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第三話 私の霊力の使い方。


私には、とても強い霊力(ちから)がある...らしい。

はじまりの世界(パラレルワールド)では過去を変えて優雅の傍にいるために使っていた。


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


“あの日”は何事もなく終わった、はずだった...。今は小学校6年の夏休みも終わり、学校も始まっている。だが“あの日”以来、夜になると家の周りに変なもの達が集まりだした。黒いそいつらは、何故か“優雅”を狙っているようだった。


「何、また...?」


街の明かりも静かになった頃。寝ていた真希は暗闇の中で目を覚ました。また何かが近付いてくる。あの黒い奴らの気配が、優雅を狙っていると何故か理解できる。真希は眠い目を擦りながらもベッドから起き上がった。

優雅のことなんて、何とも思っていないのに...これも全部“はじまりの世界パラレルワールド”の真希おねえさんのせいだ。自分は少しも優雅を好きなんて感情は持ってないのだから。


ーーー(優雅を守らないと!)


「ああ、また!!何で私が...!!」


こんなことをしないといけないのか...真希は自分の中で相反する感情に苛つきながらも、ベランダの窓を開けて外を見た。やはり、黒い奴らがいる。でもあいつらは優雅の家を囲むように近付いてきては一定の距離を保ちながらこちらの様子を伺うだけで何もしない。

だから今日も、そうだと思っていた。


「え?優雅の部屋の方に向かってる?」


気付けばあの黒い奴らは、いつもいる場所から距離をつめて来ている。真希が“何故”と思うよりも早く、その“答え”は真希おねえさんの心の中にあった。

本当に、自分はどうかしてしまったらしい。真希おねえさんの焦りや優雅への罪悪感...否、優雅への強すぎる想いを感じる。そのせいではじまりの世界パラレルワールドの記憶に呑み込まれそうになる。


ーーー(優雅を連れて行こうとしてる。優雅のいない世界を繰り返すのは嫌ッ...!)


まるで警笛を鳴らすように真希おねえさんの声が無数に頭の中に響き、気を抜くとこの体の主導権を持っていかれそうになる...ような気さえしてくる。

真希おねえさんがとても焦るように、自分にもあの黒い奴らが優雅を狙っているのも、自分から優雅を奪っていく存在だと云うのも、何故かとてもすごく理解できた。でも、今の自分に何ができるだろうか。ここは“はじまりの世界パラレルワールド”じゃない。自分はただの小学生で、高校生だった真希おねえさんじゃない。どうしたらいい?どうすれば、優雅を守れる?どうやってこの霊力ちからを使えばいい?


「あ、ダメッ...!!」


迷っている内にあの黒い奴らは近くの家の屋根から屋根を伝い走り、優雅の部屋のベランダへと飛び移ろうとしていた。もう、どちらかも分からない真希がベランダに出て必死に手を伸ばしていた。


ーーーわたしから優雅かれをとらないでッ...!


この平行世界パラレルワールドの真希とはじまりの世界パラレルワールドの真希の想いが重なった。

この世界の真希が必死に伸ばした手には“白く光る矢”が1本握られている。真希(達)は迷い無く自分の霊力ちからで召喚した矢を目の前まで来た黒い奴に向かってぶっ指した。するとその攻撃を受けた黒い奴は、何も無かったかのように消え去った。突然のことに自分の息が上がるのを感じる。でも、まだこれで終わりではない。


「わたさない、てばっ...!!」


真希の目の前には、自分の霊力ちからで召喚した白い光を放つ弓が浮いていた。またこの弓も迷い無く掴み取って真希は黒い奴らを真っ直ぐに見据えながら構えた。

弓の持ち方なんて、弓道なんて知らない。それでも見よう見まねでも、霊力ちからの使い方なんてよく分からなくても、この弓を使うしかない。きっとできる。自分が召喚した弓と矢があればたぶん大丈夫だと、妙な自信がある。


「こっちに来ないでよ!!」


弓を引き、真希は白く光る矢を1本召喚しては黒い奴らに向けて放つ。何度も何度も的を外しても外しても、ちゃんと当たって黒い奴らが全部消え去るまで無我夢中で矢を召喚して放ち続けた。




どれくらいの時間がたっただろうか。真っ暗だったはずの空は少しだけ闇の色を薄くしたようだった。太陽が顔を出し始めるまではまだもう少しあるだろう。

真希は疲れてベランダにへたり込んでいた。初めて無我夢中で使った霊力ちから、弓を構えてどれくらい矢を召喚して放ったかなんて数える余裕はまったく無かった。もう、思うように腕が上がらない。体を動かす体力も気力も残っていない。


ーーー黒い奴あいつらはいったい何だったのだろうか。


疲れきっていても、そんな疑問が真希の頭を過る。あいつらが何者か、どういう存在なのか、何故優雅を狙うのか...その“答え”は真希おねえさんの記憶にも心の中にも無いみたいだった。

真希がベランダ越しに優雅の部屋を見上げて少しだけ、嬉しそうに微笑んだ。優雅はまだ、ここにいる。黒い奴らに取られてはいない。自分の傍にいる。ただその事実が嬉しくて安心できて、少しだけ誇らしいと思った。


「ゆう、が...」


朝になれば、きっと黒い奴らは来ないだろう。今までもそうだった。だからきっと大丈夫...真希は優雅の名前を呼びながら、重い瞼を開けていることができずに意識を手放した。






何だか安心できる温もりを感じる。よく知っている匂いがする、さっき疲れきってベランダで寝たはずなのに寒くない。固いコンクリートの感触も冷たさも感じない。どうしてだろう...と真希が思っていると、何故か優雅の声が聞こえた。


「お前何でベランダで寝てんだよ、バカなのか?」


またいつものように優雅は私を“バカ”だと言う...その声が妙に近い場所から聞こえる気がする。それに妙な浮遊感。小さい頃みたいにおんぶされている?いや、これは違う気がする。

真希はいろいろと考えた結果、まだ重い瞼を開けることにした。それでも思うように目を開けて状況を見ることは難しい。


「おばさん、真希の奴ベランダで寝てたんだけど。それにたぶん熱あると思う」


「あらあら、しょうがない子ね。ありがとう優雅君」


するとお母さんの声も聞こえた。優雅が言うみたいに熱なんて無いと思うし、起きているはずなのに今自分がどういう状態なのか周りを見ることができない。ああ、体がダルいし、目が開かない。まるで金縛りにでもあっているような気さえしてくる。

真希は必死に手を動かして、何かを掴んだ。妙に“これがいい”と思い、何故か“これじゃなきゃ嫌だ”と強く思った。


「やっぱり優雅君が大好きなのね、この子は」


お母さんのクスクスと笑う声に否定の言葉を言いたいのに、自分の口も動かすことさえできなかった。むしろ、優雅が否定すればいいと思う。

でも自分はいったい、優雅の何を掴んだのだろうか...気になるところだが、このまま寝たいという気持ちの方が勝ったためこのまま眠ることにした。


「いつも真希に嫌いだって言われてるからそれはないと思うけど。でも俺は.....」


意識を手放す直前、優雅が何かを言っていた気がしたが最後の方はよく聞こえなかった。

はじまりの世界パラレルワールドの優雅は真希おねえさんを好きだと思うけど、この平行世界パラレルワールドの優雅が自分を好きなんてことはきっとないと思うし、この“優雅への想い”は真希おねえさんの物だから自分があの優雅に恋をしたり好きになったりなんてきっとないはずだから...あるとすれば、それはきっとはじまりの世界パラレルワールドの優雅だと思う。

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