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第126話 それぞれの戦い(2)

 参謀と赤龍によって状況が伝えられると、総帥はすぐさまコリンへと向かった。

 あの様子ならばすぐに着くだろうと一先ずの安心を得て、彼らは土龍の元へ向かう道中であった。


「……それで、赤龍サマはどう見てるのかね?」「どうもこうも、なるようになると思っているだけだ」


 もちろん、道案内は参謀の役目。

 赤龍と言えど、いや、赤龍だからこそ、同じ龍仲間の居場所など知らないのである。この適当さこそ、赤龍の赤龍たる所以だろう。


 逆に、参謀は抜かりない。一見適当そうな性格をしている彼だが、優秀な参謀というだけあるというわけだ。


 そんな参謀が赤龍に問うたのには、理由があった。


「理由があると思ったのだが……。聞き方を変えようか。どう思っているんだね? アルヴァ」


 赤龍の名前──アルヴァという言葉に反応し、彼の肩がピクリと動く。

 仕事中──いや、魔王城にいる時でさえ、赤龍と呼ぶのが普通の存在だ。

 今、敢えて「アルヴァ」 と呼んだということは────


「根拠はなんだ?」

「ふむ……。あの双龍を連れていないではないか。君にしては珍しいと思ったのだよ」


 「言われてみれば……」と赤龍は思う。彼がアルトゥラを連れてこなかったことには理由があるのだが──それに気付くのが流石参謀といったところなのだろう。


 何をするにも基本アルトゥラを連れている。それは、アルトゥラが居ないと不便が多いからだ。

 実際、今だって道を全く分かっていない。


 それでも今回はアルトゥラを連れてきていない。参謀から見れば、不自然この上ないということだ。


「……どう見ているか、だったな。十中八九、戦いになるだろう」

「やはり、そう思うかね?」

「やはりということは、貴様もか?」


 赤龍の問いに対し、参謀はわざとらしく大袈裟に頷く。


「尤も、勘でしかないがね。同族の君が感じるならば、それも正しいだろうとも」


 カハハ、といつも通りの笑いを上げる参謀だが、内心はどうか。

 赤龍としては、正直参謀もつれてきたくなかった。というのも、魔力が枯渇していて本調子ではない彼を戦いに巻き込みたくないからだ。


 ただ、彼が居なければ土龍の元に辿り着けないというだけで。魔王が直々に命令したにだから、土龍と戦いになることも気付いての命だったはずだ。


 アルトゥラの戦闘力には目を見張るものがあるが、やはり土龍には相性が悪い。だったら参謀の方がマシと思ったのだが────


───やはり、少しまずいか。


 いつもより、キレがないように感じるのは気のせいだろうか。

 あまり、そうは思いたくないものだが……。


「無理はするな。我だけでもなんとかなる」

「……我儘な赤龍サマらしくないセリフではないか。なに、私も君一人だと不安でね。この私を不安にさせるとは、赤龍サマも中々ではないか!」


 今度は腕を広げて宣言する参謀。

 無理をしているとは思わない──が、常に芝居ががった男であるために、判断に困るところだ。


───まあ、本人が良いならばそれで……。


 赤龍には参謀の感情など分からない。うん、無理だ。と諦めた彼は、素直に彼の同行を受け入れることにした。


「それで、どこを目指せば良いのだ?」

「カハハ……! なに、着いてきてくれたまえ!」


 そんな、意外にも相性の良い2人の土龍交渉(?)が幕を開けた。


 とはいえ、大冒険になるはずもなく、魔族として高位の彼らにとっては移動など些細なことである。

 しかし、問題というのは直ぐに起こるものなのである。





・     ・     ・





 参謀に、赤龍。この2人が揃っていて、事がスムーズに運ぶはずがないのである。


 片やトラブルメーカー。片や綱渡り職人。問題を起こし、考え得る限り最悪の状況まで持っていく2人組と言えるだろう。



 お察しの通り、辿り着いた先、土龍の巣食う洞窟の手前にて、彼らは問題に()()した。

 それも、その時点からかなり面倒な類の問題である。


「……カハハ…………。いやはや、赤龍サマ……。まさか、だとは思わんかね?」

「……そうだな。我もこれは予想外である」


 遭遇とは文字通り、本当に出会ってしまったのだ。


 桜色の綺麗に切り揃えられた髪。ザ・大和撫子を思わせる顔立ち──尤も、彼らは大和撫子という概念を知らないのだが──の女、勇者北条海春(ホクジョウミハル)である。


「はじめまして。赤龍様、魔王軍参謀様とお見受けします」


 目の前の少女の対応は非常に丁寧であるが、溢れ出る敵意が隠しきれていない。取り繕った行動で戦意がないと判断するほど、赤龍たちは愚かではなかった。


 穏やかで、落ち着いた抑揚。一見──一聞して清廉な美少女に見えるのだが、内側に隠している牙は凄まじいものだ。それを彼らは見抜いていた。



 今まで行動が不透明だった北条海春だが、彼女も女神の配下──支配下にあることは疑いようのない事実だ。

 命じられれば女神のために動く。勇者も少なくなってきた為に、女神からの特別ボーナスも与えられていた。今の彼女は当時の最強勇者──空梅雨茜よりも強いのだ。


 経緯は兎も角、対面する赤龍、参謀と北条海春。

 北条海春は手に持つ短杖を掲げるようにしながら、口を開いた。


「無言は肯定と受け取ります。非常に残念ですが、私は今、あなたたちと戦うつもりはありません」


 本人にはそんな気がないのかもしれないが、それでも敵意を隠し通すのは難しいものだ。

 北条海春の言葉を信頼せず、僅かに感じる殺意で読み取る。「戦うつもりがない」という言葉が嘘であることも見抜けた。


「では、我らになんの要件だ?」

「いえ、ほんの言葉遊びです。私()戦う気がないというだけのこと。代わりを用意させて頂きました」

「代わり……?」


 訝しむように周りを見るのは、参謀も同じだ。

 特に変わった存在がいるということもないが────。


「下だッ!!!」

「うおっ!?」


 参謀にしては珍しい叫び声に反応して、赤龍も大きく跳び上がる。


「ウウォオオオオォォォォオオオッッッ!!!」


 地面の中から現れたのは、巨龍の頭。警戒していた土龍のものだ。


 やはり大きい。龍の中で最大級のレベルだ。

 それ故に、他の龍種との戦いではアドバンテージがある。龍種同士の本気の戦いでは、大きさはステータスなのだ。



 下から赤龍と参謀を丸呑みしようとする土龍の顎を避け、離れた位置に2人は着地する。


「いやはや、やはりデカイな!」

「ふむ……。<巨炎熱球(グレイズ)>」


 負けじと巨大な炎球を放つ赤龍。

 しかし、炎球が土龍に当たろうと、それを気にする様子はない。


 ふと、北条海春を探すも、姿はなかった。逃げたか、どこかに隠れているのだろう。


 土龍の瞳がジロリと動き、赤龍を捉える。


「ウォオオオオオッッッ!!!」


 なにか仕掛けて来るかと思えば、叫びながら地面へと帰っていった。シュールだが、それは言わないお約束だろう。


 こうなった土龍は厄介だ。

 土竜もだが、地面の中にいるときは魔力が希薄になり、見つけるのが困難になる。


「来るぞ!」


 参謀は巻き込まれないためか、遠くに離れている。赤龍としても、彼を守りながら戦うのは本意ではない。それを読み取ってのことかもしれない。


 そんな参謀は、確実なタイミングで指示を出してくれる。

 あとは、そのタイミングに合わせて跳び上がるだけだ。


「ふんっ!」


 赤龍は地面を思い切り蹴り、高く跳ぶ。

 その直後、地面が盛り上がったかと思えば、土龍の顎の登場だ。


「ウォアアアアッッ!!!」


 更には、口元に高密度なエネルギー──ブレスの予兆のおまけ付き。

 流石に同じ手は繰り返して来ないわけなのだが、厄介であった。


「<創造(クリエイト)>」


 それに対して、かなりの魔力を使って盾を作る。

 土龍のブレスには結界を無視する効果があるからだ。代わりに、物理的な貫通力は非常に低い。


 厚めの壁を作ってやれば、そこにブレスが飛んでくる。

 なんとも色に形容し難い光線が上にいる赤龍目掛けて放たれる。しかし、2匹の間にある壁が、それをすべて受け止めた。


「<火愚鎚炎(カグツチ)>!!」


 一応、上位の火魔法を使ってみる。

 上空から、土龍目掛けて炎の龍が迫る。普段ならば迫力のある<火愚鎚炎(カグツチ)>であるが、土龍スケールだと小さい。もはやミミズのようである。


 そんな<火愚鎚炎(カグツチ)>も全力で土龍にぶつかりにいくが、やはり気にする様子はない。第5階級の魔法──更には赤龍の得意とする火でも駄目らしい。


 致し方なしと、赤龍はまたもや離れた位置に着地する。


「やはり相性が悪い! どうにかならんのか! 参謀よ!」

「カハハ!! どうにもならん!!! と言いたいところだが、もう少し時間を稼いでくれたまえ!」


 参謀には何か考えがある、無策で彼が着いてくるわけがない、という謎の期待から、赤龍の作戦は時間稼ぎへと移行する。

 確かに土龍との相性は悪いが、時間稼ぎなら楽だ。尤も、一度のミスで死に繋がるのは言うまでもない。


「ウォオオオオオ!!!」


 土龍はまたもや、口元にエネルギーを溜めている。

 土中からの奇襲が意味がないということには気がついたのだろう。


 土龍だって赤龍と同じく、言葉も発せるし理性的な思考もできる。それでもブレスを連発するのは、<創造(クリエイト)>を使わせて魔力枯渇をねらっているためか。


 あの巨体ゆえの無尽蔵な魔力量のせいで、長期戦はジリ貧だ。


「<創造(クリエイト)>」


 それでも、赤龍は<創造(クリエイト)>を使わざるを得ない。

 放たれる破壊光線を防ぐべく、巨大な盾を作るのだが──


───やはり魔力量が多いな……。


 創造魔法ということもあり、ゴッソリ魔力を持ってかれる。惜しいが、惜しめば死ぬだけだ。


「<赤龍の吐息(ルージュ・ブレス)>」


 やられっぱなしなのもガラではない。

 防御に魔力を回す分温存したかったが、最高峰の一撃をお見舞いだ。


 流石にこれは効くだろうと放つ、真紅の光線。一直線に土龍へと向かっていく。


「ウァアアアァァァッッッ!!!」


 図体がデカイだけあり、避けることは叶わない。

 赤龍のブレスは土龍に直撃し、耳を(つんざ)くような雄叫びが響き渡った。


───これならば効くか。


 概ね予想通りだ。しかし、この使い方では耐久戦で敗北する。

 今使ったのは──ノリというやつだ。


「ウォァアアア…………!」


 懲りず、ブレスのチャージを開始しようとする土龍。


「<創造(クリエイト)>!!!」


 それに対して、魔力をごっそり使いながらも創造魔法で対抗していく──。


 そんなやり取りが続くだけ。強いて言うなれば、不利になっているのは赤龍の方、というだけ。


「チッ! 面倒な!!」

「ウォアアアアッッッ!!!」


「ああ、準備ができたとも! 赤龍サマよ!!」


 そんな時、とうとう──いや、実際にはあまり時間は経っていないのだが──参謀の準備は完了したらしい。


 振り向けば、巨大な魔法陣を展開する参謀の姿。土龍がそれに気が付かなかったわけがない──さすがは参謀といったところだ。隠蔽の技術に非常に優れている。



 逆転の一手が、放たれようとしていた。

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