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第2話

寝ているときに夢で分単位の死の宣告をされた宮本奏。その時間通りに交通事故で奏は亡き人となってしまう。

死んだ奏が行き着いた先とは? 奏はそこでとんでもないことを説明される。

欲しいものこそなかれ、失いたくないものと言われれば1つだけ答えることができた。

しおん…自分のたった一人の肉親。

車に轢かれそうになったときにしおんと猫を歩道に突き飛ばしたのは紛れもなく自分。

自分としおんの命を秤にかけるとしたら、しおんの命に比べれば自分の命は砂の一粒以下だった。


――俺は本当に死んでしまった。…だけどそんなことより、俺が最後にすることが君を守ることでよかった。


しおんの『たった一人の肉親』である奏が亡くなって泣き叫ぶ彼女の声は、奏には聞こえなかった。


   ☆☆☆


気づけば奏は再び白い世界の中にいた。30人ほどの人々の中に彼は埋もれていた。自分が死んだことに動揺しているらしい彼ら。喚き散らしている者、泣き崩れている者、自分の状況を理解できずにただただ呆然としている者…。

ここにいる人たちもまた、自分と同様になんらかの不幸によって死んでしまったんだろう。気の毒に、と思いつつ観察してみると、気づくことがあった。不思議なことに、見る限りここには、30歳以上の人たちはいない…。

彼らには悪いが、何か訳ありな雰囲気に、これから何か楽しいことが起こるかも知れないという期待が頭をかけめぐった。

今目の前に立っている蒼い翼の男は夢で見たときは胡散臭いと思っていたが、今はそれが逆に期待に変わっている。集められる人の最後が奏だったらしく、翼の男は口を開いた。


「お静かに。落ち着いてください! この世界にきて私に会ったのは初めてではないですね? 覚えていらっしゃいますか? …覚えていらっしゃいますか!!」


男は声を張り上げて説明しようとするが、あたりは喚く声だの泣く声だので騒がしく、そしてその中で男の声が通るはずもなく…奏は今度は男のほうを気の毒に思った。


「…ぉいてめぇら!いつまでもメソメソやってんじゃねぇぞゴルァ!死んじまってから色々言っても仕方ねぇってのがわかんねぇのか?あ?」


一瞬にして場が静まり返った。気の毒に思った自分がバカだったのではないか、と奏は思った。 翼の男の素顔は気性が激しい男らしい。

得体の知れない翼の生えた人間(そもそも人間なのだろうか?)に怒鳴られて、全員がすくみあがった。奏も例外ではなく、自分で柄にもないと思いつつ絶句してしまった。

呆然として静まり返った空間に、男はまた淡々と喋りだす。もう泣く者も喚く者もいない。


「よろしいですか? …あなた方は死にましたので通常ならば上界…まぁ天国ですかね、そういうところに送られるはずでした。ですが、リレイで…、ここでですね、あなた方は夢有(ミューン)になる資格があると判断され、ここに連れてこられたのです」


一度ここで男は言葉を切った。

ミューンとはなんだろうか? ミュウ? …昔ポケモンにそんなキャラがいたようないないような…バトルでもするのか?…自分が馬鹿なことを考えいることに気づいて奏は首を振った。そんな不利益な存在をつくる人はいないだろう。

こんな考えをするなんて、やっぱり少なからず自分は動揺していたのかも知れない。ひょっとしたら興奮かも知れないが。

ミューンという単語に反応したのは奏だけではなかったらしく、ある女の子がおずおずと手を挙げた。

まだ年端も行かない少女。黒髪のセミロング、可愛らしい顔に怯えた表情を貼り付けている。この緊張した雰囲気で質問しようとするとはなかなかの根性だ、と奏は思う。

翼の男はどうぞ、と少女に質問を促した。


「あの…えっと、ミューンってなんですか? あと、資格…ですか? なんの?」


男はよくぞ聞いてくれた、とばかりに頷き、話し始めた。


下界…今まで住んでいた世界…の人々の寿命は、生まれたときから全て決まっている。下界から上の世界の決まりでは、寿命が尽きる1日前にその人の夢の中で死の宣告をすることが義務付けられている。上界から、またはリレイから死の宣告は行われる。といっても下界のほとんどの人は上界から宣告され、リレイで宣告される人はごく一部。上界から宣告される人は寿命が尽きると上界逝きと決まっているが、リレイから宣告される人は上界には逝かず、一旦リレイに送られる。

リレイに送られる人というのは、ある一定条件を満たしている人。その条件とは、30歳未満だということ、もう1つが普通の人にはない特殊能力を持っている、ということ。この条件が満たされれば、ミューンになる資格があるということだ。

ミューンとは、普段あなた方が寝ているときに見る『夢』を創る人。ミューンは上界とも下界とも異なる夢界というところに住んでおり、そこで夢を創っている。自分が空を飛んでいたり、何か恐ろしいものに追われていたりする夢を見た人は少なからずいるはず。これは実は一度死んだ人の手によって創られたものなのだ。


「あ、ちなみに、リレイも夢界の一部ですよ。分かりましたか? お嬢さん♪」


少女は頷き、翼の男は、奏が初めてみる笑顔を見せた。本当は優しい男なのかも知れない、と奏は思う。人に隠れてよく見えないが、少女の緊張も少しとけたようだ。奏と同じことを考えたのかもしれない。

周りの人は相変わらず怖がっていたが、1人だけ平然としている男がいた。その男は手を挙げて、


「じゃあ俺達は必然的に下の人たちのために夢を創るミューンになっちゃうの~? つ~か~、俺達の特殊能力って何~?」


と、どうにも締まりのない口調で言った。奏にはその男の顔は見えなかったが、どうやらさっきの少女よりも根性が座っていることは理解した。

あまりに砕けた口調に、怒鳴り声が響くかと一瞬場は凍りついたが、翼の男の表情は変わらず、


「いえ、希望制ですから上界に逝きたい方は私に申しつけください?ま、上界なんて何もないところですが。天国というよりは地獄ですよ?あなた方の自由なんて無いも同然ですから。監獄みたいなところに詰められ、あと何千年後かに生まれ変わるのをただ待つだけ…」


平然と恐ろしい答えを口にした。ここまで意味ありげなことを言われて上界に逝こうとする人はいまい。


「特殊能力というのは、言葉通りです。例えばあなただと、」


翼の男は奏を指差した。いきなり指を向けられた奏は突然のことにたじろぐ。


「一度見た物は、その物の細部まで鮮明に、確実に思い浮かべることができますね?まぁ、いわゆる想像力や空間把握能力などが一般より遥かに長けている」


まぁ、確かにそんな感じのことは薄々感じていた、と奏は思った。それに比例して昔から成績はずば抜けて良かった。初めは皆そういうものなんだと思ったものだが、どうやら違うらしいと気づいたのは最近のことだ。

さきほどの締まりのない口調の男が何か言おうとしたのを遮り、男が言ったことに興味をもった奏は、初めて口を開いた。


「へぇ?そういうのが特殊能力?じゃあ、あの子も、」


奏はさっき発言した少女を指差した。なぜその少女を指したのかと奏は一瞬自分をいぶかしんだ。


「なんかあるわけ?」

「あるはずですよ。いちいち覚えてないから分かりませんが。だいたいの特殊能力っていうのは、超能力とか、頭の回転の仕方が特殊だったりとか…。あと性格的に、人を怒らせたことが一度もなくて、どんな喧嘩も一言で沈めてしまう人、とかですね。」

「あ、そう。んで、俺らに対する説明はこれで終わりか?」

「えぇ。私からお伝えすることは以上です。あとは夢界に行っていただいて、ミューンになるための説明と訓練を受け、ミューンとして一人前になって…と、そんなところです。あ、一応聞きますが、上界に逝きたいなんて方はいらっしゃいませんよね?」


その質問に、それぞれが顔を見回した。誰かが手を挙げたら私も挙げようという雰囲気に、奏はなぜだかむしょうに腹がたった。上界が地獄のようなところでも、死んでまで働くのは面倒だという、怠惰な人間の性格が見え見えだ。だが、さっきの少女がなんの迷いもなく手を挙げないのを見つけて、その気持ちを抑え込んだ。


「満場一致で夢界行き決定ですか?それでは全員をセンターに転送します」


結局誰も手を挙げなかったのを見て男はそういい、奏がセンターとはどこか、と考える前に自分の視界が反転し、暗転した。

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