精霊の帰る場所 『そして世界は幕を開ける』
終わるのは神か、人か。
ゆっくりとその計画は進められていました。
ザーとジグと女神は、ひとつの焚き火を囲い一晩作戦を練りました。
まず、王にたどり着くためには、王の直属の騎士、十賢騎士という十人の強豪を倒さなければならなりません。
十賢騎士とは、知能200とライオンの血を引く一族のことを差します。故に、頭の良いライオンという訳であって、なりは亜人の姿をしています。
到底、ザーとジグは人間なので勝てるわけがありません。
ザーはこの日のために、神に使える者の知り合いに鍛冶屋がいましたので、名刀「刹那」を授かっておりました。
「刹那か、風の霊力を強く感じる良い剣だ」
女神は一目で剣の力を見抜きました。
そしてこうも続けました。
「この剣の霊力は、ただならぬものを感じる。居るな? 魂が宿っている。この剣は生きている」
女神が剣に触れようとすると、剣は強く結界をはって女神を拒んだという。そしてそれは、今までザーが持っていたとは思えない強い気を発して風のオーラ、バラブを剣全体に張りながら宙に浮きました。
刹那は呼吸をするようにゆっくりと風を吸い込むと、ひとりでに話し出しました。
「私は、この刹那と言う剣の素材に使われた、世界樹の葉の一部です。世界樹の根元に行けば、その御神木から造られた伝説の草剣、カヤ・ブランディスがございます。しかし、時は一刻を争うため、命の女神よ私に魂と、肉体をくださいまし。さすれば私は戦えます。そして女神、ザーと口づけをお交わし下さいまし。これは大御神様よりのお伝えでございます。後はどうなるのかは私にもわかりませんが。お伝えどうりのことを今はするべきだと思います。では」
そう言うと、刹那はゆっくりバラブをほどき、普通の名刀に戻りました。
何よりもあわてふためいていたのは、ジグでした。
「く、口づけ!? ザーが命の女神さんと? 逆に命を取られることだって……あぁ、もぅわっかんねー! 男ならビシッと決めちまえ! な? ザー、な!」
うるさいジグのことなど目に入らないかの様に、ザーと女神は見つめ合っていました。ゆっくり、空気も消すかの様にただ二人の時間が流れていました。
「お美しい」
ザーと女神の間には、距離などありませんでした。
お互いは不思議と引かれ合い、ゆっくりと瞳を閉じて、そしてお互いの唇は温度を感じました。
すると、女神のは一滴涙を流しそれはみるみる大きくなり、赤ん坊が産まれました。
女神は脳裏によ切った言葉をただ口にしました。
「コノハナサクヤ、サクヤ、サク。このいとおしい子は、私とザー、そなたの子だ」
そして女神はもう一仕事、刹那に吐息をかけました。
刹那はもう一度バラブを張り、バラブはゆっくりと人形の子になりました。その子はすうっと顔をあげ、
「有りがたき命、女神様よ」
と言うと、刹那を握りしめ霊力を強化しました。この強化でザーと刹那から生まれた亡霊は心をひとつにしました。
この赤ん坊は後に世界を轟かせるが、今はオギャーと泣くだけの人のと、神の子でした。
「迎えに行くまでもなかったな、敵陣から来ようとは。案の定王は十賢騎士に囲まれて居るな。先ずは私が十賢騎士の足止めをしてやろう。」
女神は十賢騎士一人一人の頭上に十の陣を描き、片手に持った杖を振り回し、雷を落としました。十賢騎士は悶え苦しみ乗って来たピンクの雲の上から次々と落ちていきました。女神相手では悪魔のに使えるものごとき楽なものでした。
その隙に、ザーはまっすぐ王に向かっていきました。近くにあった、大木のかけらを天高く投げると、宙に舞う大木に足を吸い付かせ、風に身を任せて剣の切っ先を王の喉めがけ飛び込みました。
王はもう人のなりなどしていない化け物、悪魔の姿をしていました。王は向かってくる剣が見えていないのか、避けもせず構えています。
「ふん、覚悟したと言うのか」
ザーは叫びながら、王の心臓を貫きました。しかしその感触はなく、人を指すなど豆腐のようなものだと聞いた事もあったがその感触すらありませんでした。
王は不適にながら、その笑みにザーは察しました。
「ま、まさか肉体すら捨てたと言うのか!? 王はもはや煙の塊……ジグ、逃げろ。女神も、早く。ソウエンがばらまかれるぞ!」
ザーの必死の声も二人には届かず、ザーは覚悟を決めました。
ザーは口づけを交わした際に、女神からわずかに霊力を頂いていました。そして、見上げんばかりの巨大なバラブの円をつくり、王を囲んで煙を包み込みました。
そして、ザーは刹那から生まれた亡霊に言いました。
「なぁ、女神なら簡単に命扱えんだろ? ごほっこぼっ、なぁ、亡霊さん、伝えてくれないか、お前ならバラブを抜けられる。俺はここを保たなきゃならない。頼む、ジグと女神とそして、俺の子、サクに未来を見せてやってくれ」
亡霊は全てを理解は出来ませんでしたが、ここはザーの言う通りにするのが適切だと判断しました。
事の次第を話すと、女神は直ぐに陣を書き出しました。
「女神さん、少しは躊躇うとか……」
ジグは言いかけて辞めました。それはそれは大粒の涙を流しながら女神は「ごめんなさい。ごめんなさい」と呟いていました。
亡霊は言いました。
「仕方ないさ、救えないものもあるし、奪われるものは大きいこれは平等じゃないんだ。昔からね。あの範囲だとザーは、巻き込まれる。そしてそれを承知で女神に頼んだんだから。この距離だと僕らもきっと何かしら失うよ。
さぁ、ジグ、構えておきな、来るよ!」
女神が書き上げた陣は空を覆い尽くさんばかりに広がって、ザーのバラブの上空を包んだ。そして強い光が一気に陣からバラブに落とされ、王とザーの命は消えました。
同時に、ジグは人であることを失い、亡霊は肉体を失い、サクは声を失いました。その光はあまりに強く、桜生国にも広がり人々はそれぞれ何かを失ました。
すまない。すまない。と女神は繰り返して姿を消しました。
これが、言い伝えとは違う全ての事実である。
全てを知ったサクは涙を流しました。
風と熊のような育ての親、ジグはサクをギュット抱きしめました。それから風は言いました。
「僕にはもう力はないけれど、悲しくはないよ。サクは僕に僕で有るための名前をくれたんだ。ありがとう。嬉しい。」
そしてジグも、
「さぁ、墓参りがすんだとこで、腹でも減ったし、イロハんとこ帰るか」
と、気の利かない空元気を見せました。
それでもそれがそれぞれの優しさであることに気づいたサクは涙を脱ぐって、草剣と風を守り抜くことを決めました。




