第28話 頭脳戦
男はこちらに背を向けたままトアンフィールへと歩を進めた。
陽火輝は咄嗟に、
「おい、そっちの名前はまだ聞いてねぇーぞ!」
「覇梛君、君は実に短期ながらも戦闘になると意外と冷静なんですね...そうですねぇ、名前ですか...水龍君同様、一とでもお呼びください。なんせ名乗るほどの名は持ち合わせていないので...」
この返答を聞くなり零はしめたといわんばかりの顔をし、
「一さん、あんたの異能はどうやら無条件に未来が見えるわけではなさそうだな。例えば...あんたが起こそうとした未来に対する結果が見える。そんなとこじゃないか?」
この問いにトアンフィールへと向けて歩いていた一は歩みを止め、こちらへ振り返ると、
「なんと..なんと素晴らしいのでしょう!これほどの頭脳を持った者がこの世にいるなんて!あぁ、彼のように素晴らしい人間がいれば私の異能に勝るかもしれない!時に予想とは未来を見るよりも早く結果を知りえる。そしてその制度が彼程高ければ...あぁ、想像するだけで興奮が止まりませんねぇ!」
一と名乗る男は急に人が変わったかの様に興奮により身震いをさせながら早口に喋った。
「しかし、なぜあなた程素晴らしい御方があの様なみすぼらしい下民に固執するのです?」
その問いに真っ先に反応したのは零ではなく、
「それは凍弥のことを言っているの?」
表情は怒りで満ちていた。美咲にとってこれは問いではなく確認であり返答次第によっては戦おうと考えていたが、
「やめろ美咲。今の僕たちではあいつに勝てない。」
またも零の発した言葉に身震いを起こすと振り返りトアンフィールへと歩を進めた。
「そう、もう一つの問いですがお答えできかねますね...。それにその問いは声にしない方があなたの為です。お仲間の一人が襲い掛かってきたので私思わず殺してしまいました。その未来はお勧めできません」
零はその返答に冷や汗をかきながらも虚勢を張り、
「ご忠告どうも。あんたが俺の問いに否定はしなかったてだけでも大きな収穫だ。」
そしてとうとうたどり着いたトアンフィールの扉を一がトントンと二回ノックすると内側から二人のメイド姿の女性が扉を開けた。
「お帰りなさいませ。一乃席...」
咄嗟に一は二人のメイドの首を掴み片手で持ち上げ宙に浮かすと、
「以後俺以外、他のものが同時にトアンフィールへ入る時は俺のことは一と呼べ」
そう言いさり二人のメイドを床に叩きつけようとしたが、
それを後ろから見ていた亮太と甲斐が瞬時に落下地点に入り二人のメイドを受け止め優しく下した。
「おい、一。お前弱いやつに手出すとは何事だ。俺がいない時はいつもこうなのか?」
真那は怒り、髪の色はあの時と同じく赤から青へと変わっていく。
「いいや、そんなことはしないさ。いつもより使えないから教育をしたまで。いつもはこんな平民でも貴族程度にはなれるように俺の子を孕ませるために...」
零はその発言を聞き怒りがこみ上げるのを抑え瞬時に真那を見たがその時にはもう真那は攻撃の姿勢に入っていた。一は見ていたのだろう。構えは真那よりも先に一がとっていた。
(間に合え...!)零は真那の前にゲートを展開し、一の拳が真那に直撃する前にゲートで真那を助けようと考えた。ものすごい音を立てて一が殴ったのは空気だった。つまり、
「おい、零!どういう事だ!俺をこっから出せ!」
なんとか真那を救うことができた。おそらくゲートに入れていなかったら骨折は免れなかっただろう。一は恐ろしい異能を持つだけでなく圧倒的な体格にパワーも持っている。それになにやら機械のようなものも装備している。
「さすがの判断力だね、河城君!でもお陰で名前も異能もバレちゃったね...。弱いだけの仲間は持たないほうがいい」
「それはお前も一緒じゃねーか?真那を俺が逃がすのを知らなかった。つまりお前は見た人に他者が関わることまでは分からない。お前に見えた未来はなぜか分からないが真那を殴れない未来。ほらな、仲間は俺にいいことしかしてくれねーよ!」




