決意147日前 応援と足手纏い①
お盆が明けて2日目、学校工事の作業が本格的に始まった。最初の作業は屋根下地ボードを貼り付け。作業範囲、作業人数を考えると2日かかると予想していたが、それを2人はその日のうちに終わらせてしまった。
早く作業を終わらせてくれるのはありがたいのだが、問題はここから先である。岡崎さんが数日間、別の現場に離れる必要があった。次の下地シート貼りつけ作業は※墨出しがあるために1人ではできない。
※墨出しとは壁や床、天井などの面に中心位置や水平位置、裏に隠れている鉄骨等を表示する作業。墨やインクをつけた糸を2人で引っ張り、弾いて面に当てることで線を引く事が出来る。
この事を安斎課長に相談すると、「今はウチの支店近辺で応援回れる人はいないので、県外会社にお願いしよう」となった。そこは野嶋工業という会社で、1年に2、3回依頼する事があるらしい。今回は4人の応援が来てくれるとの事だった。しかしこれを気軽に言ってくれるが、県外からの応援は色々と事務処理やコストがかなり変わってくる。通常の工事費用はもちろん、近場ホテルの宿泊費、移動のガソリン代、高速料金、そしてこれらの手配。正直なところ、こうして応援を頼んだところでメリットは少ないのだ。
「今日からよろしくお願いします。依頼かけた山本です」
「ん、よろしく、野嶋でーす。これ、領収書ね」
現場で朝会って二言目で、領収書を渡された。
ここまでして野嶋工業に応援をお願いするメリットは、最早無いのではないかと私は思う。
玄田さんや一人作業現場で一緒だった村田さん、屋方さん、岡崎さん、他にも研修現場でご一緒させていただいた会社、それらの会社と比べて明らかにダラダラ作業をしているのが分かった。関係のない話をしている場面や、単純に小さなミスをしたり、あるいは専門用語を知らず意思疎通さえうまくいかなかったり。屋方さんもイライラしているのが目に見えて分かった。
かてて加えて、野嶋工業への依頼費は日給計算で支払われる。その依頼費用は『屋方さんが手伝ってもらっている』状態になるため、屋方さんと契約した金額から支払う形となる。となると、野嶋工業はダラダラとゆっくり働いた方が得なのだ。
さらにはその日の夜中。
寝る支度をしているところに携帯電話が鳴った。
「ちょっとさ、お前手配したホテル来てくんねーか?」
私は、そもそも部屋の予約ができていなかったのかと不安に思った。
会社の車を持ち帰っていなかったので、すぐに電車でホテルに向かう。たまたま空きがあった会社近くの場所を押さえておいてよかった。現場の近くであればどうする事もできなかっただろう。
「お、来た来た。申し訳ないんだけどさ、4人部屋1つじゃなくて、2人部屋2つにしてくれない?」
これはそもそも、4人部屋を予約してしまった私のミスなのだろうか。それともこの条件を呑めない彼らのわがままなのだろうか。
「それと、これ領収書。ウチの社長とそっちの安斎さん? の間で話決めてたみたいでさ。1日目の晩メシ代は出してくれるってさ。だから、ほい」
領収書には中華料理屋らしき店名と、17640円の記載があった。