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決意170日前 お手伝い


 基本的に施工管理の仕事をする人間は、作業に参加してはいけない。他の会社はわからないが、少なくともウチでは『頭数にカウントしない』ようにしている。ちょっとした荷物運びをしたり外壁ボードの端っこを一緒に押さえたり、その程度なら問題は無いが重い資材を4人で運ぶにあたって、その4人目として計算に入れてはならない。研修ではそう教わっている。


 また、職人さんが一人で作業する状況も良しとしていない。これは例えば、熱中症で倒れた時に発見が遅くなる、などの安全面の観点から避けるべきものなのだが、現場の作業の内容によっては一人で工事した方が良い場合もある。その時は社員が現場に付き添うのが常だ。


 そして月曜日に木村さんと安斎課長から声をかけられたのは、「小さい現場で職人の作業に付き添ってほしい」との事。

 営業課から急に持ってこられた案件なので、工事課でも誰が担当するか上司の間で困っていたらしい。営業課曰く、工場4棟分の外壁役物だけの小額工事案件が来ていたのだが、相手方ゼネコンはかなり長い付き合いでもあるので是非とも請けておきたい。加えて、小額ではあるもののウチの会社で余っている在庫の金属板で役物を用意できるので、原価もほとんどかからない。工事の依頼費が必要になる程度なので利益率はかなり高く、デメリットは殆ど無い。という話である。


 私にこの仕事を投げられた時、一度は断った。

「正直、次の現場の準備多すぎて厳しいですね」

「いやいやいや。そんなもんこの現場こなしながらできるだろ! ねえ安斎課長」

「うん、木村さんのいう通りでもあるし、実際誰も担当できないから、自分の成長のためだと思ってさ」

「…わかりました」

「お前さ、そんなんでヒーヒー言ってたら今後やってけないぞ。わかってんのか?」

 投げられたものを、受け取るしか無かった。


 二人から頼まれた内容はこうだった。

 今回の工事は今井工業に依頼をかけて、今井工業所属の職人さん一人でやってもらう。しかし一人作業になってしまうので、3mの役物を一緒に運ぶ程度はしながら、怪我や事故が起きないように付き添っておいて欲しい。

 と、話していた。

 果たして3mの役物の設置は、一人でできるのだろうか。絶対に2人で作業する必要があるのではないだろうか。それを職人さん1人に任せようとしているのは、私も頭数に数えているからなのではないだろうか。しかし木村さんも安斎課長も決して「職人さんを手伝え」とは言っていないので、これに関しては深く考える事をやめた。


 火曜日は現場確認に役物の採寸と発注、水曜日に今井工業への依頼書と安全書類の作成、木曜日には現場に役物が納品されて工事が開始された。全体の量とペースを考えると再来週の月曜日まではかかりそうである。


 現場作業に付き添うというのは、朝8時から17時まで現場に常駐するという事。そしてその時間現場に常駐するという事は、次の学校体育館工事の準備はそれが終わってからしか取り掛かれないという事。そしてそれが終わってから取り掛かるという事は残業時間にやるしかないという事。残業時間にやるしかないという事は睡眠を削るしかないという事。

 さらにその常駐の現場は、やたら遠かった。朝8時に間に合わせるには、朝6時には支店を出発している必要があった。


 次の体育館の工事は、再来週の火曜に開始される予定である。

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