君と過ごす"いつも"
朝が来た。
鳥が鳴き、人の声が様々なところから聞こえる。
郊外とはいえ、都心に近いこともあり田舎とは言い難い環境だ。
「今日も朝になっちまったなぁ……そろそろ起こさないとな」
俺、浅葱雄太には使命がある。
「起きろ!今すぐ起きるんだ!」
これは毎日行わなければならないことであり、そのために生きていると言っても過言ではない。
「朝日が出るまで……まって……」
「もうとっくに出てますよ!朝でございます!」
布団の中の芋虫を両手でゆさぶる。
「嘘だ……私の視界は真っ暗」
「それは布団を被ってるからでしょ!さっさと起きる!」
雄太は布団を強引に剥がしにかかる。
「たとえ好みが朽ち果てようとも……この布団は絶対に離さん」
「んー……どうしたものか」
これが雄太の日課である。
「起きなきゃご飯食べさせないぞ」
「起きます」
先程までの抵抗は一体なんだったのだろうか。
浅香由美の寝起きの悪さは朝食へのお誘いによって打ち消される。
「ご飯、出来てるから」
そういうと雄太は由美の部屋から出ていった。
「朝なんて来なきゃいいのに……」
目を擦り、あくびをしながら上体を起こす。
雄太がせっかく作ってくれた朝ごはんが冷めてしまう。
そう思うとゆっくりもしていられない、と由美は低血圧の体にムチを入れベットから立ち上がった。
廊下に出ると朝ごはんのいい匂いがしてきた。
「今日はお魚?」
「あたり。鮭焼いといたから」
雄太が二人分のご飯をテーブルに置く。
「やっぱり日本の朝は鮭ですよ。異論は認めない」
「明日はきゅうりの浅漬け出そうと思ってたんだけど……」
「前言撤回。いただきます」
由美は手を合わせ、箸を持って食べ始める。
それを見て雄太も鮭を箸でほぐし始めた。
「今日から二学期だな」
「うん。あんまり気が進まないよ」
「そんなこと言うなって。勉強めんどいって言える時間が一番尊いって担任の安藤先生言ってたじゃん」
「ほんとにそう思うのかなぁ……べつに勉強しなくても国語とある程度の算数できれば生きていけると思うけど」
「そんなことないって。知識は付けるにこしたことないよ」
そんな雑談をしながら朝ごはんを食べるふたり。
「そういや由美は部活辞めたんだっけ」
「うん。もう続ける意味ないから」
「そっか……まあそこは由美の自由だからね。帰ってくるのも早くなる感じ?」
「どこにも……んくっ。寄ってこなかったらね」
その言葉とほぼ同タイミングで由美が食べ終わる。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでー」
食器をキッチンの方へ下げようとする由美へ雄太が
「そこに置いといていいよ。あとは俺がやっとくから」
「わかった」
雄太の言う通り食器をそのままにしておく。
「そろそろ時間でしょ。学校行っといで」
「ん」
由美は女子の中でも朝の準備が格段に早い方だ。
顔を洗って化粧水をつけ、歯を磨いて制服を着る。
髪も長くないので軽くくしでとかすだけで済ましている。
「昔は長かったのにな」
由美の髪を見ながら雄太がぼそっとつぶやく。
「女は失恋したら髪を切るって言うでしょ?それ」
「いつ失恋したんだよ」
「さーね」
会話を流しながら由美は準備を終える。
「んじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
靴を履き終えた由美が玄関を出ていった。
「行ったか。さて、家事を始めますか!」
雄太は腕まくりをして自分を鼓舞するかのように勢いをつけた。