決意159日前 やる事リスト
「お前は今パニックになってるな、だから上手く行ってないんだ。元々要領悪いタイプだろ?」と木村さんに言われた。他人から『お前は〇〇だ』と決めつけられるのは何だか癪にさわるのだが、上手く行っていないのは事実だ。とはいえ、確かに紛れもない事実なのだが、しかし「パニックだから」の部分は間違っているのではないだろうか。単純に量が多く、早くこなす方法も分かっていないなら業務が立ちいかないのは当然なはずだ。それをまるで、生まれつきの能力が低いかのように決めつけられるのは、全く納得できない。
「休み入る前に色々指導してやるよ」とも言われた。木村さんのデスクの横に立つと、指導という名の長話が始まった。一枚の紙と赤ペンを取り出す。こうやって書き出すことで頭の中を整理しろ、みたいなものすごくありきたりな内容。すでにそれは実践しているし、アルバイトをやってた大学時代も仕事の流れを覚えるまではそうしてきたが、だからといって「それぐらい知ってますよ」とも言えなかった。
木村さんは、〇〇を作るだろ〜、〇〇に確認とるだろ〜、〇〇をするだろ〜、とブツブツ呟きながら白紙を赤い文字で埋めていく。
「こんだけだな」
赤ペンの文字が隙間なく書き込まれていた。木村さんからそれを受け取り項目の量を見てうんざりしつつも、やるしかないか、と妙に落ち着いた気分になった。
「あと、なんか確認したい事ある?」
私は渡された冊子を思い出す。
「あの、これなんですけど」
カバンに入れっぱなしだったそれを渡すと、木村さんは無言でパラパラとめくり始めた。
「……わかんねーやこれは。この冊子は見たことあるけど、やった事ないわ」
「そうなんですね、やった事ある人わかりますかね」
「さあ?」
「…」
「それね、貸してみ。これ小林くんに任せれば大丈夫よ」
そこに、再雇用の大ベテラン社員である川井さんが声をかけてくれた。木村さんから冊子を受け取ると、総務課の小林さんに渡した。そのまま二人は話し込んでいた。しばらくしてそのまま川井さんは自身のデスクに戻り、小林さんは「一旦返すねこれ」と冊子を私のデスクに置いた。この件に関しては、とりあえず二人に任せておけばよいのだろうか?
仕事が山積みになりすぎると、逆に冷静になるタイミングが来る。冷静になっても仕事が減る訳ではないが、どんなに遠いゴールでも見えているだけで気が楽なのかもしれない。
冷静になって木村さんの作ってくれたやる事リストを眺めた。工場役物請求、工場役物工事屋支払い、工場役物書類整理、体育館部材計算、体育館部材メーカー見積もり、体育館工程表、体育館搬入計画、、、、
びっしりと書き込まれていた。どれも間違いなくやるべき事だった。
しかしただ一つ、流石におかしいと思うものが一つ。
やる事リストの一番上に、『やる事リストを作る』と書いてあった。
…なんだか、バカみたいだなぁと思った。