決意146日前 応援と足手纏い②
昨日の中華料理の領収書は朝イチで課長に渡した。「うーん、これはちょっとなぁ」と、苦笑いのお手本のような表情を浮かべていた。
安斎課長がそういう表情をしていると、決まって木村さんは声をかける。
「どうしたんですか?」
「木村さん、これどう思います? 山本くんの現場で野嶋さんに来てもらったじゃないですか。それで、1日だけ食事代出す話になりまして」
「なるほど。これはアレですね、山本くんがナメられているて事ですね」
急に火の粉が飛んできた。果たして私が全面的に悪いのだろうか。以前も脇田さんの現場で、担当現場の監督に理不尽な要求をされていると思ったのだが「脇田くんが対応をミスしたに違いない」と言っていた。木村さんは何かにつけてウチ若手のせいにしている節がある。
「山本くんはいつも工事屋さんの言いなりだもんなぁ、仕方ないですよ!」
木村さんは会心のジョークをかましたつもりで笑っていたが、私は苦笑いのお手本のような表情を浮かべていた。
午前休憩の時間中現場に到着すると、屋方さんは休憩室で現場の図面を眺めていた。ものすごくわかりやすく、不機嫌だった。日程や搬入の打ち合わせをしたかったのだが、ものすごく声を掛けづらい。どうする事もできずにまごついていた時、逆に屋方さんの方から私を発見してくれた。
「よう」
「お疲れ様です」
「何しにきたの? 用ないなら会社で次の準備しとけよ」
「いえ、日程とか搬入の確認をしたくて」
「ああ。次屋根入れるもんな」
「そうですね。今日採寸して、発注かけようと思います」
「分かった。シートと役物と、屋根用の墨出しやってる間に作ってもらうのか」
「はい、その予定です」
「んでお前関係ないんだけどさ、安斎さんに文句言っといたわ。正直レベル低すぎて話にならん。得にあのメガネかけてるやつ。ナメすぎ。しかもあいつ指怪我したし。俺の依頼費から相殺して払うんだろ? 全く納得できねーわ」
「…すみません」
「あと、図面に書いてなかったけど必要なもん追加で入れといたぞ。下地ボードの端っこが割れないように、厚めの金属板入れたから。これの分の金もよこせよ」
「え、それは、自分ではちょっと、決められないというか」
「ちょっとじゃねーよ、なんでこっちがサービスしねーとなんだよ。ただでさえあいつらに工事費吸い上げられてんだぞ」
「すみません」
帰りがけ、現場監督から電話がかかってきた。
「工事の発注した依頼書のコピー提出して。2枚。注文書と注文請書な。入ってる工事会社分全部、サインありのやつ。金曜日までね」
言い方には腹が立ったが、だからといって逆らう訳にもいかない。一応、快く作業を承るフリをした。
屋方さん岡崎さんの分は受け取っていたが、しかし野嶋さんたちの分はまだだった。現場から提出を求められているので、催促も兼ねて野嶋工業の社長に電話した。
「あの、請書の提出をいただきたく電話しました。実は現場に提出求められていまして、先にコピーやFAXなんかを」
「あぁ!? うるせーな! んなもんテメーらの都合だろ! そんなんこっちに言われても知らねーよ! なんで俺がやんなきゃいけねーんだ? そもそも送られてねーよ、見てないから。お前らに頼まれたからそっちに行ってやってんだよ。それわかってんの!?」
頼んだことに対してありえない温度感で文句をつけられた。何か気に障る言い方でもしてしまったのだろうか。
支店に戻る途中、自分の非をどこかに無いかを探していたが、よくわからない。サインや社印は必要なので、どう受け取ればよいのだろうか。
あれこれ悩んでいると、野嶋工業の方から再度電話が来た。
「さっきはごめんね。新入社員に20万貸してたんだけど、そいつが会社辞めた上に連絡繋がらなくって。20万円パクられたんだよ実は。だから君に強くあたっちゃった。ごめんね」
イライラしていた事情はわかったが、私にあたる事情はわからない。
果たして、こんな思いをしてまで応援を頼む必要はあったのだろうか。
一つ分かったのは、私は本当に工事屋さんの言いなりだという事。