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第116話 飛来した真紅鎧

 赤龍の言葉を信じて、エリスは遠くを見つめる。しかし、いくら目を凝らしても何も見えてこない。


「どこですか?」

「魔力で感じよ」


 エリスの能力が強化されたとはいえ、その使い方には慣れていない。

 急激に増えた魔力を上手に扱えないのも仕方がないことだ。


 ”魔力で感じる”という感覚がエリスにはまだ分からなかった。というのも、そもそも魔力による探知というのは高度な技術だからだ。


 しかも、ある程度の魔力保有量が要求される。自身の体内にある魔力量を”感じる”というのが第一段階になる。

 エリスの持つ魔力は元々少なく、体内の魔力を感じられるほどではなかった。それが急激に増えた今、魔力が多すぎて何が何だかわからない状態だろう。


 赤龍としても、もう少し慣れてから使い方は教えれば良いと思っていた。今は、魔力が増えたことにより強化された身体能力と雑に高位の魔法を使って戦えるだけで十分だ。


「アルトゥラ、エリスを守れ」

「かしこまりました」


 アルトゥラも同じ方向を眺めているので、エリスとしてはおふざけでないことは分かる。

 いつの間にか楽器を手に持っていたアルトゥラが、エリスの前に出るように移動していた。


「安らかに眠れ。龍の抱擁は慈恵の雨」


 透き通った美しい歌声と共に、展開される結界。

 エリスとアルトゥラを覆い守るように形成されていた。


「ふむ」


 未だ、エリスには何も見えていない。

 そんな中、赤龍は右腕を前に突き出し、魔法を放つように掌を向けている。

 先に何かがいるわけではない。斜め上を狙い撃ちするような姿勢だ。


「アルトゥラ様、────ッ!?」


 その瞬間だった。


 エリスの視界が真紅に染まる。

 あまりにも一瞬で、何が起きたか理解できなかった。しかし、これが何者かの攻撃で有ることは理解できる。


 遅れてくる、耳をつんざくような爆発音。

 視界を染め上げる真紅は一瞬で過ぎ去り、次には爆発で真っ白に染まる。


 それすらも瞬く間に過ぎ去り、あたりには直径30メートルほどのクレーターだけが出来ていた。


「な、なにが……」

「エリス、落ち着いてください」


 そのクレーターの中で、被害を受けていない箇所が2つ。

 1つはアルトゥラの結界によって守られていた場所。

 もう1つは赤龍の立っていた場所だ。


 赤龍の言っていたのはこれだろうと、エリスはここでようやく理解する。

 あり得ないほどの魔力光線が、何者かによって放たれていた。


「魔道具──では無かったか?」

「ハッ!」


 そして、その正体もすぐに分かった。

 赤龍が掌を向けていた方向に、今は”何か”が飛んでいる。

 フォルムだけ見れば、人形だ。男の声がしたことを考えるに、男ではあるのだろう。


 真紅の全身鎧のような見た目だった。

 顔も、手先も、その全てを覆っている。ここに転移者がいたのならば、それを「パワードスーツ」と呼んだであろう。


 鎧にしては可動範囲の広いものを身に着けている男は、赤龍を見下すようにしていた。

 彼からあの攻撃が放たれたことを考えると、エリスとしては恐怖を感じるほどだった。


 赤龍とアルトゥラこそ気付いていたが、自分一人ならば気づかぬ間に死んでいたに違いない。

 周りにできたクレーターを見て、身を震わせる。


「見ない鎧だな?」

「赤龍サマの知識にもないかァ! そりゃァ、そうだ。これはズーの最北端にある古代遺跡の最奥に眠っていた代物なんだからなァ!!」


 赤龍の見立てでは、身体能力の強化に加えて、いくつかの魔法・スキルが付随されている魔道具だ。

 ついでに、ズーという言葉から、内乱軍であることは確定だ。


「珍しいものだ。中々奮発したのだな」

「ハッ! 確実に倒すためよ! オレ様もいらねェとは言ったんだが、老害共は聞き入れねェからよォ!!」


 鎧の形状をした、こういった魔道具はいくつか存在する。

 しかし、身体能力の強化とスキルの付与。2つを取るせいで中途半端になりやすく、微妙な出来となることがほとんどだ。

 それに対して、目の前の魔道具は高度な技術で作られていた。古代遺跡の産物、というのも嘘ではあるまい。


「それは災難だったな」

「ハン! てなわけで殺させてもらうぜェ!!」


 先程魔力を使い過ぎたこともあり、アルトゥラは結界の維持を放棄する。

 疲れた様子のアルトゥラにエリスは寄り添うように走っていく。


「アルトゥラ様!」

「エリス、大丈夫です。それより、赤龍様の戦いを見守りましょう。得るものがあるはずですから」


 赤龍が負ける、とは少しも思っていないような言い回しだ。

 エリスとアルトゥラがそんな会話をしている中にも、彼らの戦いは幕を開けていた。


「ハァッ!!」


 はじめに動いたのは真紅鎧だ。

 空中に衝撃波が発生したかと思えば、彼は一瞬で赤龍の前まで迫っている。


 そのまま拳を握り、勢いを殺さぬように赤龍の顔面に殴りかかろうとするも──


「ふむ」


 ──避けられた。


 顔面という場所をピンポイントで狙うからだ。少し顔を傾けただけで、拳は宙を切ってしまった。


「まだまだァッッッ!!!」


 続いては、レーザー攻撃だ。

 真紅鎧が右腕を前に突き出すようにすれば、そこに魔力が集うのを感じる。


───特段、問題はないか。


 魔力を熱と光に変換して放つ仕組みだ。

 チャージはすぐに終わり、振り返った真紅鎧は赤龍目掛けて光線を放つ。


「終わりだァッ!!!」


 先程とは違い、一点に集中させているようだった。

 広範囲にしないことで、威力の分散は防げている。つまり、単純に先程より威力が高い。


 熱と光だけで、余計なものに変換しないために、魔力効率も良い。

 流石は古代遺跡から見つかった魔道具、といったところだろう。


 光線は一瞬で赤龍の体を飲み込んでいく。

 結界だとか、魔法だとか、そんなものよりも速い。光速で赤龍に迫る光線を、彼が避ける術はなかった。


「ハッ!!」

「なぜ、その程度で我を倒せると思ったのだ?」

「なッ!?」


 過ぎ去った光線の跡、地面は抉れている。

 その道中に立っていた赤龍もまた、消滅しているはずだった。


「魔法を使うような素振りはなかったはずだ!」

「ほう、良い目だ。たしかに我は魔法もスキルも使っておらぬ」

「では……なぜ生きている……!?」


 予定とは違い、生存している赤龍。その存在に、真紅鎧は動揺を隠せないでいた。

 簡単に赤龍を倒せるつもりだった、とか。赤龍が耐えられない前提だった、とか。そういう話ではない。


 直撃して無傷。スキルも魔法も使っていないのになぜ無傷なのか。それが理解できなかった。

 防いでいない証拠に、地面は抉れているのだ。彼の前後も、それは変わらない。


「次は我からゆくぞ」

「まッ!」

「<地獄の焔(ヘル・フレイム)>」


 赤き魔法陣をその手に描き、炎を腕に纏った赤龍が、一瞬で真紅鎧へと肉薄する。


 真紅鎧は強化された身体能力を使って逃れようとするが、それよりも赤龍が彼の腕を捕まえる方が早い。

 あいにく、右腕を掴まれた真紅鎧は、地獄の炎により、その右腕の鎧を溶かされることになった。


「ありえないだろ!!??」

「何がだ? 目の前で起きていることがすべてだ」

「この鎧は炎に対する完全耐性を持っているんだァアアアアアぁああああ!!!」


 説明する中、彼の右腕は地獄の炎によって焼き尽くされていく。

 逃げようにも、赤龍の手は真紅鎧を離さない。


 ようやく彼が赤龍の攻撃から逃げられたのは、掴んでいた腕がすべて灰に変わったあとだった。

 右腕を失った代わりに、彼は脱出に成功したのだ。


「ほ、炎に対する……、完全耐性を……」

「ほう? それは我が炎で試したのか?」

「そ、それは……」

「まぁ、良い。では我が至高の炎で試してみようではないか?」

「な、何をするつもりだ…………?」


 真紅鎧の威勢は、一瞬で消え去った。

 彼のピークは戦いが始まる前だっただろう。いざ赤龍の実力を見てしまえばこのザマだ。


 一歩ずつ後退していくように、情けない姿を見せる彼だが、既に逃げ場はない。

 <地獄の焔(ヘル・フレイム)>を使った際、こっそりと加速機能も潰しておいたためだ。


「先程までの威勢を見せよ。そして、試練を耐え抜いてみせるが良い。<赤龍の吐息(ルージュ・ブレス)>」

「ハッ! ────は?」


 放たれるは、真紅鎧の光線と似たようなもの。

 しかし、含まれている熱量が段違いだ。


 すべてを溶かす炎。その言葉がまさしく相応しいものだった。

 それが真紅鎧に迫っていく。


 流石に分が悪いと思った真紅鎧は飛び去ろうとするが、ここでその機能が壊されたことに気付く。


 つまり、彼は光線を真正面から食らうことになるわけで────。



 断末魔さえ響かせる間もなく、消滅した。


「大したことはなかったな。まさか、炎に対する完全耐性……とやらが我への対抗手段だったのか?」

「お疲れ様です、赤龍様」


 エリスからすれば、ハイレベルな戦い──ではなかった。

 真紅鎧も自分より強いが、それ以上に赤龍が強過ぎる。

 戦いではなく、一方的な暴力に過ぎないだろう。


「随分荒れてしまったな」


 赤龍の攻撃もまた、地を抉っていた。

 そのせいで、ここら一帯は地獄のような景色になっている。


 が、そんなのは知ったことではない。

 「我、しーらない」と、子供のように知らんぷりをした赤龍は、再び歩き出す。


 今度は内乱軍側ではなく、どうやらガルヘイアに向かって歩いている。


「赤龍様、ガルヘイアに戻るのですか?」

「うむ。あの鎧野郎がここを荒らした、と事前に報告しておくのだ。我が隠していたようでは、まるで我が悪いみたいになるからな!」


 子供かよ、と思いつつ、エリスもアルトゥラもそれに従うしかない。

 2人は顔を見合わせ呆れたような顔をすると、赤龍についていくように歩き始めた。

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