表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

王妃とのお茶会

 鼻腔を擽る爽やかな茶葉の香り。穏やかな春の陽気と庭園を彩る綺麗な花々に、クララはほっとため息を吐く。



「楽にして頂戴ね。お仕事は大変でしょう?」



 ハッとして振り向けば、金色の髪の毛に青い瞳の美しい、気品あふれる貴婦人が優しく微笑んでいる。



「お気遣いありがとうございます、王妃様」



 クララはそう言って恭しく頭を垂れた。


 この国にいる王妃は3人。第1王子カールの母親、第2王子ヨハネスの母親。そして今クララが対峙している、フリードの母親だ。


 まだ二十代と言っても通用する若さと美しさだが、実年齢は30歳を超えているらしい。



(王室御用達の化粧品や美容グッズってやっぱり、市井に出回るものとは質が違うのかもしれないわね)



 クララはボンヤリとそんなことを考えた。



「ごめんなさいね、呼び立ててしまって」


「いえ、とんでもございません。光栄です」



 茶の準備を終えると、侍女たちはクララと王妃を二人残してさがっていく。予め王妃から二人きりにするよう言付かっていたのだろう。


 王妃と会うのはこれが初めてで、彼女が一体どんな人物なのか、クララはまだ知らない。

 小さな緊張感を抱きつつも、しっかりと王妃に向き直った。



「さて、二人きりになったところで本題なのだけれど。あの子は――――フリードはちゃんと、あなたと仲良くできてる?」



 王妃はそう言って困ったような笑みを浮かべる。



「少し癖のある子だから心配していたの。あなたのことを遠ざけたり、むしろベタベタしたり、変なことを言い出したり……色々と困らせているんじゃないかって」


「殿下が?」



 クララはそう言って首を傾げた。


 フリードに対する印象は、穏やかで優しいといったものばかりで、王妃の言う印象とは当てはまらない。『仮ではなく本当の婚約者になってほしい』と言われて困惑したことはあるが、それはノーカウントだろう。



「あっ、でもね、根はすごく優しい子なのよ!皆から誤解されがちなんだけど、本当はすごく思いやりがあって」



 クララが口を開くより先に、王妃がそう捲し立てる。



(素敵な方だなぁ)



 きっと王妃は、息子であるフリードのことを心から愛しているのだろう。穏やかで優し気な面影がフリードにピタリと重なった。



「殿下はとても優しいです。わたしにもすごく親切に接してくださっていますよ」


「本当?良かった……」



 無邪気な笑顔を見せる王妃に、知らずクララの頬も緩む。

 どうやら王妃との相性は悪くないらしい。クララはホッと胸を撫でおろした。



「本当は私、今回の王太子争いには反対だったのよ」



 優雅にティーカップを揺らしながら、王妃は笑った。何やら悲し気な表情だ。



「どうしてそう思われるのか、お尋ねしても……?」



 クララは遠慮がちに尋ねつつ、首を傾げた。

 王妃は優し気に目を細めると、ぼんやりと遠くの方を見つめた。



「私もあなたと同じ内侍――――王太子の仮の婚約者だったから」


「えっ……」



 思わぬことに、クララは目を丸くする。

 内侍を交えた王太子選びは、今回が初めてだと思っていたのだ。



「驚くわよね。おまけにあの時は、王太子候補が4人いたの。私はあなたと同じ、当時の第3王子の内侍だったのだけど」



 王妃は小さく笑いながら、目を伏せた。

 先程よりもなお悲し気な表情に、クララは胸が痛くなる。



(このまま話を聞いて良いのかしら?)



 そんな風に思う気持ちもありつつ、クララは小さく首を横に振る。きっと王妃も誰かに聞いて欲しかったのだろう。そんな表情に見えて、クララは静かに王妃を見つめた。



「結局王太子になったのは当時の第4王子――――今の国王陛下だった」


「えっ!?第3王子じゃないんですか!?」



 クララは思わず声を上げた。


 王妃が内侍として仕えた第3王子が国王に就任したからこそ、王妃は今の地位にあるのだと思っていたのだ。



「ええ。当時の第3王子はとても素敵な人だったわよ?けれど陛下には勝てなかった。――――最初は陛下の内侍を務めた娘一人が妃になったわ。けれど、いつまで経っても子が出来なくてね。それで、他の王子の内侍を務めた私たち3人も、妃として迎えられることになったの」



 王妃の話を聞いて、クララは愕然とした。


 今の話を現状に置き換えれば、例えば王太子の位を第1カール王子が手にしたとする。けれど、彼のパートナーであるイゾーレに子が出来なかったら、レイチェルとクララはカールの妃とされてしまう――――そういうことだ。



(無理!あり得ないわ!)



 偉そうで無骨なカールも、贅沢好きで軽薄なヨハネスもごめんだ。クララの背筋を寒気が襲った。



「あんまりだわ!そんなことって……」


「酷いでしょう?私もショックだったわ。特に皇后さま――――陛下の元々の婚約者は気の毒でね。陛下ととても仲が良くて、愛し合っていらっしゃったから」



 泣き出しそうな表情で、王妃は笑った。


 他に思う人がいても、皇后のことを気の毒に思っていても、王妃には王妃の為すべきことがあった。それはきっと、身を裂くような想いだっただろう。



「だからね、あなたには私と同じような想いをしてほしくないの」



 王妃はクララの手を取ると、真剣な眼差しで訴えかける。



「もしもあなたが、フリードより他の2人の方が王としての資質があると思うなら、そちらを推して良い。けれど、そうでないのなら――――全力で二人を潰しなさい。それがあなた自身を救うことになるから」



 クララの心臓はバクバク鳴り響いていた。冷や汗が背中を伝う。


 もしもフリードが王太子になれたら。クララは王太子妃になどならず、自由になれるかもしれない。想い描いた恋を求めて許される可能性がある。


 けれど、もしも他の王子が王太子になったら、もしも彼のパートナーに子ができなかったら――――――クララは間違いなく逃れることが出来ない。政略結婚も真っ青な強制的な婚姻と相成る。



「王妃様、ありがとうございます」



 クララはゆっくりと目を開けると、真っ直ぐに王妃を見つめた。

 そもそも、クララはフリード以外の王子を王位に就けるつもりはない。やるべきことがより明確になっただけだ。けれど、そのことが持つ意味はとても大きい。



「わたしがきっと、殿下を王太子にしてみせましょう」



 そう言って微笑むと、王妃は嬉しさと切なさの綯交ぜになった複雑な表情で笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ