サクと世界の始まり 『蒼と青の出逢い』
以下の文に関しましては後書きにてキャラクター、単語の説明をしていきたいと思います。
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「ごほっほっ、う、うう、なんてまずい空気……」
スラム7番街、桜生国でも最もさびれた街の路地裏。
ローブを深くかぶった彼は、大っ嫌いな煙草の煙と、にごった埃の中を仕事のため、我慢して歩いていました。
彼のローブから垣間見える肌は、透明な緑で透き通っていて、その肌に、煙草の煙が絡みつき、ジュウっと音を立てました。
「ぃっいたっあ”ぁ”っ」
彼は声を押し殺し、こんなことなら完全防備してくるんだったと後悔しました。すると、傷ついた腕を木の葉でそっとくるんで、優しく癒しの心をかけてくれる者がいました。
6歳くらいの女の子だったか、必死に呪文を唱えています。
「えーっと、なんだったけ? あ、あぽろんしん、ひかりのめぐみをみぎのてに、ゆ、ゆ、ゆぐどらしるの、かみ、
だいちのめぐみをひだりてに、ヒーラリア!」
女の子が呪文を唱えると、ローブの彼の腕は、みるみる治っていきました。
「ヒーラリア、すごいね君小さいのに覚えたの?」
ローブの彼が不思議そうに言うと、女の子は答えました。
「あなた、せーれーさんね? みどりのおはだに、にがてなたばこ、えほんでよんだわ! おばあちゃんがいってたの、せーれーさんは、たいせつにしなさいって。せーれーさんは、いのちをつくってくれてるんだって」
「うん、いいおばちゃんだね、大切にしてね。ありがとう、君みたいな子がいると僕ら神に仕えるものは、救われるよ。君、名前は?」
女の子は、忙しそうにしながらも、去り際に応えました。
「ニネ!」
「ニネ、うん、神のご加護がありますように」
「ありがとう! せーれーさんも!」
そういうと、ニネは、路地の出口を光の方へと消えていきました。
ニネの向かった反対方向に路地を進むと、そこにはカクバン丘がありました。
カクバン丘には古い汽車が改造して作られた校舎があり、お金を持たない者たちが学問を学ぶ場所として使われていました。
校舎の中にはさまざまな者たちが学問を学んでいました。人間、猫、犬、または亜人など……
その中でも、青く染まった髪の白い肌の青年は無口で浮いていてローブの彼は人目でわかりました。
「サクだ!」思わず出た声に黒板を見ていた生徒達が振り返りました。
「緑の肌だ!」
「ローブだ!」
「聞いたことある、神に仕えるもの!」
ざわざわとうるさい声が聞こえるなか一人の女がそれらの声をを遮りました。女の髪はトゲトゲに乱れおり、傷んだブロンドの髪は痛々しく、程よく肉の付いた体型をしていて、耳は魚の尾びれのような形をしていました。
「あなた誰?神に仕えるもの?精霊?よくわかんないけど邪魔なのよね、帰って」
女が口うるさく言うと精霊は答えました。
「うるさい、デブ魚!あんたにゃ用はない。僕はそこの青い髪に用があるんだ」
「で、デブ!? 失礼ね、私はぽっちゃりよ!だいたいあんた、初対面で……」
女の口を長いフランスパンがさえぎりました。
「まあまあ、荒ぶるでないイロハちゃん。僕の彼女としては問題ない食べっぷりだが」
イロハは、フランスパンを突っ込まれながらも器用に話して見せました。
「はふはふ、ふーひはふほひははいへ!」
「サクに用があるなら、親友のユーリ様を通してもらわないとねー、ローブ君?」
170cm程のか細く背の高い彼は、そう言って黒い耳と尻尾をピクピクさせました。すると、ローブの彼はわざと聞こえないように言ってみせました。
「血が必要なんだ、純粋な人間の血…精霊王、なるため……ウ、ウゥ。」
「ユーリ、危ない!」
イロハの掛け声は少し遅く、ユーリがローブの彼の言葉に気を取られていると、ローブの彼はみるみるうちに野獣のごとく大きな体になりました。すると、カクバン丘の空に渦を巻いたような黒い雲がかかり、汽車の校舎を雷風が覆いました。突風に絡んだ光がバチバチと音を立てながら、校舎の窓を破り入ってきます。
その雷風は、巨大化した野獣の身体を覆い、野獣はそれを餌のようにむさぼっています。
「ゥウ、血、人間……血……」
野獣は同じ言葉を何度も何度も繰り返している。そこへ、気の狂ったインコが二匹どこからともなく現れました。
「馬鹿だ、ばかだ、草剣を持ち出した馬鹿だ!人間の血、人間の血、言っちゃいけない、言っちゃいけない、言っちゃった。言っちゃった。」
黒い耳をピクピクさせて、何やらユーリは冷静に考え込んでいました。
「うーん、あ!イロハちゃん、絵本思い出して!子供たちにいつも読み聞かせてるやつ」
「こんな時になに!」
「いーから、早く!」
動揺しながらもイロハは語り始めました。
「深く眠った森の奥に、草剣と呼ばれる樹木で出来た伝説の剣がありました。ああっと、きゃー!」
「イロハちゃん!」
イロハが尻もちつきそうなところに、―草剣物語―と書かれた絵本を持った青年が現れました。コバルト色の美しい髪、桜色の透き通った瞳。サクだ。幼馴染のイロハの危機にサクは尋常ではありませんでした。
「へい、親友。そうカリカリしなさんな。イロハちゃんのことはこのユーリ様に任せとけって。その絵本持ち出したってことは、何か策でもあんだな?へっへーん、ユーリ様気づいちゃったもんねー、あのバケモンの背中、なんか刺さってんじゃん?あれ、カヤ・ブランディスじゃね?」
「サク、かばってくれてありがとう、私は大丈夫だから。ねぇユーリ、カヤ・ブランディスって、伝説の草剣のことよね?あれって、最果ての世界樹の木に眠ってるんじゃなかったの? なんでここに……」
「イロハちゃん、最近……ってか、新聞くらい読もーねー。にしても、この風どこから湧いてくるんだ? 息が上がる。はぁぁぁ、ふぅぅぅ。今日の授業も聞いてないとは、僕の彼女としては呆れるが。」
「彼女ではない。」イロハちゃん即答。
「まあまあ」冷や汗をかきながらも、ユーリは続けました。
「カヤ・ブランディスが最近、一人の精霊の手によって引き抜かれたって授業で言ってたでしょー?」
ユーリとイロハは声をそろえました。
「あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁ、その精霊って、まさか!?」
「ねえユーリ、サクは?どこ?」
イロハの予感は的中していました。その不安とは裏腹にサクは野獣目がけてつっ走り、野獣の背中まで高く跳んで見せました。
「その剣にふれちゃだめーーーーー!」
しかし、イロハの声は届きませんでした。
サクがカヤ・ブランディスに触れたとたん、ビカっと強い稲妻光って、辺りは白い空間に包まれました。まばゆい光に閉じた重い瞼をゆっくり開けたサクが見たのは、緑色の体の少年。この世界でいう精霊でした。白い空間には、サクと精霊だけがいました。サクの手には、カヤ・ブランディスがしっかりと握られており、その手を愛おしい眼で見つめ精霊は言いました。
「やっと出会えた。僕に名前をくれる人。おじいちゃんが言ってた、青い髪のサク君。思ったよりかっこいいんだね。話したいことが山ほどあるんだ。まず、僕に名前をくれない?精霊じゃなくて僕だけの名前。」
サクは何やら考え込んでいましました。その時、どこからともなく突風が吹いて、サクは思いついたようにそっとメモを書いて精霊に見せました。
”かぜ”
「フィ―リル?この紙に書いてあるの、僕らの言葉でフィ―リルのことだと思う。時に木の葉をざわめかせ、時に時空を超えて旅をする。温かい吐息。かぜ。フィ―リル。かぜ。僕は、”かぜ”なんだね。」
すると、ゆっくりと白い空間は解けて、元の校舎に戻りました。
「……ぐすっ、ユーリ―、サク死んじゃったのかな?」
「イロハ―、俺、サクの分までおまえのごどぉ、じあわぜに、ずるからぁぐすっ。」
「ユーリ―ごめん、むりー、うわーん。」
「コントみたいなお二人さん、愉快でいいねー、サクは幸せもんだなー。」
「……え? さっきの化け物! ってえぇ!? 元の精霊に戻ってる?」
精霊は可愛く微笑みました。
「僕の名前はかぜ、よろしくね!」
ゆっくり目を開けたサクは、そのまま起き上がってカゼに向かって優しく見つめました。
桜生国は、四属性の精霊がスラム1~12番街を守っています。
精霊は煙草の煙に弱い生き物です。人間だけが扱える治癒術で回復します。
ニネ-貧しい暮らしをする人間の女の子。おばあちゃんとお母さんと暮らしている。
カクバン丘は城下町から離れた、小高い丘にあります。




