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草剣物語〜精霊と少年の旅路〜  作者: 璃月 曽良
第一章
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サクと世界の始まり 『桜生国王女 七尾』

桜生国(おうじょうこく)巡回中のかぜは、自分を癒やしてくれた少女、ニネに会うがその姿は痛々しかった。


精霊の細胞を溶かす、煙草(そうえん)を振りかざし、残虐な敵があらわれる。

 その声はお城中に響いていました。


「どいてどいてー!」


 普段、ラジオから聞こえる品のある声とは裏腹に七尾は王宮の庭目がけて、走ってきます。何枚も重ねた着物をスリスリさせ、灰色に黒いメッシュの入った髪を束ねもせず、下駄をカタカタいわせながら、小走りで駆け何度も何度も、


「ミーラーイ!」同じ名前を叫びながら、


「んもー! いないじゃない、中庭にいるって言ったのだれよ」


 そう七尾が愚痴のようにこぼすと、突然、神出鬼没にもミライは後ろから現れました。


「呼びました? 七尾様」


 くすっと笑う、七尾に向けた顔はとても無邪気で、先ほどまでかぜとサクを威嚇(いかく)していた男とは思えなほど、幸せそうな顔でした。ですが、その顔も一瞬曇ります。


「それはそうと七尾様、バラブの命といえる樹核から離れても大丈夫なのですか? 七尾様の霊力がなければ、この城はもたないはず……」


「何、私の影を置いてきたからしばらくは持つでしょう。私自身、影を置いて陽にあたると消えてしまうから門より先には出れないわ。それよりも……ミライ……」


 七尾の顔が、一気にこわばりました。そして、「バラブが抜けられた……」とこぼしました。


「ミライ、私は樹核の保護に戻るわ。あなたは中庭に」


「オゥイェース!」


 ミライと七尾は二手に分かれて城の警備に回わりました。


        ―数分前、バラブ外―


「サク、やるじゃん、桜生国城は普段頑丈で僕ら神に仕える者でさえバラブを抜けるの大変なのに。でもその左手すごく光ってたけど……」


 かぜは心配そうにサクの左手を見ました。

 それは数分前、桜生国の結界・バラブを抜ける際のこと、サクの左手は七色に輝いていました。


 かぜに初めて会ったとき、とっさに掴んだ草剣、カヤ・ブランディスは、サクの左手に寄生したかのように根を張っていました。その草剣はバラブを前にすると、サクの左手、指先から延びる刀の矛先がバラブに触れた傍から七色の光線を放っていました。


 そして二人はバラブが歪んで緩んでいるうちにバラブ結界の中へと入っていきました。先を急ぐサクをしり目に、かぜは城内へと急かす体をぐっとこらえ、後ろを振り返りました。そして泣き叫ぶ母親にすっとハンカチを差し出し、


「大丈夫、ニネは優しい子。優しい子は神様からも愛されるから」と、笑って見せました。


 かぜの天使の様な微笑みに母親は涙を止めました。そしてポケットからピスタチオの入った小袋とガーネット石で出来た赤い十字架を取り出し、かぜに手渡しました。それから、ゆっくりと立ち上がると、


「私は帰ります、ここにいても仕方がないので。ありがとうございます、かぜ様」と言ったのでかぜはあわてて、

 

「待って! 一人じゃ危ないからお供をつけるよ」


 というと水を一滴飲み口から霧として吹きだしました。そして霧の中から魚の様な水色の精霊が現れ、


「ウォーズリー、頼んだ」


 かぜの言葉にウォーズリーと呼ばれた精霊は、深くうなずき母親の体をそっと抱き抱えました。そして、サクとかぜは城内へ入って行きました。

 二人が中へ入っていったのを見て、ウォーズリーはホット胸をなでおろし、母親に向かって言いました。


「ニンゲン、キケ、ワレハ、カゼサマノ、メイ、ノミ、キク

 ニンゲン、ニドト、タスケナイ、ケガラワシイ」


 母親はビクっとして、一瞬怖くなりましたがすぐに落ち着きました。


「ありがとうございます。神様の使い様」


 あからさまな嫌悪に対し、”ありがとう”という言葉が返ってきたので、ウォーズリーは胸の奥がズキッと痛くなりました。


           ―王宮、中庭―


 王宮、中庭・プレンセシー・ロゼ。

 真っ赤な薔薇はアーチを描いて並木を作り、その外に伸びた桜の薄紅色の桜の花びらは抹茶に似合う桜餅を思い浮かばせる……。

ぐうっっとお腹を空かせてサクは立ち止まりました。


「お腹すいたの? サク。もーこれだから生き物は……」


 そういうとかぜはポケットから小袋を取り出し、お米をひとつかみと近くにあった桜の枝を一本折って錬成してみせました。すると、かぜの掌のなかで、お米はパチパチ音を鳴らし桜の葉と花びらは練り合わさってみるみるうちに桜餅が出来あがりました。


「かぜちゃん特製、桜モッチー、ささっ召し上がれ!」サクは涙を浮かべ、桜餅をほうばりました。


「楽しそうだね、ミライ様も混ぜてよ?」


 その男、ミライは突然現れました。獣の血の混じらない健康な人間。サクもそうだが、この世界では健康な人間ほど珍しいのです。


「出たな、ミライ。桜生七尾の側近にして、裏ではよからぬ実験をしていると噂のお尋ね者。だけど、権威をものにしているため、国を守る剣警団でさえグルだという。解せぬやろうだ。」


「お尋ね者とは、お互い様だなー。風の精よ、お前だって草剣を盗み出したじゃないか。挙句の果てには使いこなせず大暴れ、ふんっ醜いものだ。」


 かぜとミライの駆け合いはどちらも醜い。ミライは続けました。


「君たちには新しい実験に付き合ってもらうよ。ゆけ、ナイン!」


 そう言うと、ミライの後ろからウサギの様な獣が現れた。それは、カタコトで何かつぶやいています。


「お、お、お、おにいちゃん……に……げ………て」


すると、かぜのほほをツゥっと一滴の涙が零れました。


「ねぇ、サク、何でだろうか。この体になって初めて、僕、泣けてきたよ。サク、あのウサギの獣は、ニネだ」


確信もないまま、かぜはそう言い切りました。





七尾姫……桜生国の姫であり巫女。膨大な霊力を持って国を守る。

樹核……桜生国の結界、バラブのコア。

ウォーズリー……桜生国を守る四属性精霊の一人。水を司る。

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