サクと世界の始まり 『小さな心とさよならのキス』
かぜが世界樹から盗み出した、草剣・カヤブランディスはサクの左手へと寄生し、バラブに軽々と亀裂を入れる。
そうやって桜生国のなかへとふたりは入った。
その気配を察し三度そいつは現れる。何やら訴えるような動物とともに……。
その獣はとても悲しい顔をしている。
何かを悟ったようにかぜはそう思いました。そしてうつむいたまま、サクの左手をグッと握りました。左手の草剣は寄生した先から輝きを放って、空高く光の柱を昇らせ、それは神話に出てくる龍の様でありました。
「ねぇサク、しっかり聞いといてね」
サクにそう助言するとかぜはミライ目がけて強い口調で話しかけました。
「ねぇミライ・メーカー。さっきのブラックバード、カラスといい、今目の前にいる白いウサギといい。最近木々を伝って前は聞こえてた筈の動物の声が聞こえなくなってきたのは、なんでだろうね」
怒りにも満ちた言葉にミライも何かを察しました。
「何が言いたい?」
にらみ合いが続いて、サクはまだ話を悟れずにいました。怒りに満ちたかぜの声はさらに殺気立つように、ミライを攻撃しました。
「最近、絶滅危惧種が増えてきてる。カラス、シロウサギ、沢山いたはずなのに、最近見ない。健康的な人間だって珍しいんだよね。薬に病んで、ガラクタみたいな灰になった人間は沢山いるけど、ニネやサクはまだまだ大切にしなきゃいけない人間。ねぇ、僕のニネをどこにやった?」
はっとなって、サクは黙った。
白いウサギはじっとサクとかぜを見て、何か訴えています。
ミライは不気味に笑うと、
「ご想像どうり、君らのニネちゃんは今ここにいるよ? でも失敗したのさ、こいつは攻撃に向かない。せっかく出来た、人間のキメラなのに役立たずにも程がある」
と言って、白いウサギの首を掴みウサギは苦しそうに涙を浮かべました。
更にミライは、
「ナインとまで名づけてやったのに、ペットの価値もない」
と言うと、掴んだ白いウサギを崖の下に放り投げました。
「少しは時間稼ぎになれよ、せいぜいな」
かん高い笑い声と共にミライは城の中に消えていきました。
「くそがっ!」
落ちて行くニネをかぜは、自らの体を気体化させて全速力で、追いついて包み込みました。ニネはなんとかかぜに包まれて一命をとりとめました。ニネを包んだまま風はゆっくり
崖の上にあがり、サクのもとに舞い降りました。
そして、かぜは息を乱しながらサクに話しかけました。
「ここは任せて先をいって、ミライの奴のキメラの実験の証拠まだ掴んでないから。僕は、その証拠をみる勇気すら今はない。ニネのそばにいたいんだ」
サクはゆっくり頷いて、先を急ぎました。
~迷宮階段~
桜生国内の名所ラビリンス。
階段が幾重に重なり扉の先はまた階段があり、上がったり下ったりして、サクの行くてを遮りました。ため息をついて少し休んでいると、サクの耳に聞き覚えのあるメロディーが流れてきました。
空は遥か海をわたり……そう、毎朝ラジオから流れる曲だ!
口ずさみたいが、乾いた喉には潤いなどありませんでした。サクはボーッとかぜのことを思い、来た道を振り返ります。
~王宮中庭~
その頃かぜは、ニネを抱き締めて涙を流していました。
「お願い、ニネを助けてっ!」
かすれる声は天に響きません。するとニネはかぜの胸にある十字架を見て
「お、お、おかあさん、あ、いた……」
ゆっくり十字架に触れました。ガーネットの赤い十字架は時に命を奪い、時には命を与えると言います。
「ダメ、ふれちゃっ!」かぜの言葉は遅かったのです。
ニネはゆっくり石化し始めた。
かぜは、涙が止まりません。もう苦しいのに、でも、ニネの方が苦しいことはよく知っていました。
「何で、禁忌をおかしたのはニネじゃないのにこんな実験したやつが悪いのに! なんで! 神様は不公平だ! 僕がこの国のトップに、精霊王になってやるから! な、ニネ!」
小さな心は微笑みながら石になりました。
かぜがその唇にそっとキスをすると、石は粉々に散っていきました。
その粉の一掴みを、小袋に入れるとかぜは、涙をぬぐってサクの後をおいました。




