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第一話 優雅先輩との距離


また、この世界の私も高校生になる。

真希(おねえさん)が優雅と一緒にいられなくなった時間に近づいているような気がして…あの世界みたいに“はなればなれ”になるのがすごくこわい。


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


数日前に高校の入学式も終わり、真希は優雅と少し距離を置くため時間も登校する道も変えて高校に着いた。自分のクラスである1年5組の教室に向かうため玄関に入り、1年の下駄箱に向かう。


「おはよ~真希」


「うん、おはよう!」


下駄箱の前で靴を履き替え終わった同じクラスの友達に朝の挨拶を返して真希は靴を履き替えた。その子は他に仲のいい友達を見付けて先に行ってしまったが、その事に大した興味は無い。

私が興味のある事はこっちしかない。はじまりの世界(パラレルワールド)と同じクラスなんて何かあるのかと少し不安になったけど、それでもこの世界はあの世界じゃない。優雅は“先輩”で私は1つ年下で、横断歩道で車にひかれて死ぬなんて…そんな出来事は存在しない平行世界(パラレルワールド)なのだから。


ーーー優雅先輩…


ローファーを自分の下駄箱に片付けて再び歩き出すと、2年の下駄箱の前にいる優雅を真希は見付けた。優雅先輩の姿を見付けて少し嬉しいと思い、でもほとんどはそれ以外の真っ黒な感情が渦巻いている。

真希は足を止め、少しだけその場で優雅達の事を見ていた。


「ねえ優雅くん。今日の数学先生に当てられそうでね、数学の宿題教えてほしいの。お願い!」


「ああ、べつにいいけど」


必死に、それでいてかわいくお願いする千智先輩に対して相変わらずその気の無い返事はどうかと思う。

それに、私の心の中に渦巻いている原因はそれなりに理解しているつもりだ。


「優雅先輩のバカ…」


それにしても千智先輩は優雅先輩と付き合って長続きしている方だと思う。今までの彼女の中で絶対に一番長く付き合っている。

去年初めて千智先輩に会ってから、毎日毎日よく飽きもせずに優雅先輩を朝家まで迎えに来れるなと感心していたりもする。

本音は、優雅先輩と一緒にいてほしくない。それでも…私が優雅先輩に必要となんてされない。そんな私が優雅先輩の隣になんていけない。


「分かってる…」


ーーー私の時間。あとどれくらい、残されてるの?


また、いつかの真希(おねえさん)の声が聞こえた。これはいつの記憶だろうか…ものすごく、頭が痛い。


ーーー今度は何人の命を奪えば、あなたの傍にいられるの?


目の前が歪んで、真希は立っていられなくなり頭を右手でおさえてその場に座り込んだ。周りの生徒や近くにいた教師が心配したり慌てたり、遠巻きに見られているが真希は気付いていない。


ーーー私も、優雅先輩の傍にいるために誰かを“犠”にすればいい?


なんて、違うよね。はじまりの世界(パラレルワールド)とは違う。誰かを犠にするなんてきっと間違ってる、から…。


「おい、真希?」


すると、上から自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。真希はその声を頼りに、この記憶()から助けてほしいと云うように必死に手を伸ばした。

気が付けば、体には妙な浮遊感がある…だけど、すごく安心できる。優しい腕の中にいる間は、真希(おねえさん)の記憶も想いも遠くにいってくれるから。






明るい光と肌を撫でる風を感じる。真希が目を開けると、天井は白くてすごく見慣れたような気がした。ここは保健室だっただろうか。


「やっと起きたか?」


目だけを動かして周りを見回していた真希に突然、呆れたような優雅の顔が視界に入り声が聞こえたような気がした。

真希はその瞬間に、状況をなんとなく理解すると慌ててベッドから飛び起きた。何てところをこの世界の優雅に見られてしまったんだろうか…尾行していた時の事もある。どうか、何もバレていませんようにと願うしかない。


「なっ、何で優雅がここにいるの!?誰も助けてなんて言ってない!!」


さっきの事は憶えてる。よりにもよって、どうして優雅なんかに助けを求めたのだろうか。はじまりの世界(パラレルワールド)でもこの平行世界(世界)でも、真希(わたし)に“守られる存在”のはずの優雅になんて…。


「そうかよ、お前なんかあのままほっとけばよかった!」


いつもみたいに、優雅に怒鳴り返された。

どうして、いつも優雅といるとこうなるんだろう…ケンカばっかりで、あのはじまりの世界(世界)お姉さんと優雅(わたしたち)の関係の方が良かったとさえ思えるくらいに。

真希が目の前の優雅をキッと睨み付けていると、優雅はため息をついてから保健室を出て行った。


「あれ?優雅くん真希ちゃんはもういいの?」


「ああ。昼飯食いに行くぞ千智」


廊下から、そんな会話が聞こえた。何でこんなにタイミングがいいんだろうか。それに、いつの間に千智先輩は優雅を名前で呼ぶようになったのだろうか…ああ、そう言えば私も優雅に“先輩”を付け忘れていた。


ーーーどうして、こんなにも優雅()()は遠いんだろう…


真希は千智先輩と話す優雅の声が聞きたくなくて、右手で右耳をおさえ、真っ白なシーツを左手でぎゅっと握り締めてうつむいた。

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