第32話 日記
「はぁ~」
希里弥はそうため息をつくと陽火輝とじゃれあっている(傍から見たら殺し合い)をしている真那を見て、
「あいつに賭けたのは危険すぎたか...」
と言うと。それに対し零はいつもみんなを馬鹿にするときと同じ笑いをした。
「僕も君と話した時からなんでこんな人が真那なんか期待できないっ...」
突如話していた所に水球が飛ばされてきたので話は中断させられたが被害は全くない。なんせここは零が自由に操れる世界なので水球は零と希里弥に当たる前に透明な壁に阻まれ弾けた。
「ちょっとうるさいから君たちはこっちに行っててっと!」
するとまたも見えない壁が現れ、真那と陽火輝たちをこの世界から切り離した。
真那と陽火輝は見えない壁を叩き、出してくれという様なアピールをするがこちらには何の音も聞こえない造りにした。しばらくすると二人は出してもらうのを諦めたのかまたじゃれあい(殺し合い)を始めた。
ちなみにこの時亮太、甲斐、美花見は追いかけっこをし、美咲は美花見に見せるためにシロツメグサで花冠を作ろうとしていた。
「悪いね家のやつ等がうるさくて」
そう言いながら零は希里弥の前に木目調のテーブルと椅子を用意した。
「それで、なんで最高議会に嘘をついたかだっけ?」
椅子に腰かけた希里弥の問いに零は黙って頷く。
「ここは外から盗聴されたりしないだろうな?」
希里弥は真剣な表情になり零に聞いた。
「まぁあ基本的にそういうことはないがそちらにそのようなことが可能な異能の持ち主がいたら対応できるかどうか分からない」
「なら大丈夫だ。一人可能かもしれない奴はいるがそいつは今出かけてるはずだ」
「なぁあ、何でそこまで俺らに教える?一への絶対的な信頼か?それとも...」
希里弥は本を閉じ、栞をテーブルの上に置くと、
「それとものほうだ。私はこの世界をあまりよく思わない。階級制度、異能者主義思想、王家による情報統制。すべてが気に入らない」
やはりそうだったか。希里弥はこの国のあらゆることに疑問を抱き、本から得た知識によってこれはいい文明だとは思わないと判断したのだろう。でもなぜ一に勝つことのできない真那に期待したのだろうか。
「それで真那を救うことでこの国に反旗を翻す機会を待っていたと?」
その問いに希里弥は首を横に振った。
「これをよく見て」
そう言って零に見せたのはずっと希里弥が持っている本、だと思っていたがこれはよく見ると本ではなくとても分厚い何かを記録するためのノートだった。そして表紙の太い枠の中には、
「えーと...。旅の日記8?」
ぼろぼろで字も雨に当たったのかすんでいて読みずらいが確かにそう書いてある。
「やっぱり、あなた達は読めるのね...」
希里弥はそう言ってもうひとつこれと同じ厚さのノートを取り出すとそこには見たことのない文字が刻まれていた。
「これは?」
零が聞くと、
「これが私たちアトランティス人の文字。私たちはあなた達と話す言語は同じだけど文字だけは違うの」
理解ができない。それはこんな地下世界を独自に築いたのだから違う文字が成立したりするのは分かるがそれを今もなお使い続ける意味がない。なぜ言語のみ日本語のまま文字は変えないのか...。
希里弥は続けて話した。
「日本の征服。それがこの国王の夢なの」
日本の征服?その為に地下に大規模な世界を作り何代かに渡ってその期を待っているのか?
「そんなの無茶だ。地上はこの国以上に文明が発展し、何においても敵わないだろう」
すると希里弥はアトランティスの文字で書かれたノートと照らし合わせ、日本語で書かれた方のノートを開き零に見せた。
4月9日
私たちはキャンプをするため森に入った。急な雨が降ったのでボロボロの煉瓦でできた廃墟で雨宿りをすることにする。
4月10日
私たちは目を覚ますとどこか綺麗な場所に来ていた。遠くには白で統一された綺麗な建物が見えるが私たちの居る場所には目の前の巨大な工場と広大に広がる農地、そしてここに暮らしている人たちの家なのだろうか、刑務所の様な檻の中に何人か人がいる。話しかけても「うぅ」や「あぁ」など言葉が話せないようだ。
4月11日
ここに来て初めて言葉の話せる人間が来た。病院で検査を受けなければいけないらしく今日は仲間の二人が病院に行き私たち二人は待機だ。
4月12日
仲間の一人が戻ってこないもう一人も戻ってきたがなんだか様子がおかしい。明日自分が病院に行くのが不安だ。
4月13日
私たちは逃げることを決断する。一人はもう完全におかしい。二人で逃げる。
ページはここで終わっていた。
「おい、これなんかの本なのか?」
「いいや、これは地上の異能持ちじゃない人間が死ぬ前に書いた日記だ。こんな人間たちをこの世界では下民と呼ぶ」




