プロローグ。
「こんばんは。今夜はここ、〔リレイ〕へようこそ。突然ですが、宮本奏さん、あなたは明日の午後六時二十八分、交通事故で死ぬことになります」
スウェットを着て立っている男の目の前には、事務机で書類整理をしていると思われる20代後半ほどの男がいた。どこにでもいるような普通の男だが、一箇所だけ違うところがあった。海のような深い色をした…コバルトブルーの翼が生えている。
そしてその男は、にこやかに死の宣告をした。
「…は? 何言ってんの? つーかここどこだよ?」
「ですから、リレイです。夢界と下界の中継地点。今はわからないでしょうけど、ま、そのうちわかりますから」
リレイ? ムカイ? こいつはなにを言っているのだろうか。
スウェットの男――もとい奏はあたりを見渡すが、翼の男と事務机、そして椅子以外は何も目視することができなかった。周りは、白い絵の具で徹底的に塗りつぶされたような真っ白なところだった。
スウェット姿で寝ることはあっても、外を出歩く習慣はない奏は、すぐにこの状況を理解した。
「これは夢だな?」
「ご名答。ですがここで起こっていることは現実です。あなたは夢有に選ばれた。詳しくは明日の午後六時二十八分過ぎ、お話しすることになるでしょう。それまで下界での生活をお楽しみください。」
言っていることの半分もわからないが、翼の男の言葉には、有無を言わせない響きがあった。
死にますってことは、この男は死神なのだろうか、と奏は考えたが、すぐに否定した。死神に蒼い翼が生えているという話は聞いたことがない。もう一度確認をしてみた。
「俺は死ぬのか?」
「えぇ。」
質問を予期していたように、翼の男は即答で答えた。
「まぁ大概の人は信じませんけどね。信じる信じないはあなたの勝手ですが、後悔することになるのもあなたですよ。…まぁあなたの場合、後悔のない死に方だとは思いますが…」
意味深な言葉を呟く翼の男に、奏はもはや、これはただの夢だと考えることができなくなっていた。
「……そうか。んじゃ、信じとくよ」
考えても始まらない、と返事をした奏に、翼の男は意表をつかれたようだった。奏は、明日の午後六時二十八分を待てばいいだけのことだと、割り切ることにしたのだった。
「…へぇ。ご理解頂けたようですね。では明日、もう一度ここでお会いすることになるでしょう。それまで、残りの下界生活をお楽しみください」
わざとらしい敬語が聞こえたかと思うと、視界は反転、次に暗転し、気づけば翼の男は消え、自分のベッドに横になっていた。
――ちょっと不気味だったが…本当のことなのかもしれない。杞憂だったらそれで済ませればいいし、明日一日警戒しておいて損はないだろう。
そんなことを考えていたら睡魔が襲ってきた。
――別に死んでもいっか。
意識が、途切れた。