整いゆく心『かぜの声と不穏な空気』
船に戻った一行は、トカエコ大陸の疲れを残したままではありましたが、まずはと、かぜに挨拶がてら陣を組むことにしました。雷のフルートを持つユーリを軸に円を描き、ユーリから、時計回りにイロハ、七尾、ケイ、アレンそしてサクまで一周すると、みんなは一斉に目を閉じました。
ユーリのイメージをみんなが共有し、そのイメージの中では、薄紅色の綿あめがバチバチと静電気をまといながら浮いていて、何だか昔たべた口の中でバチパチ弾ける綿あめを思い出しました。
ヨダレが出るイロハをしりめにかぜが笑います。
「あははっ。本当に食いしん坊なデブ魚さんだねー。面白くて僕お腹いっぱい!みんなのイメージから伝わって来たよ。雷のフルートの鍵、確かに受け取った!あと2つか……。でも、嫌な予感がする。みんな、気をつけて」
かぜの声はまた途切れ、嫌な予感、それは悪い知らせとともにやって来ました。
ひらりひらり、空から落ちてきた1枚のチラシに気づいたイロハと、空を眺める七尾に、ケイが応えました。
「あれは……ビラ鳥?チラシを配るよう訓練された鳥……あまり良い話は持ってこないと聞くが……」
「七尾!!この記事……!!フィーリル王……暗殺……!!桜生国……崩……壊……か……!!?」
「うそ!そんなの……うそ……お父さん……」
イロハと七尾は一気に灰になったように落胆しました。無言の時を噛み締めたあとで七尾はだんだんと気力が弱まってゆき、心配したサクが、そっと背中をさすると、七尾は口を開きました。
「……私、桜生国に帰るわ」
「じゃぁ、僕がお供するね」
「でも……アレン……」
「僕が、僕ならフルート関係ないし、抜けたって大丈夫だしね!桜生国はスノーベル王国とも貿易協定組んでる仲だし、なによりも!七尾が、心配なんだよ」
「……わかったわ、すぐに小舟で出発します。……ありがとう」
一行は二手にわかれることなり、七尾とアレンを見送ったあとで、サク、ユーリ、イロハ、ケイも、今後について会議をしました。
普段なら、七尾かアレンが地図を見て指示を飛ばしてくれるのですが、二人がいないぶんその役目は、ケイに回っていました。ケイも、正直なところこの三人相手にどう向き合っていけばよいのか手探りでした。
ケイ本棚をあさり、地図と見比べ、地図にマークのあるトコハナ大陸について調べました。
ケイが資料集めに苦戦していると、後からサクが背中をポンと押すので振り返りました。すると、サクは落ち着けと言わんばかりにみかんジュースをケイに押し付けてそれを飲んだケイは不思議と茶葉と蜜柑の恩恵を受けたみたいに心が和みました。
そしてサクが開いている絵本、"草剣物語"の一ページに気づきました。そこにはカエル王国について記されており、他の書物にもトコハナのカエル一族と書いてあったので、おそらくサクも目にして教えてくれたのでしょう。
ケイ自分一人がこの先を背負わなければと思っていましたが、こうやって助け合うことを教えてもらえることに、心から感謝しました。
ケイがサク情報を共有していると、イロハに稽古をつけていたユーリがひと息つきにやって来ました。
「なになにー?ふー、イロハちゃんのフルートの稽古してたんだけど、少しは良くなったし聞きに来ない?」
と言っても、遠くから聞こえてきた地獄のような音はミジンコが合体したレベルで良く分からず、それを断ろうとしたケイに気づいたユーリは
「おおっと、休憩おわりーっと」
と、ぎこちなくもイロハのもとに帰るのでした。
夜も更け、七尾を心配しつつも前をむこうとするサクにケイがそっと花密いり、苦豆茶を入れてくれました。隣で苦豆茶をのむケイが、性格も落ち着いておりすごく大人にみえて、サクは、自分でも大切な人を守れる大人になれるか不安で、ケイはすぐにサクの様子に気づきました。
「サク君、イロハが、私に想いを抱いていたことを君はどう思う?私にはイロハの想いが憧れにしか見えなかった。失った妻のこともあるが、それもあって、イロハの想いには応えられなかった。好きになるってもっと泥臭くて面倒なことだと思うからね」
ケイの言葉の意味が、泥臭くて面倒なことがサクにはいまいちピンと来ていませんでしたが、ケイにイロハとユーリの関係だと言われて何だかわかる気がしました。
サクは、今の七尾の状況には不謹慎かもしれませんが、イロハとユーリのように慣れたらと思うのでした。




