響く魂の声『悪夢荒すは闇の王』
水のフルートや、アレンの過去など慌しい時が続く中、一行で一番気の利くケイが、アレンの気持ちを案じてアレンが好きだど聞いていた苦豆茶を用意していました。
煎った小さく黒い豆を細かく砕いてお湯でこして飲む苦豆茶は、スノーベル王国の特産品で、スノーベル王国と交流のある桜生国でもよく飲まれていました。ですので馴染みのある苦豆茶の本場の味にケイも大層よろこんでいました。
コンッコンッ
軽くノックの音を2回鳴らし、女性とは失礼ながらもドアノブを右に回し中へ入ると、中は片付けられた跡がありアレンの姿はありませんでした。ケイは門番に聞いて見ると、朝早く、旅の支度は出来たからと言って出ていったのだと言います。
アレンのことは気がかりではありますが、先を急ぐ一行は街で食材と日用品を買い足し、城の者の案内のもと船に戻った。
船に戻ると、青い髪を乱れさせ、白い肌を真っ赤に染めてサクが倒れ込みました。ユーリが額に触れると額は高熱を発し、すぐさまケイと両脇を抱えて船のベッドまで運びました。
乱れ崩れ行く景色の中、サクは夢の中で2つの声が聞こえていました。
「むっふっふ、宝探しだよ!ボルア、見つけるからね!」
温かみのある方の声に近づいていくと、かぜがいました。小高い約束のベルが鳴る丘。かぜに触れようとしたとき、それはドロドロと溶けました……
そしてそいつは憎い笑い声とともにサクに話しかけてきます。
「お前が邪魔だ。七尾様の関心を奪うものすべてが邪魔だ。俺は七尾様が居ればそれでいい。あの人の関心が俺に向いてくれるなら、闇の王の力さえ手に入れてやる。闇の王ジュエルの力を手にする今、貴様らなど簡単に潰せる。
短い時間をせいぜい愉しめ。」
そしてミライは声とともに消えてゆき温かい声が帰ってきました。
「サク、サク?怖いの?震えてるよ?だぁいじょうぶ!目を閉じれば、ほらっ!僕が浮かぶでしょ?」
そう言ってかぜの笑顔は光の中へ消えてゆき、サクが目を覚ますと、高熱は引いていました。
サクのことも心配ではありましたが先を急ぐ一行は次なる目的地について話していました。次なる目的地、トカエコ大陸の上空ワタバチ島。一行が話を進めようとすると、後ろから元気な声が飛んできました。
「僕を置いてどこに行くのさ?」
それはスノーベル王国で分かれたはずの、大荷物を背負ったアレンでした。
「でも、えと……あの……」
言葉に詰まる七尾に、アレンはかっかと笑って見せました。
「あーはっはっ!しょんぼりしなさんな!僕は大丈夫。正直ちょっぴりセンチだけどでもね!精霊の加護もない僕だけど精霊の国、桜生国に行ってみたいんだ!戦闘員にはなると思うよ!」
一行はアレンの気持ちを素直に受け止めて、少し休息を取ることにしました。アレンは鞄からぐるぐるに束ねられた地図を出し床に広げると、本で読んだ知識を伝えました。
「トカエコ大陸の上空ワタバチ島には雷大樹様というお方がいらっしゃるそうだ。雷をふんだんに食らった大きな大きな大樹が雲の上に住んでいる。雷大樹様はきっと知恵を下さる」
と、
「カミナリ……フルート……」
と、なにか言いたげに表に出てきたのはサンディッシュでした。ユーリの背後に現れ、何か訴えるように口をつぐんでアレンを見つめています。
「うっそ、精霊様じゃん!僕初めてみた!」
「サンディッシュ様、雷ってことは俺たちの番ですね!俺、イロハちゃんの頑張り見てたから負けてらんない!」
「何よ寝てたじゃない、私の戦闘中」
「イロハちゃん、それだけは言わないで〜」
気合高まるユーリに水をさすのはイロハでした。しかしイロハの嫌みも場を和ますのには丁度よく、イロハとユーリはまるで夫婦漫才のようでした。
とそこに、キッチンから七尾とケイが出てきて。お茶にしようと言うのでみんな賛成し、一息つくことにしました。
「このお菓子、サクにも持っていこうかしら」
「七尾様、先程私がサクの様子を見に行ったところ、熱は引いていましたが、まだぽーっとしているところがありましたので、お白湯をおいて来ました。まだ固形物はキツイかもしれません。お気遣いのところ申し訳ありません」
「いいのよ、ケイ、そんなにかしこまらないで」
七尾とケイが何だかしっかりしていて、すごいなーと感心するユーリとアレンを後目にお魚ちゃんはお菓子に食いついていました。
「やっぱり桜生国のお菓子最高よねージュースとかはないの??」
「あっこらイロハちゃん!」
騒がしい二人は置いといて、ケイはアレンに用がありました。
「アレンさん、私の淹れた苦豆茶なんですが飲んでいただけませんか?」
「おっすごい、ケイが作ったの??これはねー、じゃんじゃしゃーん、スノーベル王国の特産品、花蜜!これを入れるとコクにまろやかさが混じって美味しくなるんだ!」
「よかった、やっと飲んでもらえた」
ケイはようやくアレンに苦豆茶を飲んでもらって安心するのでした。
~船内、サクの寝室~
サクは頭のぼんやりも少し落ち着き、ケイが入れてくれた白湯は水になっていましたが淹れてくれた気持ちをくんでぐいっと飲み干しました。すると、まだぼやけているのか頭の上で声がしました。
「るるるんるるるん、わたしたちは、かぜのこども。るるるんやみの、るるるんおうさま。めざめるおきる。るるるんるん。そうけんのきし、よわいかてないるるるんるん」
船についてきたのか、サクについてきたのか、草剣に宿っているのか風の子は慌ただしくサクの頭の上を回ってどこかへ消えてゆきました。
「こんこん、失礼しま……ん?サク?どうしたの、険しい顔して……まだ頭痛い?」
新しい白湯とお粥を持ってきてくれた七尾に、サクは右掌を強く握りしめ、この人を守るための力を必ず手に入れる、強くなる!と、心に誓うのでした。




