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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

物語の断片集

血まみれの笑顔

作者: 風白狼

 覆面をかぶった二人組の男達が、部屋で平然とお茶を飲む女性を闇の中から覗いていた。恐らくこの女性は自分たちに気付いていない。やるなら今だ。


 他の客がいないのを見計らい、女性の前後を挟み撃ちにした。突然の男どもの出現にも、彼女は動じた様子はない。剣を振りかざすが、相手は軽い身のこなしでかわしてしまう。予想外に、この女性は強かった。それを見かね、男の一人が向かってくる女性に催涙スプレーをかけた。たじろいだ一瞬を逃さず、もう一人が麻酔薬のしみこませた布を女性の鼻にあてがった。途端に力を失い、よろめいた女性の背に剣を突き刺した。鮮明な赤が吹き出て、女性は声もなくその場に崩れ落ちた。地に伏したまま動かなくなったのを確認すると、二人の男は静かにその場を去った。





 こつこつと、階段を上る自分の足音が聞こえる。この民宿『フォレスト』でアルバイトをしている少女、アーミルは、夕食の準備ができたという事を客に伝えて回っていた。


 部屋の前に行き、ノックをする。だが、返事がない。聞こえなかったのかなと思い、もう一度ノックするが、同じだった。アーミルは不審に思い、失礼かなと思いながらもその扉をそーっと開けた。


「お客様ー? 夕食の準備ができましたので、下に降りてくださーい。」


 部屋は相変わらず静寂で、人の声など返ってこない。どうしたのだろうか。外出するなら鍵くらい掛けていくだろうし、この部屋は空室ではないはずだ。アーミルは意を決し、部屋の中へと入っていった。だが、和室のふすまを開けたとき、彼女は腰を抜かして甲高い悲鳴を上げる事しかできなかった。






 そこには、長い茶髪を乱し、その背に剣が突き刺さった、女性がいたからだ。床に倒れたまま起き上がろうとしない。赤々とした女性の血が、周りに広がっていた。

「どうした、アーミル?!」



 悲鳴を聞いて駆けつけたこの宿の主人が、息を荒げて走り込んだ。他の客も、何事かと集まってくる。まともに言葉も出ず、アーミルはただそれを指さすので精一杯だった。それにつられ、皆の目が血を出して倒れている女性へと向けられる。誰もが、絶句した。

「け、警察だ!警察を呼べ!」

 誰かがそう叫ぶ。それを皮切りに、周りが騒がしくなる。ふと、アーミルは心なしかこの女性の指が動いたように見えた。きっと気のせいよ。死人が動く訳ないもの。だが、そのアーミルの期待を裏切り、それは力を入れて床を押した。

全員の目が、その異様な光景に釘付けになる。女性は背中に剣が刺さったまま、ゆっくりと起き上がった。


「ふあ~…。おはよーこざいまーす。あれ、みんなおそろいで、何かあったんですか?」

 まるで何事もなかったかのようなのんきな言葉と声音に、周りに集まった人間はいろんな意味で言葉を失ってしまった。

「『何かあったんですか?』…じゃないわよ!!あなたが一番大ごとなのよ?!」


 混乱と動揺で、アーミルは思わず大声を出してしまった。言われた本人は疑問符が頭上に浮いている。

「ったく、人騒がせな奴だ。死んだフリなんかしやがって。」


 客の誰かが苦々しく吐き捨てるように言う。


「死んだフリって…つっ、痛ッ?!」


 そこでようやく女性の視線が自分に移った。自分の腹から銀に輝く切っ先が見える。その上、だいぶ出血しているようだ。

「うおお?!剣が刺さってる…?」

「「気付いてなかったのかよ!!!」」


 満場一致でツッコミが入る。というか、この状況では呆れるかつっこむしかできない。せめて気付け、自分の一大事くらい。女性はきょろきょろと見回し、それが背中から刺さっている物だと特定した。柄を握り、己を貫くその剣を引き抜いた。アーミルはその腹から向こうの壁を見る事ができた。

「あ、あなた…穴空いてるのに、平気なの?」


 震える声で、アーミルは言う。だが女性は何食わぬ顔だ。

「んー、問題ない。だって、私はこのくらいじゃ死なないから。」


 死なない?!内蔵貫かれてる上に出血多量なのに?!あり得ない…。そう思ったのはもちろんアーミルだけではない。この人間は不死身だとでもいうのだろうか。

「ちょ、ちょっと待てよ!じゃあ何であんたはここで倒れてたんだ?」


 そうなのだ。今こんなに平然としているのに、どうして紛らわしく倒れていたというのだろう。

「しゃーねーだろ。ヘンな男達に麻酔薬かがされたんだから。あ~、まだ眠い…。そうか、その後に刺されたんだな? 道理で何も覚えていない訳だ。」

 途中であくびをかましつつ、女性はそう言った。普通の人間ならば、串刺しにされたらまず死ぬ。その男達も、まさか起き上がって口をきくなどとは夢にも思わないだろう。

「まて、その犯人の顔は見てないのか?」


 背中に剣が刺さっている時点で殺人だと分かる(被害者は死んでいないので未遂だ)が、その顔を見たとなれば犯人の特定はたやすい。

「いや、顔は見てない。覆面をかぶってたから。」


 返ってきた答えにうなだれる。それでは犯人が誰で何の目的で殺そうとしたのか分からないではないか。しかし女性はこう続けた。

「でも、奴らの臭いならしっっかり覚えてるぞ。」

「「なぜ臭い?!」」

「何でと言われても」


 またもその場の全員からツッコミが入る。ますますこの人物が謎だ。

「奴ら、小一時間前から私の様子をうかがってたみたいだし。」


 気付いていたのなら何で放置した。が、誰かがそれを言う前に女性はおもむろに服を脱ぎだした。

「あ~、ひどいな。服が血だらけだ。」

「そこかよ!っていうか服着ろ!!」


 なぜか自分の傷より服のシミを気にする女性。よく見れば出血は止まっているし、本人曰く“死なない”らしいから気にしないのも当然かもしれないが。もっともそれは、腹の傷だけを見ていれば、の話である。女性は下着こそ付けていたものの上半身は裸であり、残念ながらこの民宿は女以外もいる。そしていきなりの着替えという不意打ちを受け、正常でいられる男の人は少なかった。とはいえ女性が新たな服を取り出して着てしまったので、事はすぐに収まった。

「あなたは一体?」

アーミルが恐る恐る尋ねる。女性は振り向いた。


「私?私の名前は狼牙神(ろうがしん)。ただの旅人。」

 にこり、とその女性―狼牙神は、微笑んで見せた。


「どこが“ただの”だ!だいたいてめえは人間じゃねえだろ!!」

 客のうち一人の男が食ってかかった。それを聞いて、狼牙神は悲しむどころかむしろどこか楽しそうに笑った。


「あははっ、君なかなか鋭いね。その通り。私は人間じゃないよ。」

「え?」

 意味を計れず、逆に男の意気が下がってしまった。なおも狼牙神は言う。


「私はね、いわゆる妖怪なんだ。ここより北にある土地で生まれたオオカミ妖怪。だから、刺されたくらいじゃ死ななくてね。」

 今は人間に化けてはいるけど、と付け加えた。常人ではないとは分かっていたが、こうもあっさり認められてしまうと、なかなか信じられない。


 そんな人々を差し置いて、狼牙神は一人自分を襲った人間の臭いを追っていた。

物語の断片集第三弾! 今までの話とは全く関係がありません(笑)


何となくギャグ風味に仕上がった

そして作者のただの悪ノリでスイマセン(汗)


楽しんでいただけたなら幸いです

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