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第156話 滅亡古代遺跡インテリタス(5)

 森を真っ直ぐと北に進んでいく。

 木々のせいで辺りがよく見えないということもあるが、そもそも雫の持つ探知能力がこの森では上手く活きなかった。

 戻ることまで考えると、複雑なルートを取った探索は賢い判断とは言えないというわけである。


 視界を邪魔する木々もやはり奇妙である。

 並べ方が常に等間隔であったり、色の順番が決まっているわけではない。

 しかし、俺たちから見た左と右で配置が全く同じなのだ。

 俺たちが森の中央を歩いていると仮定するならば、木々は対称なデザインで植えられているということになる。


 偶然かと思っていたが、筋は通っている。

 ここがダンジョンで転移ギミックも仕掛けられたものなのであれば、転移した場所より森に一直線に進めば中央から侵入できるものだろう。

 どんな意図があってかは不明だが、もしかしたらなにかのヒントになるかもしれないと心に留めておく。


「しかし、妙ですね」

「どうかしたのか?」


 先程から神妙な面持ちで何かを考えていた雫が、不意にそんなことを漏らす。


「<探知>のスキルは魔力の波長を感じ取るものです。あまり得意ではないのでレベルは低いですが、ここまで感じ取れないとなると探知への対策が取られていることになります」

「たしかに、言われてみれば魔力を少し感じにくいな」


 いつもは大気中に感じる魔力をそこまで感じない。

 魔力自体が薄いのかと思ったが、感じ方の方に影響が与えられていたようだ。


「それが妙なのか?」

「いえ、それはよくあるギミックですので、そこまで不思議ではないのです。……私の固有スキルは魂の知覚を可能とします。生物の魂を見ることで実質的に索敵が出来るのですが、それさえ機能していないのです」

「つまり?」

「私の固有スキルが封じられている様子はありません。魂を隠すような結界──もしくはこの場が異常としか考えられません」


 魂云々の話は分からないが、探知に関する結界があっても魂の索敵は行えるのが普通なのだろう。

 となると、このダンジョンはそれさえ封じてきているのか、はたまた森の中で魂に異常が発生してるのか。


───そういえばこの木は支配出来るのか?


「<支配(ドミネイト)>」


 ふと気になってスキルを使ってみるも、結果は失敗。


 木は生物ではない。つまり、木ではなく木型の建造物だ。

 植えられている、ではなく、建てられている、に近い。


「どうしました?」

「特にこれってことはないが、この木は生物ではないらしい。それがこの話と関係あるかは不明だが……」


 幾何的に植えられていることも、幾何的に建てられていることも、大きな違いはない。

 人工的な配置の可能性が更に高く──もはや確実になったというだけだ。


「うーん……。なんらかの意味があって設置している可能性は高まるのですが、例えばただ人工的に森を作りたかった場合、手入れの必要がないという意味では合理的でもありますから……」


 どちらとも言えないよね、というのが雫の言い分だった。

 というよりは、現状魔術的な効果を感じない木々に意味を見い出せなかったのだろう。


「どちらにせよ、進むしかないな」

「そうですね」


 何の手掛かりもない以上、愚直に進むしかないのが現状だ。


 そんなことはお互いに理解している。

 森の中を歩くのにも慣れてきて、進む速度は段々と早足になっていってるほどだ。


───ん?


 木々の隙間を飛ぶように移動していると、前方に今までとは違う差し込み方をする光が見え始める。


「雫、ストップ」

「ですね」


 森に入った時のようにスムーズに停止した俺と雫。

 差し込む光は強くなっている。つまり、森はこの先で開けているのだ。


 先程出会った謎の部族を考えると、もしかしたら彼らの棲家があるのかもしれない。

 言語が通じず急に襲ってくるような野蛮な種族が相手だ。慎重にいくのは当然である。



 予想通り、10メートルほど先の木で森は終わっていた。

 忍び足でその木の裏まで移動し、息を潜めて森の先を見る。


「……まあ、そうだよな」


 もしかしたらこの奇妙な森の出口なのでは……なんて希望を抱いていた自分が馬鹿馬鹿しい。

 謎の部族の集落が周辺にあるであろうことは、簡単に推測できたことだ。


「想像より広いですね」

「たしかに」


 森の先に広がっていたのは集落だった。

 森を抜けた先──というよりは、森の一部の木を伐採してスペースを作っているようだ。


 しかし、予想を遥かに超える規模だ。

 文化レベルは低く、家々の程度は低いのだが、それにしてもいかんせん大規模だ。

 4、500人は住人がいるのではなかろうか。


「どうしますか? 交渉でもしてみますか?」


 雫が視線を向ける先には、小人族の族長と思われる人物がいた。

 奇妙な仮面を被っている点は同じなのだが、サイズが他の住民とは桁違いだ。身長は3メートル近くあるだろう。


 一際目立っているということもあるのだが、明らかに特別な椅子に座していた。安っぽいが、玉座のようなものだ。


 腰掛けていても2メートル以上は感じられる威圧感。周りが小人ばかりなこともあり、異常だ。


───何かの儀式か?


 その椅子の周りに、数百人の小人たちが群がっている。

 小人たちは平服しているようにも見えるが──小さくてよく見えなかった。


「■■■っ!」

「■■■■」

「■■!」


 何かを話しているのは聞こえるが、距離が遠くて上手く聞こえない。

 ただ、族長と周りの小人たちが会話をしていることは分かった。


 族長の座る椅子の正面にいた小人が、地面から何かを持ち上げて族長に差し出す。


───なんだ……?


 茶色い物体だ。


 よく目を凝らして見てみる。

 遠目からでは茶色という情報しか得られなかったが、だんだん視界が慣れてくるとその物体の正体が分かってきた。



 鹿だった。


 四肢は縄で縛られているが、生きている。暴れるように全身を捻っているのが見て取れた。


───食用か?


「■■■■」


 族長の言葉に合わせて、小人たちが椅子に座る族長の手まで鹿を運ぶ。

 なんとか抵抗する鹿ではあるのだが、縛られていてはどうしようもない。

 口さえ開かせてもらえず、声にならない声を上げながら、なんとか必死の抵抗を試みる。


 しかし、現実は非情。力なき者には覆せない結果がある。

 身長通りの怪力を発揮する族長は、片手で楽々と鹿を持ち上げる。首を締め上げるように持ち上げているせいで息が出来ないのだろう、鹿の暴れ方はより激しいものへとなった。


「■■■」


 空いている左手を、生きた鹿の腹にねじ込む。

 想像を絶する痛みに違いない。口の開けないはずの鹿の絶叫が響き渡り、身を捩る様は打ち上げられた魚のようだ。


「■■ッ!!!」

「■■■!」

「■■■■っっ!!!」


 その様子を見て、周りの小人たちは歓喜したように踊りだす。

 その状況を喜ぶように、族長の金色の仮面の口が釣り上がった。


 それで満足したかと思えば、今度は鹿の腹の中から内臓を引きずり出し、腕を上げて示して見せる。


「■■■ッ!!!」

「■■■■■ッ!!!」


 その行為は更に小人たちを歓喜に陥れたようだ。


 鹿は絶命したのか、それとも抵抗する気力を失ってしまったのか、ぐったりとしている。


───(おぞま)しい。


「兄さん」

「ん? ああ、雫。どうした?」

「焼き払いますね」


 ニコッと俺に微笑み、なんだか怖いことを言い出す雫。

 目の笑っていないその笑顔が怖すぎて、「あ、はい」としか言えなかった自分に説教をしたい。──いや、こればかりは仕方ないだろう。


 隣で木に潜んでいた雫は、堂々と立って魔法を詠唱し始める。

 纏う魔力が恐ろしい。漆黒の粒子が雫の周囲で浮遊している。



「<範囲拡大・誕焔神之怒(クトゥグア)>」



 莫大な魔力を消費して、雫の怒りのままに放たれた魔法。


 音もなく集落を囲むように炎の壁が立ったかと思えば、次の瞬間には壁の内部全てが炎上していた。

 地獄の業火だ。集落に住む小人たちにとって、それを知覚せずに死ねたのは運が良かっただろう。



 結果から言おう。


 集落内部にあるモノすべてが、焼き尽くされた。

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