お金
「金で買えないもの?そんなものは存在しない!」
男はそう豪語する。
人の気持ちも金で動く。
女の愛も金を積めば動く。
親の愛も金を積めば変わる。
金があれば思いのままに過ごすことが出来る。
気にいらない人間も金を積めばいい。
気にいらないことがあれば金を積めばいい。
金があればなんでもできるのだ。
怨みも全て金で解決してきた。
そんな時だ。
今日も今日とて男は気の向くままに行動していた。
「おい」
後ろから突然声を掛けられた。
そんなことはいつもならあり得なかった。
なぜなら男には警護の人間がついていたはずで、連絡もないはずがないのだ。
「お前なんだ?」
男は問う。
「俺か?俺は貧乏人だ」
「お前は馬鹿か?」
男は頭のおかしい奴を見る目で眼の前の人物を見た。
仕立てのいい服を着ている。男の者よりも上等なものだ。
「ああ、俺は馬鹿だよ」
「ああそうかい、で?なんのようだ?」
これ以上馬鹿とは付き合っていられない。警護の人間が何をしていたのかはしらないがあとで首にすればいい。
「あんたからものを買いたくてね」
「あー?いいぞ?何が欲しいんだ?」
「あんたがもっとも大事にしてるものだ。勿論金じゃない」
男が大事にしているもの、それは金だ。次が女だった。
「いいぜ?飛びきりのをやるよ。そうだな、5000万くらいでいい」
「そんなに安いのか?」
「そうか?」
男は不思議な顔をする。所詮女は女だ。今は若いが劣化する。一番美しい時期はもう堪能したのだ。それくらいでいい。だが、金をもっと取れると言うのならもっとほしい。
「いくら出してくれるんだ?」
「そうだな、俺なら1兆だされても嫌だがね」
「じゃあ1兆でいい。本当に出せるんだろうな?」
「ああ、大丈夫だ」
男の眼に嘘は無い。
「いいぜ、ついてきな」
「いや、ここでいい」
「?」
どういうことだろうか?女は今ここにいない。口約束だけだったら男は逃げる予定だった。
「え?」
男の胸に何かが刺さっていた。
「お前の命、1兆で買い取った。俺の娘の命はお前に20万で買われたそれから考えればお高いこった」
「な、にを、言っている、んだ?命は金じゃ買えねえ、よ」
「お前が言ってたじゃないか、金で買えないものはない。女も、愛も、そして、命さえもってなぁ」
金は人を狂わせる。
感情すら時に動かしてしまう。
金なんて生きていなければ使えないのに、人が使うはずのものに使われる。
なんて滑稽な話だろうか?
貴方はお金に狂わないように。
身近なところに危険は潜んでいますよ?