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草剣物語〜精霊と少年の旅路〜  作者: 璃月 曽良
第一章
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星降りの夜の巫女 『狂気再び』

 星も落ちてきそうな、それはそれは透き通った夜。女たちは色めき合い、我こそは女神になるのだと自信ありげに鏡とにらめっこするのでした。賞品の事などよりも、美しい。それだけが全てを制するのだと、彼女たちは思うのでした。


 そんな中、かぜは縦横無尽に宙を舞いながら小言のように呟きました。


「見た目だけ取り(つくろ)って何になるのさ。ふんっ、どうせ、外見によってくるやつなんて年取ったらすぐ目移りしてさ、若い方に若い方にって行くんだよ? 人間の女ってバカしかいないの?」


 と、そんなかぜを見て冷や汗をかいたユーリは、彼女らに睨まれてやしないか辺りを見回しながら、かぜに言いました。


「かぜちん、怖いこと言うのやめてーな。女ばっかで只でさえ片身狭いのに。しかもなんか、年取った小姑みたいないいっぷりでさ。なんか、かぜちん大恋愛でもしてきたかのようだな。」


 ユーリに悪意はありませんでした。しかし、ユーリの放った言葉はかぜのこころの中で共鳴し、かぜの古い記憶を呼び起こしました。


 大恋愛でもしてきたかのよう……



 "くさなぎ?"



 かぜは、誰かが知らない声が、知らない名前で自分を読んでいる気がしました。


「だ、だれっっっ!?」


 かぜは振り返りましたがそこには、女どもの人だかりは有りましたがどの声も、今聞いた声。そしてまた……


"貴方は、くさなぎ様?あぁ良かった。やっと会えました。でも、さようならですね"


その言葉はかぜの頭に何度も焼き付いて、繰り返し響くのでした。特に


"さようならですね"


と言う、悲しい言葉はどこか懐かしく寂しかったのです。


「怖い、なんか寒気がする。ニネ? ニネが僕を呼んでるの? 違うの? 誰なの? やだ、やだよ……う、うわーーーーーーーっ!!!」


 かぜは、みるみるうちに大きく巨大化し以前サクと出会ったときの教室で狂喜狂った化け物のようになりました。


 ユーリは以前にも教室でかぜの凶器狂った姿を見ていましたが、以前見たときよりも巨大に感じました。


「サクなら何とか出来るかも! サクを呼ばなきゃ!!」


 ユーリはとっさに叫び、遠く離れたサクの場所まで走り出しました。


 その頃、1キロほど離れた先から物音の崩れる音と、焦げ臭い臭いに気付いたサクは、かぜの身に何かあったのではないかと、胸をギュット抑えて、胸騒ぎを感じていました。


 そして、準備を進める菜の花とイロハをよそに、胸騒ぎのする方へ走り出しました。遠くから聞き覚えのある声が、だんだん近づいてきて、その声の主はサクの腕を必死で掴んで、言うのでした。


「さ、サク、お、落ち着いて、聞いて、かぜが、急に暴れだして、な、はぁはぁ、なんでかは、わからないけど……」


 息を切らしたまま、ユーリは疲れはてて、その場に倒れ込ました。やはり、かぜに何かあったのかと、サクはより早く走り出しました。


 「こらー! サク! どこ行くボケー!!!!」


 怒りのイロハなど、知りもしない態度で落ち着きを放っているのは菜の花でした。なぜか美しく着飾って、高級な服に彩られた菜の花はまるで、星降りの、巫女の大会にでも出るのだと、言わんばかりの美しさでした。


 「イロハちゃんはここにいて。私が、必ずサクを連れて戻って来るから、それまでみんなを洞窟の中に避難して。イロハちゃんはムードメーカーだもの! みんなをまかせたわよ!」


 ニコッとウインクすると、菜の花も、サクのあとを追いました。しかし、そんな菜の花の横を疾風の如く何かが通り抜けました。それが何かが、なぜか菜の花にはすぐにわかるのでした。


 「あれは、国に勤める四属性の精霊の一人、フィーラ。最近見ないって聞いてたけどまさか……」


 菜の花の予感は当たっていました。

 四属性の精霊とは、かつて命の女神が消え去るとき、空気中に溶け込んで小さな命の塊になり、やがて精霊になったと言われています。

 空気中にある酸素から、フィーラ。

 電気から、サンディッシュ。

 水素から、ウォーズリー。

 サンデイッシュの火花からファイヤードが生まれたと古文にはかいてあります。

 何のために生まれたのか、誰に仕えれば良いのかわからないままさ迷っていた4人に声をかけたのは現国王、フィーリル王です。


 菜の花の予感と言うのも、フィーリル王が四精霊をかぜに託したのではないか? と言うのもでした。

その予想は当たっていました。

 以前も、ニネの母親を助けたことのあるウォーズリー。そして、今回現れたフィーラ。この時点で残りのサンデイッシュと、ファイヤードが現れることもほぼ確定していました。


 菜の花の横を通り抜けたフィーラは、両手で大事そうに雫の形をした美しい石を抱えていました。

 フィーラは、サクに追い付くと、サクもフィーラに気づき、フィーラは、穏やかな口調で、慕うかのように話しかけました。


「我ガ目ノ前ニオラレルノハ、先ノ精霊王。カゼ様ノ友人ニテ草剣ガ認メシ、左手ノ持チ主、サク様ニアラレマスネ? 

私ハ、カゼ様ノ一部下、フィーラ、トモウシマス。カゼ様ノコトヲ少シオ話シシマスガ、ヨロシイデショウカ。」


 それはかぜにとって忘れたい過去でした。


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