○プロローグ 矛盾依頼
『自分の道を見つけること。それが生きるって事なのかもしれないね』
かつて、その言葉を誰かに言われた気がする。と、フェルティは思っていた。
自分の道をみつける……その言葉をフェルティは全て理解できた訳ではない。しかし、彼が生きてきた十八年間の内、十年は自分で切り開いてきたのだと言える。……たとえ血に塗られた生き方だったとしてもだ。
――だからこそ、自分の道を見つける為に生き続けようと誓った。
そのためにフェルティは多くの血を流してきた。大半は殺し相手の血ではあったが自身も少なくない量を流してきた。それでも生きるために、誓いを果たすために戦い続けた。
それは今回の依頼であってもかわらない。
そう考えながらフェルティは目の前にある白い扉を見つめる。
この先にいるのは自分が護衛する一人の人間。
リーベル・ヌル・カルスト。
エルティア王国の第三王女でありフェルティが守るべき対象者。
何から守らなければならないのか一切が不明であり、そもそも守る価値が無い存在。
曰く「人形」
曰く「お飾り」
曰く「哀れで惨めな王女」
それが王国内における印象であり全てだった。
初めこそ依頼を断ろうとしたフェルティであったが一つの条件を呑むことでこの依頼を引き受けた。
その条件とは、
「『彼女が真に人形であるのならば殺害してもよい』とは、随分と面倒な事を条件にしたものだ。……それで依頼を引き受けた俺も大概だがな」
そもそも守るべき対象者にするべき条件ではなかった。何より依頼と条件が矛盾している。 だが、こんな意味不明な依頼をフェルティは引き受けた。
その理由が、
「本当に人形なのか、ただそれだけが知りたいが為に引き受けた。……俺もおかしいのかもしれんな」
そうフェルティは自身を嘲る。
たった、それだけ。たった、それだけの理由。
――だけど俺にとっては十分な理由。
「いや、だからこそ俺らしいのかもしれんな」
フェルティは自己完結させると目の前にある扉に手を掛ける。
だが、彼の脳内を支配していたのは目前の扉ではなくその先にいる一人の少女だった。
「リーベル・ヌル・カルスト」
少しずつ、フェルティは扉を開けてゆく。
「お前の生まれた意味を」
ゆっくり、本当にゆっくり開けながら、
「俺に……教えてくれ」
フェルティは言葉を紡いでゆく。
――願わくばこの出会いに意味がありますように。
その言葉はなによりも懇願に満ちていたのかもしれない。
これは生きる意味に執着する一人の少年と、生きる意味を見失ってしまった一人の少女の物語。