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草剣物語〜精霊と少年の旅路〜  作者: 璃月 曽良
第一章
3/62

サクと世界の始まり 『ひーらりあの少女、ニネ』

伝説の草剣(そうけん)、カヤ・ブランデスを世界樹より盗み出した一人の精霊。精霊はサクという少年に合うために、世界を駆け巡りやってきた。


そして出会い、名前をもらった。

たった一つのかぜという名前。


かぜとサクの物語。いま――。

https://28780.mitemin.net/i646939/

挿絵(By みてみん)


 サクは、錆びたラジオに耳を傾けて透き通る美しい歌声を聞いていました。


  ~空は遥か海を渡り 音のない世界へ向かう

   霧は晴れたもう水もない 光の闇の帰らぬ場所~


 その美しい声には心を動かされます。桜の枯れぬこの国、桜生国のお姫様の歌声です。桜生国は15年ほど前に人神戦争、つまり人間と神の戦いにおいて勝利した神が一年足らずで築き上げた王国。桜生国の王様は神に仕える者、フィーリル王でした。フィーリルとは風を意味するもの。風の王、風の長。そう、サクに使いを出したのは、桜生国、フィ―リル王でした。


 サクが美しい歌声に酔いしれていた頃、かぜは白いローブをはためかせ桜生国城の上空を飛んでいました。桜生国城の周りには、上空から地盤までぐるっと一周円状の結界が張ってあります。


 「バラブ」と呼ばれるその結界は、精霊の言葉で精霊の魂とも呼ばれ、太古より世界樹を守る結界と言われています。この世界の古い文献によると、世界樹とは誰も見たことのない最果ての地にあり、醜い言葉を吸い込んで美しい言葉を吐くといわれています。

 一人の人間の女の子が桜生国城の前に立っていて、それに気づくとかぜはすぐその女の子傍に行きました。


「ねーねー、おかあさん、ふぃーりるさまあえないの?

ここ、とおれないの? ひーらりあ! ひーらりあ!」


 ヒーラリア、精霊への回復呪文を必死で唱えるその女の子は、バラブに何度も手を押し当てた影響でその小さな掌は火傷のように真っ赤に血がにじんでいました。


「ひー、ひーら……ごほっごほっ」


 何度も同じ呪文を繰り返ししたせいか女の子は、服から吐いた血でお気に入りの服も真っ赤にして母親のもとに倒れこみました。


「ニネ、ニネ、しっかりしなさい! もう、無理ばかりして……あぁ、なんでこの子ばかり……もう神様なんていないのよ……う、うぅ」


「ニネ!!!!」


 あまりの残酷な光景にかぜはしばらく声をかけられずにいましたが、その女の子に気づくと居てもたってもいられなくなりました。


「ニネ! すぐに医者を呼んであげるからね?」


「あなたは……?」


 母親は風に舞った白いローブの奥に透明に透き通った緑の肌を見ました。


「その肌……フィーリル様! 娘を、ニネをお助けください、あなた様の力なら出来ると信じております! 人間ごときのわがままですが、どうか、どうかこの子だけは……」


「ごめんなさい、それは……」


 かぜのローブの先を掴んでいた母親の手がゆるみかけ、願いこう悲しみの顔がゆっくりと絶望へと変わっていく瞬間、「無理ですよね、精霊さん」と、その声は遮りました。


 「無理なんですよ、お母さん。だってその精霊って……」

 

 いきなり現れた男は、小柄でうねる長髪をまとめもせず、白い作業着を着ていました。


「ミライ、それ以上言うな。貴様ごとき下等生物が、なにを言わんとしているかなんてお見通しだ」


 その時、かぜの周りを柔らかく重くドス黒い煙が立ち込め、取り囲みました。それは精霊に最も莫大な危害(きがい)を加えるという煙草の煙。ミライはおもむろに白い作業着の内ポケットから一本白い筒の様なものを取り出し、それにライターで火をつけました。


「それじゃー後は僕の愛するロボット、ブラックバード1号君にお任せして、僕はおいとまします」


ミライがブラックバードの名を発すると、それは天から落ちてきました。デカい機械仕立てのなりに黒いボディ、本当にカラスのようです。それは口から煙草を吐き出しあたりの空気を濁していました。


「その煙、効いているようだね、ふふっ」


 ミライは皮肉な笑顔で立ち去ろうとしたが、ふと、ニネを見て立ち止まりました。


「この子、膨大な生命力を感じる。いい実験材料になりそうだ」


 そういうと、ニネを抱え上げ城の中へと消えてゆきました。


「じ、実験……?」母親は震え上がり、


「ごほっうぅくそっニネーーーーー!」


 煙の中のかぜの声は、響きませんでした。

 -苦しいや、もう死ぬのかな、僕。-

 薄れゆく意識の中、かぜがぼんやりと心の中で思ったとき、雷を帯びた風が疾風のごとく立ち込めて、ドス黒い煙を切り裂きました。煙はじゅうじゅう音を立て、美しく透明な産まれたての空気になっていきました。


「け、煙が浄化されていく……」


 左手に握った草剣からは煙が音を立てジュォウと浄化されていました。ラジオを腰から下げ、何事かと困った表情で彼は現れました。


「サク!」


 若く高いかぜの声が響くとともに、その声はすぐに悲しみへと変わっていきました。


「遅い、遅いんだよ、なんでもっと早く……なんで今なんだよ」


 サクが辺りを見回すと、血に濡れた地面、泣き崩れる婦人、そして今にも泣きそうなかぜ。何かが、悲しい何かがあったのは予想できたが、サクにはそれが何なのかすぐには察することが出来ませんでした。が、取り合えずまだ動きそうなドス黒い煙を出す機械には念のためとどめを刺しました。


「ココデ、オワ、、ル、オモ、オオモ、、ナ、ppp……」


 カラスの様ななりをしたその機械はゆっくりと静かに動かなくなっていきました。


「行くよ、サク、僕を救ってくれた女の子を、ニネを助けに」


 何があったのか、聞いている暇などないことくらいサクにもすぐに分かりました。かぜは、首をゆっくり下げ、ひと思いすると、とサクといっしょに桜生国城をにらみつけました。



バラブ-神に使えるもの(ここでは人以外の植物、動物のこと)

    が作り出せる結界

ミライ・メーカー-桜生国(おうじょうこく)の城に使える                               

         科学者。煙草(そうえん)を用いて 

         精霊を滅ぼそうと企む。

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