カセットテープと消えない想い出
テレビで好きな歌手が登場すると、ラジカセを持って行って録音をしていた。
雑音が入るとイヤなので、家族にはあらかじめ注意をしておく。僕が散々お願いしたのに、どうしても母さんの声が混じってしまう。
それがとても不満で文句を何度も言ったのだけど、母はやめようとしない。
「別にいいじゃない、減るもんじゃないし」
そう言って笑う母が憎たらしくて仕方がなかった。
時代が変わり、カセットからCD、MD、MP3と音を記録する媒体が次々と変わっていく。
自立して家を出た僕は一人暮らしを始めたが、実家の部屋はそのままにしてもらえた。
あこがれだった歌手も年を取り、すっかり昔の人となってしまった。思い出のカセットテープは今も実家に置いてあるのだろう。
もうあまりこだわらなくなったので、そのままにしてある。
最愛の人と巡り会い、僕は結婚して家庭を築くことができた。
子供が生まれ順調に育ち、パパ、パパと僕を慕ってくれている。
幸せな時間を過ごしていたら、報せが届く。
母が倒れて意識が戻らなくなってしまったのだ。
お別れはまだ先のことだと思っていたのに……。
医師からは、あと数日の命との知らせ。
愕然とした僕は妻に追いすがるようにして泣いた。
それからしばらくして母は旅立ち、葬儀に自宅の整理と、やることが山積。
ひとつづつ片付けていると、ふとあることを思い出した。
カセットテープ。
母の声が録音されている。
倉庫からラジカセを引っ張り出して、カセットテープをセットする。
あこがれだった歌手の歌に交じって母の声が聞こえた。
「いい加減にして、ごはんになるわよ」
僕を叱る母の声が、とても暖かく思える。
お別れを言えた気がして心が軽くなった。
それからというもの、僕はこまめに記録をとっている。
子供たちの遊ぶ姿。
そして愛すべき妻の姿。
料理をしている妻を横からスマホで撮影していると「恥ずかしいからやめて」と言って彼女は苦笑いする。
リビングで遊ぶ子供たちを撮影していると「怖い顔でスマホ見てる!」と嫌な顔をされる。
「本当に好きだよね、それ」
子供たちを撮影する僕に妻が言う。
「うん、大切な想い出だからね」
「でも、子供たちにとって本当の想い出になるのは、
それを撮影したあなたの声だと思うよ」
妻にそう言われ、思わず泣いてしまった。
さめざめと泣く僕を、彼女はそっと抱きしめてくれる。
「……ありがとう」
この一言も消えない思い出になるのだろう。




