表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

城外ミーティング

 割振りが決まってからも、クララの忙しい日々は続いた。


 楽団や彼等に演奏してもらう楽曲や演出の調整、衣装の手配等することは山ほどある。


 それに加え、当日に動いてくれる礼部の文官たちとの打ち合わせも並行して行っていくのだが、王子の割り当て毎に人員が割り振られているため、意思疎通が非常に難しかった。



(お料理の構成とか宴のコンセプトとか、きちんと擦り合わせたいのに)



 本来は全体の構成を決めてから、各々の仕事に取り掛かるべきなのだろう。


 けれど、フリードはともかく、カールとヨハネスは、誰かに合わせようという気が全くないらしい。

 クララも何度か交渉を試みたものの、全く効果が無かった。



「これじゃぁ共倒れまっしぐらだな」



 コーエンが苦笑を浮かべながら頭を掻く。クララはグッと眉間に皺を寄せた。



「でも、それじゃぁダメでしょ?」


「ああ。この間説明した通り、このままだと国に危険が及びかねない。統率が取れてないのもろバレだからな。それでも、カールあたりは『国の軍事力を見せつける良い機会だ』とか言い出しかねないけど」


「そんなのダメよ!こんなことで誰かが血を流すことになるなんて……」



 本来ならば避けられる筈の戦い。王家がバラバラなせいで、要らぬ争いが引き起こされるなんて、クララは絶対に嫌だった。



「まぁ落ち着けって。それを何とかするために、こうして俺たちが出掛けてるんだろ?」



 コーエンはそう言ってニヤリと笑った。


 二人は今、連れ立って城外を歩いている。

 内侍になって以降、クララは城内に部屋を与えられているため、約1ヶ月ぶりの王都だ。


 城壁がないというだけで、空気が清々しく感じられるし、開放感が大きい。太陽の光すらも、いつもより眩しく感じられた。



「それにしても、どうしてわざわざ城外に出るの?」



 クララはそう言って小さく首を傾げる。


 二人がこれから会う相手は、登城の許されている人物だ。敢えて場所を移す理由がクララには理解できない。



「城だと邪魔が入りかねないし、こっちの方が息抜きできるだろ?この間も言ったけど、気分転換も大事だって」



 大きく伸びをしながら、コーエンは笑った。


 いつもよりもラフな服装。掻き上げた髪の毛が新鮮に見える。普段から気取らず着飾らないタイプのコーエンだが、今の方がより自然体のように思えた。



(わたしは今のコーエンの方が好きだなぁ)



 そんなことを考えながら、クララはハッと立ち止まる。それから己の言葉を反芻すると、ブンブンと大きく首を横に振った。



(好きって……違う違う。そう言う意味じゃないんだけど)



 クララは思わず赤面する。特別な意味での好きではない。そう思っているはずなのに、何故だかそのままコーエンから視線を逸らすことができない。


 ちっとも返事をしないクララを不審に思ったのだろうか。「クララ?」と呼びかけながら、コーエンが小さく首を傾げた。



(いけない。ちゃんと返事しなきゃ)



 ペチペチと己の頬を叩きながら、クララは己を鼓舞する。それからニコリと微笑むと、コーエンの隣に並び立った。



「そうね。久々に城の外に出られて、わたしも嬉しいし」



 言葉の通り、最近沈みがちだった気持ちは間違いなく浮上している。足取りも随分軽やかだ。



「行きましょ!コーエン」



 いつの間にかクララはコーエンを追い越し、街への道を駆けだしていた。

 コーエンはしばらく眩しそうに目を細めていたが、やがてゆっくりとクララの後に続いた。



 二人が訪れたのは王都のはずれにある小洒落たカフェだった。

 店内には客は殆どおらず、隠れ家的な雰囲気を醸し出している。



「あいつは……まだ来てないらしいな」



 店内を見回してみても、目的の人物の姿は見えない。

 クララたちは店の一番奥、窓際の席を陣取った。



「なんか頼む?」



 席に着くなりコーエンはそう言うと、手慣れた様子でメニューを広げる。



「えっ……えっと」



 クララは差し出されたメニューをおずおずと覗き込んだ。


 貴族の令嬢として生まれたうえ、まだ16歳。こういった店に来るのは生まれて初めてだった。どんなものを頼めばいいのか、どんな風に振る舞うのが正解なのか、クララにはちっとも分からない。


 同じ貴族のはずなのに、コーエンは随分と慣れた様子だ。まるで常連客かの如く寛ぎ、楽しそうな笑顔を浮かべる。



「ほら。クララが好きな紅茶もケーキも色々揃ってるぞ」



 そう言ってコーエンはクララの肩をグイッと抱き寄せた。吐息が重なるほどの至近距離。わけもなくクララの心臓がトクトクと高鳴った。



(近いっ!近すぎるんですけど!)



 コーエンが隣であれこれと解説しているのが聞こえるものの、内容がちっとも頭に入ってこない。クララは思わずギュッと目を瞑った。


 すると、クララの脳裏にふと、以前読んだことのある本のワンシーンが思い浮かぶ。


 ある日の休日。主人公は街に出掛けて、食事をしたり、買い物を楽しんだりする。それらの行動は、彼女にとって当たり前で、ただの日常の延長線。

 けれどその時、主人公は想い人と一緒だった。たったそれだけの違いだけど、主人公はいつもより楽しくて、ドキドキして、そして幸せだった。


 まるであの物語の主人公の心が乗り移ったかのような心地。

 好きな人と二人きり。一緒にいるだけで楽しくて、嬉しくて。



(いや、違うけど。違うんだけど。なんだかこれってまるで――――)


「おい、クララ。折角のデートなんだから、そんな難しい顔するなよ」



 コーエンはそう言って、クララの眉間をコツンと小突いた。



「…………え?」



 まるで心臓を射貫かれたかのように、クララの中心が熱く、甘く騒めく。割と強めに小突かれたはずなのに、眉間に痛みは感じない。その代わりに、コーエンの触れた場所がじくじくと熱く、クララの全身を浸食するかのような心地がするだけだ。



(冗談、よね?)



 そう尋ねてみたいけれど、クララの唇は思うように動いてくれない。


 コーエンの青い瞳が、いつもみたいに悪戯っぽく揺らめくんじゃないか。そう思っているのに、真剣な表情に見えてしまう。磔にされたかのようにコーエンから目が離せない。



「うーーーーん、デートかぁ。デートだったら邪魔は出来ないなぁ」



 ふと、誰かの声がクララを思考の深淵から呼び戻した。


 困ったような人懐っこい笑顔。見事な紅い髪の毛にスラリとした長身。

 クララとコーエンの待ち人、騎士団隊長シリウスがそこに立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ