初戦闘
神の指示に従い森の奥へと進んでゆくレス。
ミニアルミラージに先導され、坂道を上りきったその時。目の前に光の帯が生じ、中から鎧が現れた。
「……身に着けたまえ」
レスは困惑の表情を浮かべた。
彼は体力にも自信がなかったため、重たい鎧を着用するには不安があったからだ。
だが、レスは神を絶対として信じているため、その言葉に従う際には躊躇などありえない。
人知の及ばざる未来を先見の明にて見出すのが神。ならば、何か考えがあってのことだと想像できたからである。
さて、その数分後……。
「止まれ!」
不意に声が響き、直後に十数名の盗賊が周囲に現れた。
皆それぞれ片手には短剣を握りしめ、レスを取り囲みニタニタと笑う。
「持ち物を全て置いてってもらおうか?」
レスの剣が届かない間合いから、盗賊のリーダーが脅す。
少しでも動こうものなら背後からの斬撃は免れない。
万事休すと思いきや……。
「我が知恵において汝に力を与えん。……武器を構えよ」
神の声がレスの耳にのみ届いた。
レスがその指示に従うのと同時に、突風が巻き起こり盗賊たちを吹き飛ばす。
さらに、立て続けに神は知恵を使用し、瞬く間に周囲はミニアルミラージで溢れかえった。
「な、何だこれは!?」
「てめえ、一体何をした!?」
盗賊たちは慌てだし、数歩退く。
だが、ミニアルミラージたちはじりじりと詰め寄り……次の瞬間、一斉に襲いかかった。
「うわあ!」
「やめろ! あっちに行け!」
盗賊たちは交戦するも、ミニアルミラージたちは怯まない。
鋭利な角を向けて突進し……一人ずつ倒してゆく。
「おいお前ら! 逃げるぞ!」
リーダーの悲痛な声が響き、残った数名が一目散に駆け出す。
だが、それを神は許さない。
「逃がしてはならぬ。ここで仕留めなければ再び害を為されるであろう」
「神様、ですが……!」
レスは重い鎧を着用しており、相手は逃げ足の速い盗賊たち。
追いつけるわけがない。
神の指示に従おうにも、その術がレスにはわからなかった。
だが……。
「案ずるな。ただ剣を構えよ」
神は具体的な動作を命じ、その間にも知恵を使用し盗賊の足止めをしていた。
壁を生成し行く手を阻み、モンスターで逃げ道を奪う。
そうして盗賊たちが一か所に集められたのを見計らい……。
「さあ、剣を振るいたまえ」
レスの位置からは盗賊たちに斬撃が届くはずがない。
神の指示のその意味がレスには全くわからなかった。
だが、困惑はしていても疑いはそこにはない。
故に、レスは指示通り剣を大きく振るった。
途端に斬撃が風の刃となって敵へと向かってゆく。
「ぐあああ!」
断末魔が響き渡り、盗賊たちはその場に倒れた。
レスが近寄り調べてみると、確かに切り刻まれた痕が胸や首に残っている。
「これは……俺がやったのか?」
「我が勇気の欠片により、汝に与えた力」
レスが新たに獲得したスキル、衝撃波。
剣を振り払うだけで風の刃を飛ばし、遠くにいる敵も攻撃できる。
そしてさらに……。
「それを拾いたまえ」
神のその言葉に、レスはふと足元を見た。
何枚かの葉が詰められた小さな瓶が転がっている。
それを手に取りまじまじと見つめるレス。
「これは……?」
彼には知識がないため、その葉が何なのかがわからない。
「薬草。傷を癒す効力あり。必要な時まで我が預かろう」
その言葉と同時に薬草の入った小瓶は光に包まれ、消えた。
「さあ、先に進みたまえ」
「はい、神様」
レスはさらに森の奥へと足を踏み入れていった。