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草剣物語〜精霊と少年の旅路〜  作者: 璃月 曽良
第四章
33/62

氷の華舞う大地『その少女、アレン』

 多くの記憶と情報が一気に流れ込んできて、イロハは気持ちもめいいっぱいでした。少し疲れた気分を変えようと通路で風にあたっていると、甲板の方から二本の木の棒のぶつかる音がしたので音の方へと進んでみました。

 

「なーにやってんの? ケイ兄に……ユーリ? これから何があるか、わからないんだから、休めるうちに休んでおかないと!」


イロハの労いに嬉しさが込み上げるユーリでしたが、手を止めず、ケイと手合わせしながら器用に話してみせました。


「いやぁね、イロハちゃん。かぜっちの最後の修行覚えてる? バンド! イメージする心と剣の打つかるリズム感、なんか見えそーで逃げてく感じ……んー。っわ! 痛っ何すんだよケイ!」


「邪念は死を招く」


 ユーリの腹に軽く木刀を入れて一言告げると、ケイは朝食へと消えてゆきました。


「ユーリも行こう?」


 イロハの誘いを普段なら断らないユーリでしたが、ケイの一発が効けたのかふて腐れてしまいました。見かねたイロハは少し気の毒に思い食堂からパンとコーヒーをユーリに持ってきてあげました。

 思わぬイロハのデリバリーに、まだ機嫌は本調子ではありませんでしたが、ムスッとしながらもユーリは朝食を頂きました。


「それ食べたら船降りるって。さっきお姫さんが言ってた。」


「りょー。あと、イロハちゃん、お姫さんじゃなくて七尾ちゃんって呼んであげない?もう仲間で友達じゃんか。」


 イロハは聞こえないふりをして、ユーリが食べたお皿を下げに食堂へと行きました。同い年の女の子になれてないため恥ずかしがるイロハもまたチャーミングかとユーリは内心思うのでした。


 桜生国を出航して丸一日。遠い北の地、スノーベル大陸に到着しました。この国では雪が深いため、専用の動物に乗って移動する習慣がありました。

 その動物というのが、スノーベル大陸に生息する、長い首と立派な蹄が特徴のババーナという動物でした。雪国で育ったババーナは分厚い毛で覆われ額には角が3つありました。ババーナは気性も穏やかで初心者でも手懐けることは簡単だと言われていましました。


 早速ババーナに乗った一行は、舗装されていないとは聞いていましたが、あまりの凹凸道に苦戦していました。ババーナは二人乗りであるため、ユーリとケイ、七尾とイロハ、そして一番手懐けているサクが一人で乗っていました。

 軽やかに走るババーナでしたが、この足でも不眠不休で3日、休みを取ると7日はかかると、地域の人に言われていました。


 そしてその道中小屋を発見した一行は、悪いとは思いましたが誰もいない中に入っていきました。

 小屋の中は薪に藁のベッドがあり誰かが住んでいた形跡がありました。と、そこへ


「あっれー? 僕んちなのにおかしいな、人がいる。まぁ、旅の人は珍しくもないけど。言っとくけど有料だからね?僕はアレン、あなた達は?」


 すると、勝手に入ったことに罪悪感を覚えていた七尾は答えました。


「申し訳ありません、凍てつく雪の中一時の休息をしておりました。アレン様、不都合とあらば出てゆきます。宿費はこちらまでお手数ですが請求をお願いします」


 七尾は直筆のサインと印鑑を押し書類をアレンに渡しました。が、


「待って待って、有料とか冗談だって! 真に受けないでよ、もぅ……」


 と、少し焦ったアレンでした。

 

 アレンは自分のことを語ってくれました。記憶がなく、気づいたときにはスノーベル王国に倒れていたそうです。ただ、レイギルというものの存在だけ覚えており、レイギルに会えば記憶が戻るのだと思っていました。

 サクは血統の書を見せました。七尾から血統の書がレイギルの知恵だと聞かされたアレンは、しばらく考え込んでいましが、決意を固めたようにいいました。


「よし、僕もついていくよ。サクのそばにいればレイギルに近づける気がするから。以後よろしくね、僕は女の子!」


 アレンのひらり舞ったコートの中から、こぶりな胸と絞まったウエストと細い手足が見えて本当に女の子だと、皆驚きました。


 アレンはもちろん人間で、この地では珍しくありませんでした。むしろ、魚女のイロハ、黒猫のユーリ、エルフのケイ、この三人が桜生国に来ると浮くのでした。

 一行は新しくアレンを仲間にし、アレン案内のもとスノーベル王国を、目指すのでした。


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