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退廃アイソトープ

作者: 魚羅投句

 目覚め

安定なる安寧の海に沈んでいたその時、確かに自分は存在しなかった。

充足理由律に則る海には、予知されない感覚と意識されない記録、認知されない自己までもが電離していて、結合によって生み出された異界は瞬く間にまた電離する。

断定なき混迷の系においてはその時、統一された継続的な自己も海に引き裂かれ、結合されるその時まで眠る。

目覚めとは、惰性の波動エネルギーによる典型的自己の選択と結合、浮上である。

そして外界に接した化合物はその孤独、異質、恐怖に、海への帰還、再度の電離を夢に見る。


 通学路で

一歩進むごとに、何か目に見えない体の一部がチョークのようにすり減っていくのを感じる。

冷たい風はこの身から体温を奪うと共に後ろへ体を引っ張る。

どうしようもない理由が、例えば事故や怪我、そんなものがあれば今すぐ家に帰っても怒られないだろうか。いや、こんなことを考えるのは寝起きのせいだ。

目に見えない金や貴重な時間、今までの労力はリードのように僕を引きずる。だから姿勢が悪くなるのか。

もしも僕が諸々の法則を振り払って、自然発生したのなら、喜んで野垂れ死ぬというのに。

残念ながら自己責任の範囲外の力、言うなれば外力によって成立しているのが現実だ。

作用に対しては反作用を返さなければならない。

ソクラテスが毒を仰いだように、この世界、社会に存在する以上、その道理は泣く子も地頭も飲まなければならない。

ありもしない他人の目と、ただあるだけの寒さに曝されて。


 授業中

さて、努力という概念が我々には植え付けられている。

受験はどれだけ努力したかで合否を分ける。

努力すれば必ず報われる。

努力できる人間は素晴らしい。

こんな言葉は小さいころから暗示のように繰り返される。

人はいつから努力なしには生きられないようになってしまったのだろう。

ことあるごとに物事の原因になりすまし、神聖視されるこれは毒か薬か。

そも、そんなに努力が好きならライターなんか捨てて火打石で煙草に火を点けるべきだ。

とはいえ努力がなければ火打石を捨ててもライターにたどり着けなかっただろうか。

ああ、やるせない。


 帰路の空から

朝は太陽の無差別なエネルギー放射に身勝手な優しさを見た。

でも今は、彼はここを去り、彼女が代わりに顔を見せている。

月の反射に保護する者の優しさを見る。

過剰な明るさをもたらさず、唯々寄り添うような静寂を与えている。

そして夜風は胸の熱を掠め取り、知性を思い出させる。

いや、それでも確かに彼女は自分を見守っていた。

今もその身に艶やかな色を持ち、こっちを見ている。

しかし月はもはや生きていない。

人々は遠い昔、理性によって既に月の女神を殺し、今はそれを醜い手中に収めようと進歩を続ける。

理性を手に取ったその瞬間から人間は自然を相手に戦争を続けている。

環境保全の名の下に改造を行い、もたらされた肉体を海賊版へと交換し、過去の場に未来を混入し、人のための自然が咲き誇る。

自然に人工の意味が入り込む日もそう遠くないのだろうか。


 自分を閉じて

今日も一日何も得られず、何も成しえず、何も果たさず

ただ飯を食い、時が過ぎるのを待っていた。

月が微笑み、言葉は歪み、思考は霞み、重りは嵩み、そしてまた海へと沈み。

蒙昧の明日に高邁を託し、後退の癖に相殺で終わり。

意識を手放し無意識に放任する。

そして願わくば、永遠の沈黙を。







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