水族館3
先輩と無駄話をしているうちに、カメラを設置してから1時間が経った。
案外時間は早く過ぎてしまう。
そろそろ、設置したカメラの様子を見に行くことにした。
まるでさっき通った道をなぞっていくように、同じところを歩きながら巨大水槽を目指す。
暇だったし、退屈しのぎに今度は魚の説明文を読みつつ、進んでいった。
説明文の書かれたプレートは所々錆びており、一部文字が見えなくなっている。
だが、それがまた隠れている部分を想像したりして楽しかった。
説明文から顔を上げると、小さな違和感に胸騒ぎがした。
あれ、この水槽、水入ってたっけ?
一周目の時は空だったような気がする。
が、かなりの数の水槽があるから記憶違いかもしれない。
小さな違和感が少し引っ掛かりつつも、巨大水槽のところに辿り着いた。
設置したカメラを早送りで一つずつ確認していく。
目立つ場所に設置したカメラは、永遠と何一つ変化しない水槽を映しているだけだった。
隠しカメラを確認するも、何も映っていなかった。
映らないどころか、設置したカメラが2個無くなっていた。
カメラ自体さほど高価なものでなかったが、お金に煩い室長に後で小言を言われることを考え、少し気分が下がる。
おそらくカメラに自分達の姿が映ったことに気付き、回収したのだろう。
今回の馬鹿は多少は頭が使えるようだった。
だとしても、悪戯でフェイクビデオを作るような馬鹿であることに変わりはないが。
こうなったらと、その巨大水槽に限らず、水族館のあらゆるところにカメラを設置することにした。
今度はすぐに見つかったりしないように隠し場所にも気を使って。
もはや奴らを捕まえるために半ば躍起になっていた。
次はどこにカメラを設置してやろうかと考えを巡らせてながらあたりを見回していると、柱の陰から走り去る人影を見た。
男の後ろ姿であった。
「待って!」
走りに自信のある私は、男を追いかけた。
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
スマホからの機械音が広い館内に響く。
走りながらスマホを見ると、先輩から電話だった。
チッ
タイミング悪すぎなんだよ!
悪態をつきながら、「拒否」を押す。
だが、拒否を押した途端、再び嫌な音が鳴り響く。
「ったく、何なんすか?今、取込み中なんっすけど!」
声に苛立ちを込めつつも、小声で話す。
「ちょ、先輩に対してその態度はないだろぅ」
「用がないなら切りますよ」
更なる苛立ちを先輩にぶつける。
「いや、大事な報告なんだ。
メリーゴーランドが一人手に動いているんだよ。
しかも、明かりもついてる。
あの噂は本当だったんだ」
「はいはい。分かりましたから、切りますねー」
先輩のせいで遅れを取った分、スピードを上げて、追いかける。
男が部屋の方へ走っていった。
見失わまいと後を追いかける。
だが、男が逃げて行った方をみても、誰もいなかった。
おかしいなあ。
水槽に囲まれたその部屋は、今私が入ってきた場所だけが唯一の出入り口だった。
どこに逃げたのだろう。
非常口やスタッフ用のドアなどがないかも探したが、やはり出入り口は一つしかなかった。
そして、もう一つ気になったことがあった。
あの男は今まで悪戯をしていた連中とは雰囲気が違うように思えた。
単なる直感だったが、あの男が“謎の生き物”に関わっているんじゃないかという気がした。
巨大水槽の“謎の生き物”はあの男のペットのようなものなのかもしれない。
信じがたいが、あるいは、あの男自身が。
その男の後ろ姿が妙に気になった。