第二話 黒い死神の主
優雅先輩を狙う、あの黒い死神達を操る者がいるらしい。
あなたはいったい…誰なの?
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日曜日の真夜中、また優雅先輩を狙うあいつらの来る気配がある。真希はそれを感じ取り、眠たい目を擦りながらベッドから這い出た。窓を開けてベランダに出て、霊力で身体を強化して家の屋根の上に飛び上がる。
「もう何なの!?」
イラつきながら弓を召喚すると構えた。さらに白く光る矢を2本同時に召喚して狙いを定めると弓を引いて放つ。迷い無く飛んでいく2本の矢はそれぞれ黒い奴らに命中して奴らが消える。
真希は次々に光の矢を連続召喚して敵を射ぬいていった。
「まだ、いるの…?」
真希の放った矢が、命中しているはずなのに消えない敵がいるような気がする…真希はそう思う奴に1本の白い光の矢を召喚して射ぬいたが、思った通りそいつは消えない。
それどころか、何処からか牙をむき出しにして、そのまま真希に向かって突進してくる。
「当たってるのに何で消えないの!?…くっ!!」
弓を盾代わりに敵の黒い牙をくい止める。今までこんな攻撃は無かった。それに距離を詰められた瞬間から、何だか霊力を取られているような感覚がある。
真希が足留めをくらっている間に、他の黒い奴らはじわじわと優雅先輩の寝ている部屋へと距離をつめている。本当にこの目の前の黒い奴が鬱陶しい…。
「優雅先輩…!」
どうにかしてこの敵を倒して優雅先輩を、そう思うのに目の前の敵はだんだんと大きくなっていく。どうやら霊力が取られていると感じたのは気のせいではなかったらしい。
敵の牙が重くなり、真希は屋根の上に膝をついた。じわじわと追い詰められて膝をついた体勢も維持できなくなり、真希は後ろに倒れ込んだ。
腕が痺れて敵の牙が喉元に迫る、やられる_____。
「お前が弱いなら、あいつは連れていく」
音も気配も無く、真希のすぐ横には濃い群青色のフード付きのマントで頭から足元までを覆い隠した長身の男が立っていた。この男はいったい何者だろうか、びしびしと感じるあり得ないくらいの霊力の差。それだけじゃない…この現実世界には存在しない、別の能力も感じ取れる。
本当に、あり得ないくらいの能力値の差を突き付けられている。
(この男の能力でこの黒い奴らが召喚されてる?でも、これだけの力の差があれば召喚術なんて使わなくていいはずなのに…)
真希が必死に考えている間、いつの間にか喉元ギリギリで何故か黒い奴の牙が止まっていた。
いったい何故、何のつもりか…この男はいったい何を考えているのだろうか。
ーーー『真希、パパの氷の魔法はすごいだろう?』
突然に、頭の中に響いたとても懐かしい声。真希の夢の世界の記憶にあるパパの声だ。でもまたいったい何で…真希が混乱していると、妙に頭の中に答えが浮かぶ。この男の力の源は自分と同じ霊力と、夢の世界の魔力だ。
ただ優雅先輩を連れて行くと言った後から何も言わずに立っているだけのこの男は、弱い真希をただただ見下ろしているだけだ。
ーーー『真希もいつかきっと、パパみたいにできるようになるよ』
これはきっと、昔の記憶…あの頃の私は霊力も魔力も、本当にあの2人の子供なのかと疑いたくなるほどに持っていなかった。
パパみたいに魔法を使えるようになる?ふざけるな…だったら今の私は存在なんてきっとしてない。
「氷の小水晶…!」
真希は静かに、記憶と身体に流れる血を頼りに、あの夢の世界流に術式を組み上げた。
真希の周りに霊力が集まり、それは無数の小さな氷の水晶に姿を変えた。その瞬間、その小さく綺麗な弾丸は目の前の黒い…“死神”に命中する。死神に当たらなかった攻撃は地味にマントの男の方にも飛んでいったが、軽々と男は避けてしまった。
「フッ…いいものが見れた」
マントの男はそう言うと、刹那にその場から消えた。黒い死神達も、もうそこにはいなかった。
いったいどのくらいの時間、戦っていたのだろうか。空に昇ろうとする太陽の光に真希は目を細めた。すごくまぶしい。
「…って、今日もう月曜日なんだよね!?」
あのマントの男も去った今、真希は学校に行くギリギリまで寝ようと決意して自分の部屋のベランダへと飛び降りたのだった。