決意90日前
出勤は憂鬱だった。何を言われるかはわからないが、どういう事を言われるかわかっていたから。現場監督が最初に冊子を渡した時は『必ずやっておいて』みたいな話をしていた。木村さんの話によると、監査資料は国への提出物であり不正の有無を見極めたりする目的で必要となるらしい。私がこれを提出できないと、工事現場にて不正があったのではと誤解されるらしい。
朝現場に着くと、私は朝礼の前に謝罪しに行った。現場所長にはまるで相手にしてもらえず、「正直ウチは関係ないからそっちが役所に怒られて」と突き放された。
私は最初、現場監督が冊子を集めて提出すると思っていたのだがそれも違った。今日の昼から冊子を持って下請け会社の代表者が役所に移動し、提出書類の内容を精査しするらしい。ウチであれば屋方さんと岡崎さん。午後は作業を中断してとりあえず役所に移動した。何も記入されていないまっさらな冊子を持って。
結局最終的には、税理士? の人かどうかは不明だが、一緒に内容を精査してくれる予定だったその人から「次からは気をつけてください」みたいに言われて終わった。この一連の騒動や、私が感じていた絶望感のようなものは一体なんだったのか。なんのために感じたのだろうか。確かに次も同じ問題を起こしていいのかと言われるとそうではないが、結局何が起こったのかよくわからず、何事もなく問題は決着した。
戻りの車で高速道路に乗った。気がつくと、時速160キロを出していた。車内には私1人。道路も比較的空いている。緩やかなカーブ。このままこのスピードで曲がりきれなければ、私はどうなるのか。ぼんやりとそんなふうに考えていた。
あるいは作業着の胸ポケットに挿してあるボールペンを太ももに突き立てれば、しばらく会社は休めるのかもしれない。ぼんやりとそんなふうに考えていた。
その日は何も起きずに会社に帰ってきた。果たして『勇気が出なかった』のか、『根気が勝った』のか。それは自分にもわからない。