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なろうラジオ大賞3

カセットテープと消えない想い出

掲載日:2021/12/09

 テレビで好きな歌手が登場すると、ラジカセを持って行って録音をしていた。


 雑音が入るとイヤなので、家族にはあらかじめ注意をしておく。僕が散々お願いしたのに、どうしても母さんの声が混じってしまう。

 それがとても不満で文句を何度も言ったのだけど、母はやめようとしない。


「別にいいじゃない、減るもんじゃないし」


 そう言って笑う母が憎たらしくて仕方がなかった。




 時代が変わり、カセットからCD、MD、MP3と音を記録する媒体が次々と変わっていく。


 自立して家を出た僕は一人暮らしを始めたが、実家の部屋はそのままにしてもらえた。

 あこがれだった歌手も年を取り、すっかり昔の人となってしまった。思い出のカセットテープは今も実家に置いてあるのだろう。

 もうあまりこだわらなくなったので、そのままにしてある。


 最愛の人と巡り会い、僕は結婚して家庭を築くことができた。

 子供が生まれ順調に育ち、パパ、パパと僕を慕ってくれている。


 幸せな時間を過ごしていたら、報せが届く。

 母が倒れて意識が戻らなくなってしまったのだ。


 お別れはまだ先のことだと思っていたのに……。


 医師からは、あと数日の命との知らせ。

 愕然とした僕は妻に追いすがるようにして泣いた。


 それからしばらくして母は旅立ち、葬儀に自宅の整理と、やることが山積。

 ひとつづつ片付けていると、ふとあることを思い出した。


 カセットテープ。

 母の声が録音されている。


 倉庫からラジカセを引っ張り出して、カセットテープをセットする。

 あこがれだった歌手の歌に交じって母の声が聞こえた。


「いい加減にして、ごはんになるわよ」


 僕を叱る母の声が、とても暖かく思える。

 お別れを言えた気がして心が軽くなった。




 それからというもの、僕はこまめに記録をとっている。


 子供たちの遊ぶ姿。

 そして愛すべき妻の姿。


 料理をしている妻を横からスマホで撮影していると「恥ずかしいからやめて」と言って彼女は苦笑いする。


 リビングで遊ぶ子供たちを撮影していると「怖い顔でスマホ見てる!」と嫌な顔をされる。


「本当に好きだよね、それ」


 子供たちを撮影する僕に妻が言う。


「うん、大切な想い出だからね」

「でも、子供たちにとって本当の想い出になるのは、

 それを撮影したあなたの声だと思うよ」


 妻にそう言われ、思わず泣いてしまった。

 さめざめと泣く僕を、彼女はそっと抱きしめてくれる。


「……ありがとう」


 この一言も消えない思い出になるのだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スピーカーの音声をマイクで直接拾って録音したカセットテープ、実に懐かしいです。 確かに、出力ケーブルがない状況でテレビの流行曲を録音しようとしたら、これしか手段は無かったですね。 テレビの…
[良い点] これは良い。 (´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
[良い点] う~ん、たらこさまの物語は「ギャグ」とか「シュール」な印象が強かったのですが、今回のラジオ大賞エントリー作品、感動系の話にグッときます! [一言] 何気なく残った「母の記録」 写真とかそう…
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