スタッフスペース2
巨大水槽へ向かう梯子は見つけられなかったが、代わりにいくつかの資料を見つけることができた。
それはスタッフ用スペースの廊下の奥にあるフロア長室にあった。
“長”とついてはいるが、裏野ドリームランド内でさほど偉い立場にはなかったのだろう。
狭い部屋に安っぽい机とパイプ椅子が置かれており、様々なものが乱雑に置かれていた。
唯一フロア長らしいと言えば、部屋の隅にあるファイルがずらっと置かれた棚くらいのものだった。
棚には帳簿や到達目標、安全管理、職員の労働環境に関する資料が多数置かれていた。
その中で私が気になったのは、ここでの出来事を描いた日誌だった。
裏野ドリームランドにアクアツアーができてから13年。
その長い歴史を記した日誌を一日一日、私は読んでいった。
神谷がアクアツアーの日誌を読んでいる頃、先輩は観覧車の近くで誰かに追いかけられていた。
汗だくで逃げる先輩の背後にいるのは、おそらくこの世のものではないだろう姿をしていた。
日誌は水族館のスタッフが交代で書いているようだった。
アクアツアーができた頃、お客さんが入らず苦労していたこと、次第に魚の種類が増えていき、飼育員達が生き生きと仕事をするようになった様が伝わってきた。
徐々に活気にあふれていくアクアツアー。
それに伴い飼育員の人数も増員されていった。
ある時、魚に病気が流行って大量に死んだこともあったようだった。
だが、魚に非常に詳しかった飼育員が死にかけた魚を看病して、助かった魚も多かったと書かれていた。
また、ある時はイベント好きの室長が子供向けのイベントを何度も行い、アクアツアーが裏野ドリームランドで一番人気のアトラクションになった時代もあった。
アクアツアーの歴代のスタッフ達の苦労と喜びを僅かだが、肌で感じた。
だが、ちょうど“謎の生き物”の噂が立ち始めた頃から、様子がおかしくなっていった。
スタッフが事故に巻き込まれて、怪我をしたと何度も記載されていた。
飼育員が水槽に入れる薬を間違えて、魚が一夜にして全滅するという事故が起きた。
日誌を書くスタッフの精神状態も良くないのか、誤字脱字が目立ち、殴り書きのような字に読みにくさを感じた。
さらに、飼育員が何名か失踪したと書かれていた。
無断欠勤した飼育員がいたが、連絡も取れず、自宅にもどこにもおらず、警察に被害届を出したと書かれていた。
「次、殺されるのは自分かもしれない」
日誌の最後のページはそれだけが書かれていた。
私は日誌のいくつかのページを写真に撮り、スタッフ用スペースを後にした。