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第102話 コリンへ

「逃げた……か」


 治癒魔法をかけた為、体力には余裕があったように思える。長期戦でも無かったので、魔力にも余裕はあったはずだ。

 にも関わらず逃げ出したということは、力が上手く使えないと考えたか、ルリには敵わないと考えたか。

 どちらにせよ、こちらとしては問題なかった。


「……ごめんなさい」

「いや、ルリを攻めてるわけじゃないよ」


 実際、空梅雨茜(カラツユアカネ)の確保は必要ない。自力で<支配(ドミネイト)>から逃れられるのならば、近くに置いておくのも嫌だからだ。


───それよりも……


 問題は、あの力が勇者全員にあるものなのかどうか、だ。

 女神があの力をすべての勇者に与えているのだとすれば、夏影陽里(ナツカゲヒカリ)を連れて行くのにも少し抵抗がある。


「それよりも、ルリ」

「……ん?」

「あの力は?」


 俺が聞くと、ルリは間髪入れずに答え始める。

 元々、聞かれるのは予想できていたのだろう。


「……あれは神の力。彼女が持っていた武器は神器」

「神器?」

「神の力を宿した武具のこと。中々見れるものではない」


 なぜそんなものを? という疑問が浮かぶ。

 可能性としては、女神の持っている神器を空梅雨茜に貸し出していた、とかだが。


「あれは女神ベールの力ではない。もっと上位の神のもの」


 ルリが付け加えたことで、それは否定された。

 ベールよりも上位の力──そう考えれば納得は行く。あれは空梅雨茜自身の能力ではない。


───上位の神の力、か。


 空梅雨茜の固有スキルは<風神雷神>。普通に考えればそこらへんの神が関与していそうだ。


「神器を貸し出すなんてできるのか?」

「……できる。ほとんど例はないけど、神器を手にするとその神の力を一部得れる」


 それがカラクリだったわけだ。

 <支配(ドミネイト)>から逃れたのもその神の力、と考えて良いと思う。


「陽里は?」

「私? ああいう力がある自覚はないわね」


 一応殺しておく、という考えは頭に浮かぶが、別に恨んでいるわけでもない。

 一度命乞いを受け入れて助けた相手を殺すというのも、気が引けた。


「まあいいか」


 一度ルリから逃げているが、復讐に襲いかかってくる可能性は否定できなかった。

 しかし、今それを警戒してもどうにもならない。対策を立てようにも、相手の能力も分かっていないのだから。


 とりあえず、ガリアで済ませるべき課題は終えたのだ。

 次に目指すべきはコリンだろう。


「とりあえず、コリンを目指す」

「コリン? 北にある港町だったかしら?」

「ああ。竜人のアルフレッドの討伐だ」

「……魔族の強者巡りツアーでもしてるの?」


───そういえば、陽里は俺たちの目的を知らないんだったか。


 陽里と空梅雨茜はヒュトールを倒しに来ただけのようだったし、俺とルリのことは眼中になかったはずだ。


「今、魔族領域で内乱が起きていることは?」

「もちろん、知っているわ」

「俺たちは魔王の命令で内乱軍の有力魔族を倒して回ってるんだ」

「へぇ」


 俺の能力の説明をわざわざする必要はない。

 それに、有力魔族を倒すのが魔王軍の利になるのも事実だ。


「ガリアから一番近いのがコリンだから、ということね。それで、なにか作戦はあるのかしら?」

「……いや、特にないが。アルフレッドについて何か知ってるのか?」


 どことなく勤勉な雰囲気を纏っている陽里は、ぶっちゃけなんでも知っていそうだ。

 印象は知的。なんでもかんでも論理的に考えられそうな、個人的にはかなり好印象だ。


 そんな彼女だからこそ、聞けば返ってくる、という謎の信頼があった。


「アルフレッド本人というより、コリンについて、ね。統治者は竜の血をひく魔族で、その力は強大だと言われている。けれど、ほとんど表に出てくることはない、だとか」

「よくそこまで知ってるな」

「女神の屋敷は書斎も充実していたのよ。話を戻すけれど、中々姿を現さないということは、警戒心が強いということよ」


 ヒュトールのようにはいかない、と言いたいのだろう。

 しかし、警戒心が強いということはアルフレッドが本戦に出向いている可能性も低いのか。コリンに居るのであれば、殺す算段を立てる余地はある。


「闇雲に行ってもアルフレッドに逃げられる可能性が高いわよ」

「それもそうか……」

「そこで」


 妙に声を張り上げて言う陽里に、俺もルリもそちらを向く。


「私に良い案があるわ」


 陽里に知的な印象を持ちすぎていたからだろうか。

 自信満々に言う彼女が非常に頼もしく見えてしまっていたのは。


 それから俺たちは陽里の案の通り、コリンを目指した。





・     ・     ・





「……これが案、と」


 コリンは聞いていた通り、港に接する町だった。

 その外見もあってか、ガリアと比べると小規模な町に見える。

 外壁は、ない。その為か、町の外にも潮風が吹いてきていた。


 町の雰囲気は明るかった。

 今まで訪れたどの町よりも、家の色合いが明るい。白を基調とした家が並んでいる。

 海が近いこともあってか、爽やかに感じた。


 地中海付近──ギリシャのようなイメージだ。


 ガリアからも道が敷かれていて、インフラの整備が進んでいるように見えた。道中で魔獣にあうことがなかったのは、ルリのおかげかもすれないのだが。


 夏休みも海に行くことはあまりなかった身からすると、海というもの自体が久しぶりだ。

 少しテンションが上がるが、それを抑えて町へと入っていく。


 警戒はされているようで、外壁はなくとも町には入口は設けられていた。

 俺たち3人は今、その入口に居る。


 陽里の案は、あくまで魔族の一家族として観光に来た存在とする、ということらしい。

 こんな時期に観光が通るか? と思わなくもないが、陽里のことだからなにか考えがあるのだろうと受け入れてみた。


 兄妹という案もあったらしいが、容姿が似ていないために却下したそうだ。


 爽やかなレンガ造りの家々が並ぶ前に、詰所のような場所はある。

 そこに辿り着けば、魚人のような魔族の男に声をかけられた。


「何だ、お前ら? コリンにどういう要件だ?」

「観光で訪れたのよ。魚が美味しいと聞いて」

「観光? この時期に……?」


 魚人魔族は訝しんでいる様子だが、陽里はゴリ押していく。


「ええ。娘も物心がついた頃だし、美味しいものを食べさせてあげようと思ってね」

「む、娘か? あまり似てないように思えるが……」


 遠回しに小さいと言われ、ルリが頬を膨らませるが、その様子も魚人魔族には幼く見えたのだろう。

 ただ、俺と陽里、ルリの容姿が似ていないことが気にかかっているようだ。


「正真正銘、私がお腹を痛めて産んだ子よ? ね? あなた」


 陽里が俺に視線を送ってくる。


「ああ、俺たちの子だ」


 すかさずフォローを入れ、魚人魔族を詰めていく。

 こういうのはこちら側のペースを崩さないのがコツだ。


「そ、そうか……。うむ、それは疑って悪かった。今はこんな時期だが、コリンの魚は美味い。楽しんでいってくれると俺も嬉しい」

「お気遣いに感謝するわ。ところで、オススメの宿なんかはあるかしら?」

「ああ、観光なら宿も必要だよな。入って真っ直ぐ行くと広場がある。そこを更に進んでいけば”汐風の泊”と書かれたデカイ看板があるから、そこに行くと良い。少し値は張るが、子供がいても安心で衛生的だ」


 真面目で良い人なのだろう。何から何まで、それも俺たちを家族団体として気遣いまでしてくれた。

 1名、子供扱いされたことに拗ねている様子の魔獣がいるが、それは気にしない。


 俺と陽里は魚人魔族に礼を言うと、そのまま町へと入っていく。


「それで、どうやってアルフレッドに会うつもりなんだ?」


 観光客として穏便に入り込めたは良いものの、これがアルフレッドとの邂逅に繋がる理由は分からない。

 そう思っていると、ルリが隣から口を挟んだ。


「……コリンでは月に二度、漁獲を祝う市が開催される。そこでアルフレッドが姿を見せる」

「だが、アルフレッドは内乱軍に加担してるんだろ? 本戦に出向かずに祭に参加なんてあるか?」

「……たしかに」


 単純なことだが、ルリはそこまで考えていなかったらしい。


「それは大丈夫よ、葵くん」

「どういうことだ?」

「それまでにアルフレッドの住居を特定して、市当日に忍び込めばいいのよ。さすがのアルフレッドも、市の日は警戒心が薄れるでしょう」


 あくまで強行突破ではあるらしい。


 警戒心が強いなら、影武者とかもあるんじゃ? と思ったが、それを市までに特定するのが俺たちのするべきこと。

 そして、それをあからさまな様子ではしないことが大切だ。


「つまり、私たちのやるべきことは観光ね」


 陽里はそう締めくくると、宿に向かって歩き始めた。

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