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草剣物語〜精霊と少年の旅路〜  作者: 璃月 曽良
第一章
2/62

サクと世界の始まり 『蒼と青の出逢い』

以下の文に関しましては後書きにてキャラクター、単語の説明をしていきたいと思います。


https://28780.mitemin.net/i373084/

挿絵(By みてみん)



「ごほっほっ、う、うう、なんてまずい空気……」


 スラム7番街、桜生国(おうじょうこく)でも最もさびれた街の路地裏(ろじうら)

 ローブを深くかぶった彼は、大っ嫌いな煙草(そうえん)の煙と、にごった埃の中を仕事のため、我慢して歩いていました。

 彼のローブから垣間見える肌は、透明な緑で透き通っていて、その肌に、煙草の煙が絡みつき、ジュウっと音を立てました。


「ぃっいたっあ”ぁ”っ」


 彼は声を押し殺し、こんなことなら完全防備してくるんだったと後悔しました。すると、傷ついた腕を木の葉でそっとくるんで、優しく癒しの心(かいふくまほう)をかけてくれる者がいました。

 6歳くらいの女の子だったか、必死に呪文を唱えています。


「えーっと、なんだったけ? あ、あぽろんしん、ひかりのめぐみをみぎのてに、ゆ、ゆ、ゆぐどらしるの、かみ、

だいちのめぐみをひだりてに、ヒーラリア!」


 女の子が呪文を唱えると、ローブの彼の腕は、みるみる治っていきました。


「ヒーラリア、すごいね君小さいのに覚えたの?」


 ローブの彼が不思議そうに言うと、女の子は答えました。


「あなた、せーれーさんね? みどりのおはだに、にがてなたばこ、えほんでよんだわ! おばあちゃんがいってたの、せーれーさんは、たいせつにしなさいって。せーれーさんは、いのちをつくってくれてるんだって」


「うん、いいおばちゃんだね、大切にしてね。ありがとう、君みたいな子がいると僕ら神に仕えるものは、救われるよ。君、名前は?」


女の子は、忙しそうにしながらも、去り(ぎわ)に応えました。


「ニネ!」


「ニネ、うん、神のご加護(かご)がありますように」


「ありがとう! せーれーさんも!」


 そういうと、ニネは、路地の出口を光の方へと消えていきました。


 ニネの向かった反対方向に路地を進むと、そこにはカクバン丘がありました。

 カクバン丘には古い汽車が改造して作られた校舎があり、お金を持たない者たちが学問を学ぶ場所として使われていました。


 校舎の中にはさまざまな者たちが学問を学んでいました。人間、猫、犬、または亜人など……

 その中でも、青く染まった髪の白い肌の青年は無口で浮いていてローブの彼は人目でわかりました。


「サクだ!」思わず出た声に黒板を見ていた生徒達が振り返りました。

 

「緑の肌だ!」

「ローブだ!」

「聞いたことある、神に仕えるもの!」


 ざわざわとうるさい声が聞こえるなか一人の女がそれらの声をを(さえぎ)りました。女の髪はトゲトゲに乱れおり、傷んだブロンドの髪は痛々しく、程よく肉の付いた体型をしていて、耳は魚の尾びれのような形をしていました。


「あなた誰?神に仕えるもの?精霊?よくわかんないけど邪魔なのよね、帰って」


 女が口うるさく言うと精霊は答えました。


「うるさい、デブ魚!あんたにゃ用はない。僕はそこの青い髪に用があるんだ」


「で、デブ!? 失礼ね、私はぽっちゃりよ!だいたいあんた、初対面で……」


女の口を長いフランスパンがさえぎりました。


「まあまあ、荒ぶるでないイロハちゃん。僕の彼女としては問題ない食べっぷりだが」


 イロハは、フランスパンを突っ込まれながらも器用に話して見せました。


「はふはふ、ふーひはふほひははいへ!」


「サクに用があるなら、親友のユーリ様を通してもらわないとねー、ローブ君?」


 170cm程のか細く背の高い彼は、そう言って黒い耳と尻尾をピクピクさせました。すると、ローブの彼はわざと聞こえないように言ってみせました。


「血が必要なんだ、純粋な人間の血…精霊王、なるため……ウ、ウゥ。」


「ユーリ、危ない!」


 イロハの掛け声は少し遅く、ユーリがローブの彼の言葉に気を取られていると、ローブの彼はみるみるうちに野獣のごとく大きな体になりました。すると、カクバン丘の空に渦を巻いたような黒い雲がかかり、汽車の校舎を雷風(かみなりかぜ)(おお)いました。突風に絡んだ光がバチバチと音を立てながら、校舎の窓を破り入ってきます。


 その雷風は、巨大化した野獣の身体を覆い、野獣はそれを餌のようにむさぼっています。


「ゥウ、血、人間……血……」


 野獣は同じ言葉を何度も何度も繰り返している。そこへ、気の狂ったインコが二匹どこからともなく現れました。


「馬鹿だ、ばかだ、草剣を持ち出した馬鹿だ!人間の血、人間の血、言っちゃいけない、言っちゃいけない、言っちゃった。言っちゃった。」


 黒い耳をピクピクさせて、何やらユーリは冷静に考え込んでいました。


「うーん、あ!イロハちゃん、絵本思い出して!子供たちにいつも読み聞かせてるやつ」


「こんな時になに!」


「いーから、早く!」


 動揺しながらもイロハは語り始めました。


「深く眠った森の奥に、草剣と呼ばれる樹木で出来た伝説の剣がありました。ああっと、きゃー!」


「イロハちゃん!」


 イロハが尻もちつきそうなところに、―草剣物語―と書かれた絵本を持った青年が現れました。コバルト色の美しい髪、桜色の透き通った瞳。サクだ。幼馴染のイロハの危機にサクは尋常ではありませんでした。


「へい、親友。そうカリカリしなさんな。イロハちゃんのことはこのユーリ様に任せとけって。その絵本持ち出したってことは、何か策でもあんだな?へっへーん、ユーリ様気づいちゃったもんねー、あのバケモンの背中、なんか刺さってんじゃん?あれ、カヤ・ブランディスじゃね?」


「サク、かばってくれてありがとう、私は大丈夫だから。ねぇユーリ、カヤ・ブランディスって、伝説の草剣のことよね?あれって、最果ての世界樹の木に眠ってるんじゃなかったの? なんでここに……」


「イロハちゃん、最近……ってか、新聞くらい読もーねー。にしても、この風どこから湧いてくるんだ? 息が上がる。はぁぁぁ、ふぅぅぅ。今日の授業も聞いてないとは、僕の彼女としては呆れるが。」


「彼女ではない。」イロハちゃん即答。


「まあまあ」冷や汗をかきながらも、ユーリは続けました。


「カヤ・ブランディスが最近、一人の精霊の手によって引き抜かれたって授業で言ってたでしょー?」


 ユーリとイロハは声をそろえました。


「あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁ、その精霊って、まさか!?」


「ねえユーリ、サクは?どこ?」


 イロハの予感は的中していました。その不安とは裏腹にサクは野獣目がけてつっ走り、野獣の背中まで高く跳んで見せました。


「その剣にふれちゃだめーーーーー!」


 しかし、イロハの声は届きませんでした。

 サクがカヤ・ブランディスに触れたとたん、ビカっと強い稲妻光って、辺りは白い空間に包まれました。まばゆい光に閉じた重い瞼をゆっくり開けたサクが見たのは、緑色の体の少年。この世界でいう精霊でした。白い空間には、サクと精霊だけがいました。サクの手には、カヤ・ブランディスがしっかりと握られており、その手を愛おしい眼で見つめ精霊は言いました。


「やっと出会えた。僕に名前をくれる人。おじいちゃんが言ってた、青い髪のサク君。思ったよりかっこいいんだね。話したいことが山ほどあるんだ。まず、僕に名前をくれない?精霊じゃなくて僕だけの名前。」


 サクは何やら考え込んでいましました。その時、どこからともなく突風が吹いて、サクは思いついたようにそっとメモを書いて精霊に見せました。


           ”かぜ”


「フィ―リル?この紙に書いてあるの、僕らの言葉でフィ―リルのことだと思う。時に木の葉をざわめかせ、時に時空を超えて旅をする。温かい吐息。かぜ。フィ―リル。かぜ。僕は、”かぜ”なんだね。」


 すると、ゆっくりと白い空間は解けて、元の校舎に戻りました。


「……ぐすっ、ユーリ―、サク死んじゃったのかな?」


「イロハ―、俺、サクの分までおまえのごどぉ、じあわぜに、ずるからぁぐすっ。」


「ユーリ―ごめん、むりー、うわーん。」


「コントみたいなお二人さん、愉快でいいねー、サクは幸せもんだなー。」


「……え? さっきの化け物! ってえぇ!? 元の精霊に戻ってる?」


 精霊は可愛く微笑みました。


「僕の名前はかぜ、よろしくね!」


 ゆっくり目を開けたサクは、そのまま起き上がってカゼに向かって優しく見つめました。

桜生国(おうじょうこく)は、四属性(しぞくせい)の精霊がスラム1~12番街を守っています。


精霊は煙草(そうえん)の煙に弱い生き物です。人間だけが扱える治癒術で回復します。


ニネ-貧しい暮らしをする人間の女の子。おばあちゃんとお母さんと暮らしている。


カクバン丘は城下町から離れた、小高い丘にあります。 


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