襲い来る牙
不気味な程に静まり返る森をゆくことしばらく。
突如として鳴り響く遠吠え。草木をかき分ける無数の音。
「構えよ」
命じられるまま剣を前方へと向けるレス。
その直後、狼の群れが彼を囲んだ。
睨み合うレスと狼。
緊迫の中、低い唸り声が辺りに響く。
と、次の瞬間。背後の一匹がレスへと飛びかかった。
しかし……。
「キャイン!」
瞬時に盾が生成され、それを阻む。
狼は情けない声と共に跳ね返され、地面へと叩きつけられた。
「剣を振るいたまえ」
ハッとして剣を振り被るレス。
そのまま目の前の狼に向かって衝撃波を放った。
一匹目を倒すのに成功するも、その隙を狙って別な狼が襲いかかる。
だが、神の使用したウィズダムが再び阻む。
巻き起こった突風はその狼を薙ぎ払い、木へとぶつける。
二匹目撃破。
「戦いなさい」
指示と同時に溢れ返るミニアルミラージ。
そのサポートを受けつつ、レスは一匹ずつ着実に仕留めてゆく。
しばらくして、その全てを倒しきった。
「……やったか」
息を切らすレス。
その周囲には動かなくなった狼の残骸。
呼吸を整えながらその光景を眺めていると、不意にその死体が青白く光りだした。
徐々に色が薄くなり、光は空へと昇ってゆく。
やがて、その姿は霞のように消え去った。
「汝に我が新たな力を授けよう」
その声の直後、周囲に先程の狼の群れが召喚された。
ワイルドウルフ。一体一体はそれ程強くはないものの、神が呼び出すのにかかる時間が短いモンスターだ。
「味方になったのか……?」
ワイルドウルフたちはレスへと襲いかかる様子がない。
ただ大人しく、その目の前に座っている。
「こうして見ると、案外かわいいものだ」
すっかり和んで油断しているレス。
だが、戦闘はまだ終わっていない。
神がなぜすぐさまワイルドウルフを召喚したのか。その理由を知ることとなる。
突如として空から鳴り響く唸り声。突風がレスを襲う。
「な、何だ!?」
見上げた先には空飛ぶ怪物。
鷲の頭に獅子の胴。グリフォンだ。
「あんな高いところにいる敵、どうすれば!?」
「恐れるな。ただ構えよ」
焦るレスへと神が指示を出す。
言われるがままに剣を振り被るレス。
「振るいたまえ」
神の命令に従い、レスへと授けられたブレイブが発動する。
巻き起こった衝撃波はグリフォンへと届き、見事に命中した。
だが、その一撃ではほとんどダメージを与えられておらず、グリフォンは反撃態勢へと入る。
「森へと逃げよ」
「え……?」
突如下された撤退とも思われる内容に、戸惑いながらも従うレス。
彼へと火が放たれたのはその直後だった。
「う、うわああ!」
叫びながら全力で森へと駆け込むレス。
その後ろでは盾となったワイルドウルフが次々に散ってゆく。
木々は燃え、味方は焼かれ、地獄絵図とはこのことだ。
何とかして隠れるのがやっとで、攻めに転じることはできずにいる。
「万事休す、か……!」
顔を顰めるレス。
だが、神はあきらめてなどいない。
大空の何もない空間から突如土砂が雪崩れ込み、グリフォンを巻き込んで地へと落ちてゆく。
けたたましい悲鳴と轟音。
何とか逃げ延びたグリフォンだが、翼へかかった負荷は軽くない。
「勝てる……。これなら勝てるかもしれない!」
勝機を見出したレス。
だが、敵もそう易々《やすやす》とは倒れてくれない。
グリフォンの羽ばたきにより巻き起こる突風。
木々は揺れ、味方モンスターは吹き飛ぶ。レスも木につかまっているのでやっとだ。
両手でしがみついて耐えていたが、とうとうその手が離れてしまった。
遥か彼方まで運ばれ、地面へと勢いよく叩きつけられる。そのイメージはレスにも想像に難くない。
だが、実際は違っていた。
手が離れてから間もなく、背中に硬い感触。
ウォールによってレスは支えられていた。
一方、攻撃を受け続けるグリフォン。
何度目かの土砂崩れによって、とうとう地へと倒れた。
動かなくなったグリフォンは、先程の狼同様に青白い光の中で消えてゆく。
「これでこいつも神様の支配下になるのか……。味方なら、心強いな」
空へと昇る光をレスはぼんやりと眺めた。