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ようこそ! マジックランドへ!

“彼”は本を片手に崖の上にいた。

なんとも不思議な空間で、ほのかに青く光る球体が浮かんでは消え、また別の所からそれが確認される。空は分厚い雲に覆われており、雷が鳴っている。

「…(とき)が近付いている…。」

彼は手のひらサイズの輝く石を見つめながらそう言った。

「……。」

彼は本を開き、英雄の話を開始させた。

魔法。それは夢のようなものだ。誰だって一度は羨んだことがあっただろう。

科学技術は年々進化を重ねていて、もしかしたら我々の生活も、いつかSF映画で見たような光景が当たり前になっているかもしれない。...ふふ、なんてね。さぁ、今回も英雄の話をしよう。ジクティアの話しとかエリアスさんの話しとかしてきたけど...今回のも結構面白いと思うよ。さぁ、それじゃまず主人公となる“彼”の話をしないとね。彼の名はランム君。容姿は結構変わっててね。といっても、エリアスさんのように苛められたこともなければそれをコンプレックスにも思ってなんかない。両の目のそれぞれの色が赤と青のいわゆるオットアイで、紫色の髪の毛をしているんだ。彼はマエニカ王国で最も優秀な魔法学校に通ってる。学校名は、「ヴィフィール魔法専門学園校」だ。本編とは関係ないけど、後に現れる英雄もここ出身だったりするんだ。いや、出身というには...彼は彼で複雑で...おっと、今回はランムくんのお話だったね。




マエニカ王国は最も魔法に優れている。いわゆる“魔法科学”というものが発祥した国で有名だ。だから国外に出る魔法使いは、その証明書と免許を持つことを義務付けされている。今となってはマエニカだけではなく、同じ魔法文化があるアマルス王国もそうなのだ。

そう、そもそも魔法というものはこの両国だけの特殊なものではなく、国際的に存在が認められているのだ。


マエニカ王国内にある、とある田舎町に彼らはいた。一人はランム。紫色の髪で、両目の片方のそれぞれが赤と青になっている。次にアグネーゼ。オレンジ色で艶のある綺麗な髪はショートカットにしており、髪止めを使って分け目を作っている。天真爛漫な女の子だ。

最後にパルタ。茶髪で、この三人の中では一番身長が高い。体を使って遊ぶことがなによりも好きで、ランムを無理矢理遊びに付き合わせている。

3人とも12歳で普通の幼馴染だ。

彼らは突然魔法使いとして覚醒した。それにより、専用の学校に行かされることになったのである。

というのも、魔法使いに覚醒した者は、その力を暴走させないため、そして不正なことに使用しないために教育させる義務があるのだ。これに反したものは厳重な罰が与えられる。ヴィフィール魔法専門学園校は、王国の首都にある。魔法専門というが、一応そうでない者が通う通常学科もある。あくまでも魔法使いを育成させる学校であることにはかわりない。


「ここが魔法学園…! ランム、心が踊るな!」

ウキウキ気分のパルタは、そう言って車から降りた。学校が転校生の彼らを迎えるための車だ。

「うぇえ……車酔いした…。」

今にも干からびそうな顔をしているランムの背中を、アグネーゼが擦ってやる。

「ランムー、もう死にそうじゃん? 大丈夫??」

「大丈夫じゃない…。」

「だよねー…。パルター! 遊んでないでランムをなんとかしてやってよー!」

パルタは好奇心の塊のような存在だ。そんな彼がこの新天地に興味がないわけがなく、校門前をキョロキョロして辺りを見渡していた。

「遊んでなんかないぜ? ほら見ろよ! ホウキで空飛んでる! 絨毯(じゅうたん)の方が絶対いいのに!」

彼は満面の笑みでそう言った。

ランムはそれが見たくなって車を降りると、アグネーゼもそれに続いた。

12歳の彼らの目前に広がったのは、夢にも思った光景だった。杖を使って放つ魔法も、パルタが見た空飛ぶホウキも、魔法薬物を使った実験も、すべての夢がこの学園のなかに詰まっている。

車酔いのせいで乗り気ではなかったランムも、そう思うと心の内側からこの先の学園生活が楽しみに思えてきた。

「な? ランム、心が踊るだろ?」

パルタがキラキラと輝いた目で彼を見つめる。

「…うん…! これから俺たちも…立派な魔法使いになるんだ…!!」

この先の学校生活が非常に楽しみになった。

「ようこそ、ヴィフィール魔法校へ。」

瞬間移動の魔法を使ったのだろうか。灰色のローブを身に纏った男性がランムたちに声をかけた。

「私は君たちの担任を務める、クロノア・メアリーゼだよ。よろしくね、ランムくん。」

男性はまずランムに手を差し伸べた。彼は少し怖気付いたが、すぐにそれが握手のものだと分かると、その手を握った。

クロノア先生はそんな彼の頭をくしゃっと撫で、次にパルタに握手を求めた。白い歯を見せてにかっと笑うパルタに笑顔で返し、最後にアグネーゼと握手をした。

「さぁ、学校探検をすぐにしたいところだろうけど、まずは制服に着替えなきゃね。校長先生への挨拶も兼ねて……。」

ランムたちは元気よく返事をすると、クロノア先生は笑顔で校長室へ案内を開始させた。


「君たちが転校生だね? ランム・プラディくん、パルタ・ルミネーラくん、アグネーゼ・スカーレットさん。」

校長というには若い人だった。滑らかそうな長髪で金色が特徴的…いや、それも普通の金髪ではない。なにやら光を放っているように見える。

きっと、彼がただ者ではないという雰囲気を感じるのは、校長だからという理由だけではないはずだ。

「私はヴィフィール魔法専門学園校校長の...。」

途中で切った。何故かは分からない。そして一瞬だけ曇った表情でランムを見つめた。いや、これは睨みだ。彼はすぐに寒気を感じた。ただの寒気ではなく、そこにうっすらと隠れた恐怖と…敵意…? 感じたことのない気迫? 彼の体はまるで凍りついたみたいに動けなくなってしまった。

が、次の瞬間、校長の顔が笑顔になった。

「私はヴェスパ・ザカリアスだ。普通に過ごしていたらあまりお目にかからないかもしれないけど、よろしくね。」

ランムは彼から“何か”を感じたことで険しい顔つきになっていたが、二人は何もなかったかのような表情でいた。

彼はそんな二人を不思議に思った。


ここの制服はローブだ。学年ごとに色が変わるようで、1年の彼らの色は赤と黒の混合色だ。

早速出されたそれを身にまとうと、ヴェスパ校長とクロノア先生は似合っていると言ってくれた。

素材は特殊なもので、初めて着たときのサイズに合うようになる。

「さて、これから君たちは本校の生徒だ。ヴィフィール魔校の生徒として、誇りをもって行動したまえ。」

ヴェスパ校長がにこやかに言った。

「ちなみに、分かっていると思うけどここは寮がある。三人とも入寮するってことでいいんだよね?」

校長が続けた。

パルタとアグネーゼは元気に返事をしたが、ランムは静かに頷いただけだった。

先生らは細かい指摘はせず、三人をそのまま寮に返した。


「うぉー! 今日から三人でここで暮らすのかー! よろしくね二人ともー!」

アグネーゼが寮の敷地内ではしゃぎ出す。

「…女子寮は別だ。」

先生が呆れた様子で言う。

「え…? 二人と離れるの…?」

まるでこの世の終わりのような顔を見せた。寮は一つの建物の中で男女別にするものだと思われたが、どうやらそうではなく、男子寮と女子寮で分かれているらしい。

アグネーゼは女子寮の寮監の人に連れていかれた。

「さぁ、男子寮の先生の言うことはしっかり聞くように。」

クロノア先生はそう言うと、瞬間移動の魔法で学校内へ戻った。

パルタとランムが二人きりで外で待っている。

「…パルタ。」

「ん? お前さっきからずっと暗い顔してるけど何かあったのか?」

ランムはヴェスパ校長から感じたことをそのまんまパルタに伝えた。

「…なにいってんだ…?」

しかし通じなかった。何故だ?

話を途中で切っただろうと言っても、そんなことはなかったと返答された。

自分がおかしいのだろうか? いや、そんなはずは…。

しばらくして現れた寮監の人が二人を寮内へ案内した。



「ついに現れましたね…。」

ヴェスパ校長が窓越しに外の景色を眺めていた。

校長室に一人、彼は何を思いながら外界を見ているのだろうか。聞こえてくる音もなく、彼はまさに孤独である。

「お待たせしました。ヴェスパ様。」

移動魔法によって現れたクロノアは、ヴェスパの前に膝まづいた。

「クロノア、ご苦労でした。それで、いかがでしたか?」

「えぇ、ヴェスパ様のおっしゃる通りでした。…恐らくランムという少年が…“それ”かと…。」

「やはり…。この時を待ちわびていましたよ…。私と対を成す力……“悪の波動”…。」

ヴェスパはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



英雄之仮面 魔法の界 #01 ようこそ! マジックランドへ!

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