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第115話 赤龍一行 Round2

 一方、赤龍一行の話である。


 赤龍、エリス、アルトゥラの3人は、アルテリオ平原南部を横断するように歩を進めていた。

 途中で竜型魔道具との戦闘をして、そこで一度休憩を挟むことに。赤龍が空間魔法から椅子のようなものを3つ取り出し、それぞれのいる場所に置いた。


 どこで手に入れたのか、椅子は安っぽい作りの量産品だ。龍というだけあってもっと凄いものが出てくると思っていたエリスとしては、驚きであった。


「ふむ、これがそんなにおかしいか?」


 と、それが表情にも出ていたか、赤龍による鋭いツッコミが入る。

 決して威圧するつもりはなかったのだが、エリスからしてみれば怖いもの。親に怒られたときのような感覚で、萎縮してしまった。


「いえ、そういうわけでは……」

「なに、我に遠慮する必要はないぞ」

「そうですよ、エリス。赤龍様はこう見えて高級品が嫌いなのです」


 龍といえば、財宝で住居を埋めているような印象を持っている者が多い。金銀、そして数多の魔道具。それらを身の回りに置く生粋の成金体質──というイメージだ。

 事実はどうであれ、赤龍はそうではないようだ。


「アルトゥラよ、言い方はなんとかならんのか?」

「事実ではありますので。悪いとは思っておりませんよ」


 上位者らしい嗜みを、と何度も言ってきているアルトゥラだが、赤龍はその忠告を受け入れることはない。

 もう何を言っても無駄だと、呆れの領域にあった。


 三者はそんな椅子に座る。

 椅子は円形に配置されているが、中央には何も置かれていない。少し味気ないことが気になったか、今度は中央に机を置いた。


 その机もどこか安っぽい。赤龍という偉大な存在であるにも関わらず、残念だ。


 丸テーブルを囲って座る3人。

 十分程度の休憩のためだ。こういう時に空間魔法の便利さを思い知らされるものだと、使えないエリスは痛感する。


「紅茶でよろしいですか?」

「む? ああ、頼む」

「ありがとうございます」


 椅子と机を出したまでは良かったが、それで満足してしまったらしい。

 細部まで気遣いのできるアルトゥラによって、ティーカップに紅茶が注がれていく。カップはアルトゥラの持つものなので、硝子造りの高級品だ。


 トポトポと紅茶を注ぐアルトゥラは、まさにメイド。

 優雅に構える赤龍含め、完璧な主従関係にしか見えなかった。


 本当に、机と椅子の質だけが残念である。


「やはり今日のような日は陽の光を嗜むに限るな」

「そうですね。気持ち良いです」


 雲一つない空模様は、快晴だ。

 眩しすぎない太陽が射し込み、平野一帯は温かい。先程の戦闘で周りにいくつかクレーターがあるのは気になるが、アルテリオ平原という場所を含め、ピクニックに適していると言えた。


「ところで、エリスよ」

「はい」

「葵が我の元に来た時、エリスを連れていたわけだ。しかし、彼は勇者。魔族であるエリスがどう知り合ったのだ?」

「たしかに、それは私も気になっていました」


 人族と魔族の交流は限りなく少ない。

 勇者ともなれば、その使命は魔王を倒すこと。魔族とは相容れない存在とも言って良い。

 そんな彼女らがなぜ交流を果たせたのか、アルトゥラでさえも気になっていたようだ。


「出会ったときは、彼が勇者であることは知らなかったんです」


 聞かれなければ話す機会はないが、聞かれたからには答える。

 紅茶に口をつけて唇を潤すと、エリスはゆっくりと話し始めた。


「聞いた話ですが、魔族領域を彷徨っていたら、ローウルフに出会い、それを倒したのだとか。私たち狼人族はローウルフを相棒に持つ種族です」

「それが相棒だった、と」

「はい。不幸にも、アオイくんは相棒の魔族に出会ってしまったようで、ローウルフを殺したことまでバレてしまい。そのまま捕まったところを、真夜中くんに助けられた、と言っていました」


 赤龍としては、謎な部分は多い。

 そもそも、なぜ勇者である彼らが魔族領域に居るのか、というところだ。枷月葵は、分かる。能力は支配系統。女神に忌み嫌われるのも納得だ。


 そういえば、妹も同じような理由だったのかとここで気付く。固有スキルには触れてこなかったが、兄妹であればその性質は似ているだろう。


 しかし、やはり魔夜中紫怨は謎だ。彼が枷月葵を助ける理由もなければ、女神を裏切る理由もない。

 彼自身の考えというより──どこか第三者の思惑がありそうに見えた。


「その後、彼らは喧嘩したそうです」

「喧嘩? なぜだ?」

「アオイくんにとって、魔族が自分を殺そうとするのは当たり前だと。自分の問題なのになぜお前が首を突っ込んでくるんだ、という感じでした」


 概ね、ローウルフという相棒を殺してしまった自分に落ち度がある、とか思っていたのだろう。

 やはり兄妹揃って、妙な甘さがある。優しさとは違うような……少し、倫理的にズレてる部分だ。


 ただ、それが彼らの不思議な魅力でもあった。


「それで?」

「一人になったアオイくんと私が出会ったんです。私は薬草採集の途中でした

 はじめは何が起きたか理解できませんでしたが、話を聞いて大体のことは分かりました。

 そこで、悩んでいるアオイくんに助言をしたのが出会いです」

「ほう? なんと?」

「………………もっと自分を大事にしろ、的なことですね」


 恥ずかしさから躊躇ったエリスだったが、赤龍とアルトゥラの期待の目には逆らえない。

 渋々簡素に話をするも、赤龍は「がはは」と笑ってしまう。


「そ、そんなにおかしいですか……!?」

「いや、いや。すまぬ。妹にも聞かせてやりたいものだと思ってな」

「妹……。たしか、魔王様はアオイくんの妹なんでしたか」

「うむ。その話も後でしよう」


 今は話の続きを促す赤龍だ。


「その後は私の集落に案内して、そこで私は同族によって黒蟲の呪いにかけられました。付与された魔道具で斬られたんです」

「ほう?」

「ところで、黒蟲の呪いにかかったことはありますか?」


 唐突なエリスの質問に、赤龍も、黙って聞いていたアルトゥラもキョトンとした顔になる。


「いや、我はないな……」

「私もありません」


「実は、黒蟲の呪いにかかって眠っているときも、意識はあるんです」


 病や呪いに詳しい赤龍だが、これは初めて知った。

 視界こそないものの、耳ではある程度情報を得れたというわけだ。


「族長の支配スキルによって数十人が支配されていたようで、アオイくんの首を狙っていました。そこからはアオイくんと族長の戦いです。

 詳しいことは見ていませんが、途中で真夜中くんも助太刀に入り、仲直りしたそうです。何故かそこらへんの記憶は曖昧なのですが……」


 ここで、赤龍はある疑問を抱く。

 支配スキルには、生まれつきの適正がある。仮に、族長とやらが支配スキルに適正のある魔族だったとする。


 そもそも、支配と魔族は相性が悪い。それを度外視したとしても、数十人の同族を支配することは不可能だ。

 つまり、誰かしらの力を借りていた。もしくは魔道具があった。それ以外考えられない。


「それと、族長が魔将? を召喚していたような……? 記憶が少し曖昧で、申し訳ありません

 その後は赤竜山岳を目指して……という感じです」

「謝る必要はない。面白い話であった」


 続けてエリスの口から放たれた言葉で、前者の説が強くなる。

 魔将を召喚する──魔封じの水晶を族長が使ったと考えられた。そこまで高位の召喚魔法を素で使えたのならば、当時の彼らに敗北はしないだろう。


 辿り着いた結論は、女神。

 魔王城での会議であがった、内乱軍に属していると思われていた小さな部族。実際には女神に支配されていたのだ。

 魔族領域に女神の手が届いている──そういうことになる。となると、内乱でさえ女神の思惑な可能性も出る。


 それに、魔将というのも不可解だ。

 記憶が曖昧なのは仕方がないが、魔将が召喚されていれば彼らでは対処できないのではないか? と思う。油断しているところを一気に、とか。真夜中紫怨の能力が対悪魔だったりする、とか。そんなところだろう。


「そういえば、赤龍様とアルトゥラ様はどのようにして出会ったのですか?」

「ふむ? 気になるか?」

「はい」


 そんな考えも、エリスからの質問によって頭の隅に追いやる。

 今は休憩がてらの昔話なのだ。エリスと葵の出会いも知れたことだし、今度はこちらが話す番だろう。


「これは随分昔のことだが──」

「赤龍様、エリス。そろそろ出発しませんか?」

「え? まだ話が始まったばかりなのですが……」

「どうでも良い話ですので」


 話を遮るアルトゥラは、いつになく真剣だ。


「エリスよ、気にするな。アルトゥラは己の失態を知られたくないだけよ」

「失態ではありませんが?」

「では話を続けても問題はあるまい?」

「ぐ……」


 言い返せないアルトゥラ。

 それを見て、ここぞとばかりに赤龍は話を続ける。


「なに、つけ上がった龍が我に戦いを挑んできたからな。やり返したまでよ。魔族は強き者に従う。そのまま我が配下となったということだ」

「意外と単純なのですね……」

「ふむ。我は拒否したのだが、こやつが中々引き下がらなくてな。我が妥協して受付を任せておる」

「あれは私ではないですから……。もう一方の人格ですから……!」


 その人格を見たことがないエリスとしては、少し不思議な気分だ。

 ただ、焦るアルトゥラは珍しい。面白いものを見たと、エリスはどこか得をした気分だ。


「あれ? そういえば、龍は当たり前のように人の姿になれるのですか?」

「これは幻術の類だな。力ある魔族は大抵このスキルを持っているが……魔王曰くテンプレだそうだ」

「てんぷれ、ですか?」


 何かそういう力が働いているのだと納得する。エリスには理解できないか──理解しても関係のないことだ。もとから人型でもあるのだし……。


「まあ、我とアルトゥラの付き合いはそんなものだ。もう一方の人格の方こそ従順だが、こやつは中々我に反抗的だぞ」

「反抗したことなどありません。適当なことを言わないでください」

「と、このように毒舌だ」


 そう言いながらも愉快そうな表情なのは、アルトゥラと赤龍の仲が良いからだろう。

 エリスにはそれが少し、羨ましく見えた。


「では、魔王様との出会いは?」

「やはり気になるか。我としても話してやりたい気持ちはあるのだが──」

「?」


 明後日の方向を眺める赤龍。その視線の先をエリスも追うが、何もない。

 わけが分からずにいると、アルトゥラが席を立った。


「ふむ。来たな」

「来た? 何がですか?」

「我らを倒すべく、第2の魔道具だ」


 やはり竜型魔道具だけでは終わらないらしい。

 エリスには見えなかったが、赤龍とアルトゥラの反応曰く、何かが迫りくるようだ。

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