのかもしれない。

 心の中で反省する。


「顔合わせと言っても特にすることがありませんから……。スピーチの方は女神様より聞いていますし、内容も概ね考えてありますのでご安心を」

「え、えぇ。さすがは勇者様です……」


───あれ?仕事ができるのって優秀な印象じゃないの?


 と、桃原愛美(モモハラアミ)の内心はそんなところ。

 想像していた反応が得られず、少し失敗を感じる。

 もしかしたら彼が変なのかもしれない。

 実際、家族も友達も先生も、桃原愛美(モモハラアミ)の手際の良さに嫌な顔をする人はいなかったわけだ。


 まぁいいか、と割り切る。

 ここで彼を諌めることもできないし、勝手にこっちで解釈しておけば良いだろうということだ。


 もっと話すことがある気もするが、桃原愛美(モモハラアミ)は彼女の目的にしか興味はない。

 あまり関わっても利益が降ってきそうな人物ではないし、今のところは女神で十分。

 だったら早く自由な時間がほしいという本音まである。


───早く帰りたいんだよねー。


 そんな気持ちが教皇にも通じたのか、ちょっとずつ退室ムーブを見せてるように思えた。



 が。

 その時。

 本当に、何の脈絡もなく。



 ドゴォォォンッ



 と、けたたましい轟音が響いた。

 腹に直接響き渡るような音のせいで、脳が揺れているような錯覚を覚える。


───な……、に?


 何か事件が起こったことは理解できた。

 教会付近では無さそうだ。

 音はどこか遠い感じがする。


 ふと目の前の教皇を見れば、険しい顔をしていた。


桃原愛美(モモハラアミ)様、心当たりは?」

「残念ながらありません。どうされますか?」


 彼も何かの計画だと思いたかったのだろう。

 だが、桃原愛美(モモハラアミ)とてそれは同じ。

 無情にも首を横に振り、すぐに否定してしまった。


「現場に向かってみますか?」


 教皇の提案。

 現場までは──およそ3分もあれば着くだろうか。


 ただ、今この部屋を出ることは正しいのか。


 何が起きているのかは分からないが、何者かによる襲撃──少なくとも悪意が絡んでいることは間違いない。

 先日の駿河屋光輝(スルガヤコウキ)の暗殺もある。

 とても無関係だとは思えないのが正直な考えだ。


 であれば、狙いは勇者かもしれない。

 そんな中、自分がのこのこと姿を表すのは──あまりにも危険すぎる。

 むしろ、ある程度の安全──数多の聖職者によって守られている──があるこの場に留まり続けるのが最適だろう。


 これが、桃原愛美(モモハラアミ)の出した答えであった。


「いえ、留まりましょう。目的は勇者かもしれません。光輝くんの件もありますので…」


 そう言えば、教皇もすぐに納得したようで、


「分かりました。ではしばらく待ってみましょうか」


 と、返事をしてくれた。


 状況が確認できれば、誰かしらは知らせにくるだろう。


 教会の、特に教皇がいる部屋は防音性も高いはずなのだが、それを貫通するほどの音とは何なのだろうか。


 そんな疑問もすぐに解決することになる。


 部屋のドアが忙しなくノックされ、報告に来た神官は言った。


 「始まりの獣(ラストビースト)の襲撃です…!」と。

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