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女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇  作者: 騙道みりあ
第6章 女神にまで「無能」と言われた俺が
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第182話 謀略

 止まった時間が、動き出す。


「<零度(フリーズ)>」


 はじめに動いたのは雫だった。

 その剣に特殊な効果が施されているためか、はたまた疲れが溜まっていることもあってか、攻撃を無効化することが出来ていない。回復も追いついていないようで、一先ずは自身を覆うように氷を生成した。


 所謂、コールドスリープ状態だ。

 一旦死までの時間を引き延ばす。そうして、俺たちが冷静になった時に助けてくれればいい、そういう魂胆だろう。


「…………」

「───ッ!」


 それに合わせて、次に動いたのは紫怨と総帥。

 <零度(フリーズ)>を見て咄嗟に雫から距離を取った紫怨。彼の指に付けられている指輪が、青白い光を発した。


 それと同時に、総帥も動き始めている。

 空間魔法で取り出した刀を手に、床を蹴って紫怨目掛けて移動する。<縮地>も併用してのことか、その動きは目で追うことがやっとなほどだ。



 紫怨が地面を蹴った、ダッ──という音。

 総帥が地面を蹴った、タッ──という音。


 それらが同時に響き、二人の視線は交錯する。

 青白い光に包まれた紫怨に、総帥の刀は容赦なく振るわれ───。


「───」


 しかし、それは空を切った。


 青白い光──既視感のあるそれの正体は、転移魔法の前触れだったわけだ。

 間一髪、魔法の発動が間に合ったおかげで、総帥の攻撃から紫怨は逃れた。転移先はこの空間ではなく、遠くへ逃げたことは容易に想像できる。


 二人の刹那的な駆け引きの後、ようやく動き出すのは他の面子だ。

 かくいう俺もその一人であった。他のステータスよりも頭一つ抜けて高いINTのおかげで状況こそ整理出来ていたが、体が追いつくには若干のラグがあるのだ。


 努めて冷静に、今何をすべきかを考える。

 雫の様子など、素人である俺が見てどうにか出来るものではない。それは他の魔族に任せれば良い。


 では、紫怨を追うか。

 その必要もないと踏んでいる。紫怨が魔王を殺そうと企てる理由はないのだ。紫怨とタクトとの接触は確定している以上、紫怨の目的に魔王の殺害があるとは思えない。


 となると───


───女神……


 支配能力によって操られていた紫怨が、雫の命を狙った。直前に女神に会いに行っていたようだし、それが一番納得の行く答えだ。


 女神が魔王を狙う理由は言うまでもない。

 そのための駒として、スパイ的な役割で紫怨を忍び込ませていた。本人にそのつもりはなかっただろうし、<支配(ドミネイト)>によってこう使われるとは考えてもいなかっただろう。


「追いなさ────」

「「「魔王さ────」」」


 紫怨の転移が完了した直後、総帥以外のメンバーも動き始める。

 雫の安否を確認するように、なにか動きを見せるわけではないが、皆の視線が雫に集中する。


 総帥だけは、配下に指示を出そうとしていた。

 雫をどうにかする、それよりも先に主犯を捕まえようという魂胆だろう。

 さすが総帥、冷静な判断だ。


 しかし、そうして動き出した全員の動きが止まる。

 まるで何か恐ろしいものを見たかのように、場には緊張が走った。


───さて……。


 妹が死にかけている状態にしては、酷く冷静だった。

 この事態を予測できていた──そんなわけがない。全くの予想外の出来事だし、雫を心配に思う気持ちは強い。


 ただ、それ以上に。

 大切な家族に手を出した、女神に対する怒りが募っていく。



>固有スキル<生殺与奪>のスキルレベルをLv7からLv■に変更



───どうするかな。



 紫怨の転移を見る限り、準備は入念だった。つまり、これから紫怨を探そうとするのは難しいだろう。

 はじめから殺すつもりで来ていたのであれば、追跡への対策も考えてきているはずだ。


 むしろ、紫怨の追跡に時間を使わせる──それこそが女神の目的のように見える。

 このタイミングで魔王を狙ってきたということは、女神サイドの動く準備が完了しているということなのだから。


「……兄上、様……?」


 紫怨の迎撃のために玉座付近まで移動していた総帥が、おそるおそるといった様子で俺に声を掛ける。


 なぜそこまで畏まっているのだろう? と疑問を一瞬抱いたが、魔王が機能を停止している今、臨時でその兄である俺に指示を仰いでいるのだと理解する。

 総帥にしては珍しく声に不安が宿っているのも、こんなことが初めてだからに違いない。


「あぁ、魔夜中紫怨を追う必要はない。黒幕は女神ベールだ。まずは女神が動き始めたことを警戒するように。魔王城──ガルヘイアの警備レベルを最大まで引き上げるように」

「はっ、かしこまりました。追跡は本当にしなくても良いのでしょうか?」

「考えてみろ、満を持して魔王に直接襲撃を仕掛けてきたんだぞ? 追跡対策は万全に決まっている。人員を割くのは無駄だ。それより、女神本体を攻める」

「承知致しまし───……女神を攻める、ですか?」


 やけにしどろもどろな総帥を傍目に、考える。

 女神は今を攻め時と見ているのか、それとも魔族に攻め入る以外の動きを見せるつもりなのか。


 どちらもあり得る。

 魔王を殺しにかかったからと言って、女神側のガードが緩くなるとは限らないということだ。


 であれば、女神の配下への対処も考える必要がある。誰かお供させるべきかもしれない。

 ルリが居れば頼むところだが、生憎彼女は休憩中。


 ベルゼブブやパンドラを召喚するのには魔力を消費するし、俺への攻撃で召喚が解除される可能性もあるために却下だ。


「総帥、付いてくるように。女神の屋敷に攻め入る。その他の魔族は防衛を強化しろ。参謀、宰相が中心となって行え」

「「はっ」」

「かしこまりました」


 一先ずは、これで良い。

 雫を放置して行くのは気が引けるが、俺一人ここに残る意味もない。

 それに何より──今すぐにでも女神は殺してやりたい。


「行くぞ」


 総帥の返事を聞くよりも早く、俺は魔法陣を展開する。

 <長距離転移(ヴェルテレポート)>、転移の魔法だ。当然、<暴食>の効果で強化されているものであり、通常の<長距離転移(ヴェルテレポート)>よりも魔力効率が良い。


 目指す場所は、王都の外れにある女神の屋敷。

 何度か転移を繰り返し、出来る限り近づく。総帥は少し遅れてついてきているようだ。


───流石に結界はあるか。


 何度か転移を繰り返して屋敷に近付くも、転移で移動できる範囲には限りがある。

 転移による侵入を防ぐような結界があるのだ。女神であれば当然、その程度の対策をしていることは想定通りではあるのだが……。


───思ったよりも近付けたな。


 どちらかというと、ここまで転移が許されたことに驚いていた。

 もっと遠くから──それこそ、王都付近から転移に対策を掛けているとばかり考えていたためだ。


「遅れました」

「ああ」


 これを罠だと考えなければ、想定外だが決して悪いことではない。

 既に女神の屋敷は目に入る距離まで近付いている。走って行こうと大した時間は掛からないだろう。



 ただ───


「バレてるか」

「どうやらそのようです」


 ここまで接近すれば、流石に女神には気付かれてしまっている。

 その証拠に、俺たちの正面には、行く手を阻むように少女が一人立っていた。


 簡単に通してくれるはずがない。そのために総帥を連れてきたのだから、これも想定通りといえば想定通りだ。


「…………」


 金髪碧眼の少女。同郷の勇者ではない。

 耳が長いのは種族的な問題か。エルフとか、その辺りだろう。

 何より、神秘的な雰囲気を感じる。かつて相まみえた天使と似たようなものだ。


 それを鑑みると、女神の手駒であることに間違いはない。かの天使よりもピリピリとした緊張感を覚えるのは、それ以上の強者故か。


「総帥、ここは任せる」

「はい、かしこまりました。お気を付けて」

「ああ。……危なくなったら逃げろ」


 いつの間に抜刀している総帥を傍目に、俺は少女の横を駆け抜ける。

 何らかの妨害を行ってくることも警戒していたが、俺に構っていてはその隙を総帥に狙われると考えたか、視線は総帥に固定されていた。


 何の妨げもないまま、俺は女神の屋敷に向かって走る。

 ここから女神の屋敷までは1キロもない目算だ。到達に1分は掛からないだろう。


───一人なわけもないよな。


 なんてことを思っていたからか、またもや前方に敵が見える。

 今度は少年──タイミングを考えても、女神の手駒に違いない。


「あはは、ごめんね。ここから先は通れないんだ」

「…………」


 魔王城の警備より、もっと人員を連れてくるべきだったかと今更ながら後悔する。

 エルフの少女に総帥を切ってしまった以上、この少年は俺自身の手でなんとかしなくてはならない。


 面倒だ。


「と思いましたねぇ? えぇ、拙にお任せください」

「──パンドラか」

「はい、はい。コレは拙が処理しておきますので、気にせず先へとお進みくださいねぇ」


 任せていいものか? と思ったが、パンドラの召喚に魔力を使っていないことに気が付いた。

 魔力的な問題にならないのであれば、この場はパンドラに任せても良さそうだ。


「分かった。頼んだ」

「ねぇ、なんで僕を無視するのかなぁ?」

「えぇ、拙に頼ってください!」


 少年の横を駆け抜け、女神の屋敷を目指す。

 何か言いたげな少年が俺の方に視線を向けてきたが、パンドラが牽制してくれたようで、攻撃されることはなかった。


 屋敷は目と鼻の先──俺は全力でそこを目指すのだ。





・     ・     ・





 王都外れ。

 女神の屋敷にある執務室にて、彼女はコーヒーを嗜んでいた。

 この世界の権力者──富裕層が嗜む飲料といえば紅茶が主流なのだが、女神はコーヒーも好んで飲む。カフェイン中毒というわけではないはずだ。


 机を挟んで、女神の前には一人の少女が佇んでいる。

 瞳に意思は宿っていない。ただ女神の命令を待機しているような機械じみた印象を受ける。


「どうかしましたか? リリアさん」


 そんな少女がピクリと動いたのを見て、女神は問い掛ける。

 機械じみた、と言ったが、決して機械ではないのだ。肉体、魔力、魂の3つが揃ったれっきとした生物である。

 振る舞いが機械じみているだけであり、何かがあればこのように反応も示す。逆に言えば、反応を示すということは何かがあったということに他ならない。


「侵入者です。魔王軍の総帥と、例の勇者……枷月葵(カサラギアオイ)が現れました」

「──はい? なんと?」

「魔王軍の総帥と枷月葵が現れました」

「……? なぜですか?」

「なぜ、と言われても分かりかねますが、事実です」


 思考が止まる。


 魔王軍の総帥と枷月葵。二人の接点があることはどうでもよく、なぜ今ここに攻めてきたのかが分からない。

 こちらの戦力が分散しているタイミングでもないのだ。


───いや、それよりも……


「ユーフィリアさんはどうしていますか? 今日は警備に当たっていたはずですが」

「ちょうど、魔王軍総帥と交戦しているところです」


 隠れ偲んでいるわけでもないらしい。

 ユーフィリアは対応できているし、魔王軍総帥は足止めできるようだ。


 であれば、枷月葵の対処をするだけで良い。陽動を思わせるほどに意味の分からない襲撃だった。


「ルークにも対応させてください」

「はい、分かりました」

「あなたはここにいるように。枷月葵がここまで来た場合、相手取って貰います」


 あまりにも急な報告に一瞬頭がフリーズしたが、大した問題ではない。

 この隙に魔王が襲撃してきている──とかなら大問題だが、それにしても対抗できるだけの戦力が揃っている。


───目的は何なのでしょう……?


 不可解な疑問を胸中に抱きつつも、女神ベールは侵入者の迎撃に駒を動かした。

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