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第1話

前日に不可解な夢を見た奏。

果たして夢の内容は本当なのか?

窓から眠たくなるような生ぬるい風が入ってきて、奏の茶色い髪を揺らす。

数学の教師が、この教室の半分以上の生徒は理解することができないと思われる数式を淡々と言っている。そんな中、奏は、夜に見た夢のことを考えていた。

(俺は死ぬのか?だが、普通こんな夢を信じるやつはいないだろう。ま、死んだっていい。別に今の生活が楽しいわけじゃない)

万が一本当に死んでしまった場合を考えても、奏はまったく動揺しなかった。

現実逃避というわけではなく、昔から異常に物事に執着しない奏は、死ぬかもしれないという事実を聞いてなんと思えばいいのかわからない。

生活に必要なもの以外で何かが欲しかったことなんてこれまでにほとんどない。おもちゃも、漫画も、ゲームも、彼女も…全てだ。なんとなく周りにあわせるために買って使ったりもしたが、どれも長続きしなかった。

窓の外にずっと目を向けている奏を、教師は不満そうに眺めていた。奏はそれに気づいていたが無視をした。あんな数式は分かりきっていた。

ふと、教師以外の視線を感じ、視線を向けると、めがねをかけた女子がこちらを向いていた。…のは一瞬で、すぐに目をそらされた。頬がかすかに赤いことから、奏に好意をもっていることは安易に予想できる。

奏は自分の容姿も自覚していた。影に追っかけがいるのもそれとなく気づいている。だがそれを誇示しようとも思わない。面倒くさいからに決まっている。

(これもいい転機かも知れない。実際に死ねば、天国だか地獄にいけるし。そうすれば今の高校生活よりは楽しいかもな)


   ☆☆☆


学校帰り、教室でいつものように目の前で話している友人たちを見て、ふともう会えないかもしれないという考えがよぎった。

なんとなくとは言え世話になった。挨拶ぐらいしておかなければならない。

「あのさ。俺明日からいなくなる可能性があるんだよ。まぁ可能性は限りなくゼロに近いけど、とりあえず今までありがとな。」

「…はっ? 何言ってんだよ。転校でもすんのか〜? それとも中退届けでも出したか?」

「いや別にそういうわけじゃ…」

「んだよぉ。嘘はいけまちぇんねぇ、ソウちゅわぁん〜?」

奏はすぐに激しく後悔した。心配してくれているのは分かるが、うっとおしいったらありゃしない。このノリの奴等は大抵こちらの真意に気づこうとしないことが多いのだ。

挨拶をし、用を済ませた奏は、話しかけてくる、友人と位置づけられていた者たちを無視して家路へと歩を進める。

学校に未練は全くない。めがねの女子も、数学教師も、友人さえも…。

「っておい! 無視かよ~。冗談きかないな~」


   ☆☆☆


家に帰ってしばらく本を読んでいると、玄関の扉の鍵がガチャガチャと音をたて、すぐに扉が開いた。ドタバタと音を立てて走ってきたその子は、

「ただいま! ねぇ、これ見てよ!」

奏の妹兼たった一人の肉親、しおんだった。しおんが握っていたのは、近所にある回転寿司の無料招待券だった。

「どうしたんだよ、それ?」

「いやね、今日たまたま町内の抽選したら当たっちゃったのー。期限今日までだし、行かない?」

「いいよ。んじゃ、6時になったら行くか?」

約束してから気づいたのは、夢で聞いた死亡予告時刻のことだった。確か6時半ごろのはずだ。あの男が言ったことは本当のことだったのかもしれない。

だからといって約束を取り消す気にもならず、奏はだらだらと夕方まで過ごした。


   ☆☆☆


「久しぶりだね、寿司なんて。」

しおんと奏は鼻歌を歌いながら回転寿司の道のりを歩いていた。確かに両親の残してくれた財産は、少なくはなかったが決して多くもなく、外食など行こうと思えない生活だった。

ふと、死の宣告を思い出し、奏は腕時計を見た。確か、翼の男が言ったことが本当のことならば、死亡時刻は6時28分のはず。現在、20分。寿司屋まではかかってもあと5分もかからない。やっぱり交通事故など有り得ない。

「お兄ちゃん、何してるの! 先行っちゃうよ〜。」

腕時計を見ながら歩いていた奏は、いつのまにかしおんがだいぶ先を歩いていることに気づいた。走ってしおんに追いつき、再び歩き始める。今、24分。2人は寿司屋に到着した。

奏は安堵し、引き戸を開けた。気づかないうちに緊張していたらしい。

無料招待券を見せて、なにやらと手続きをしているうちに、奥の厨房から魚を加えた猫が飛び出してきた。サザエさんじゃないんだから、実際にこんな場面見たの初めてだぜ、と思いながら目で猫を追う。

ところが、目で追いかけるだけに留まらなかったしおんは、走って猫を追いかけ始めた。

「あっ、猫!」

「ちょっ、おい!しおん!」

予想外の行動にでたしおんを、放っておけばいいものをと考えながら奏も追いかける。

気づけば、猫が道路を横断し、それにしおんも続いていた。

その瞬間、奏は自分が何をすべきか悟ったと同時に、夢は嘘じゃないと確信をもった。

「やっぱり俺は、敷かれていたレールを歩いていただけだったんだな!!」

そう叫び、全速力で道路に飛び出した。

2人と1匹に照らされるヘッドライト。




そこから奏の記憶はない。


時刻は、午後6時28分をマークした。



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