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世界の裏側  作者: 渡辺律
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後日談 01

久しぶりの更新なうえ、こんなんかよ?!というつっこみはなしで・・・orz

なんでこういう話になったのか自分でもよくわかりません。

(そのうえ、まだ続くっぽい・・・)

「あなたを女性として愛することは一生ない」

 それが初めて交わした言葉だった。







 マリアージュ・ルル・ワーズワースは初代神子の血をひくワーズワース家の最後の子孫だった。神子の血をひいているとはいえ、マリアージュに何か特別な力などはない。それでも、神子の末裔という肩書は貴族たちにとっては有効なものだったらしく、彼女の下には多くの縁談が持ち込まれた。

 マリアージュとて、貴族の結婚は政治の一つでしかないことを理解している。だからこそ、結婚相手を親に決められたところで、油ぎった好色爺とかでなければいいな、とそれくらいしか思わなかったけれど。







 彼女を妻に、と望んだのは、フィーア国の若き王だった。

 美しい容姿と王に相応しい才覚を備えたその男は、未だ一人の妃も持たずにいた。そんな彼がなぜかマリアージュを王妃に、と望んだのである。

 期待、がなかったとは言わない。

 マリアージュは現実主義者であったから結婚相手に過度な希望は持っていなかった。フィーアが聖樹国を滅ぼしたことは知っていたから、その関係で初代神子の血をひく娘は王権の正統性を主張するのに必要なのだろうとぼんやり考えていたのだ。


 だが、マリアージュとて、女。

 ロマンスに夢見ることだってあるのだ。





 それなのに。

 まさかマリアージュの希望は、夫となる男と顔を合わせた次の瞬間に脆く崩れ去った。しかし、今ではそれで良かったのではないかとも思う。

 彼はマリアージュを女として必要とはしてくれなかったが、王妃としては必要としてくれた。






「ルートヴィッヒ、アルベルト、時間よ。いらっしゃい」

 マリアージュがフィーア国王と結婚して十年。二人の男児に恵まれた。どちらの子どもも元気に育ってくれている。少し元気すぎるくらいだ。

 第一子が生まれたとき、夫の想い人をマリアージュは知った。異国の響きを持つ現神子がその相手なのだと。神子と夫との間にどういうやりとりがあったのかは知らない。けれど、夫の片思いなのだということは十分見て取れた。


 だが、それがなんだというのだろう。

 そんなことは慰めにもなりはしないのだ。










「神子が憎いと思われたことはないのですか?」

 マリアージュは隣国の幼き王妃の言葉にくすり、と笑みを漏らした。彼女だって、そんな質問は不躾すぎる失礼なものだとわかっているに違いない。それでも聞かずにはきっといられないのだ。マリアージュと彼女は似たような境遇だから。


「そうね、まったく憎まなかったといえば嘘になるわ。最初はあんな男のことなんか絶対好きにならないと思っていたわ。初対面が初対面だし。だけど」


 隣にいることが多くなった。

 言葉を交わして、彼の国に対する姿勢などを誰よりも間近で見るようになった。


「あの男は悔しいくらいいい男なのよ。惚れるなっていうほうが無理だわ。それにね、あの人はわたしのことを女として必要とはしてくれなかったけれど、戦友といっていいくらいには尊重してくれたし、気遣ってもくれていた。世継ぎが必要だったから息子が二人生まれるまでは夜も共にしていたしね」


 体を重ねれば、子供が生まれれば、そうしたらちょっとはマリアージュを好きになってくれるかもしれない、と期待していたこともある。その期待は全部きれいさっぱり裏切られたけど。


「神子が憎いと何度も思ったわ。神子がいなくなるなんてこと考えられないもの。それに、あの男はなんていうか一途といえば聞こえはいいけど、偏執的なところがあってねぇ。聖樹国の王たちの末路を知ってるかしら?」

「ええ、本来であれば少なくとも王族は処刑されるのが決まり事。よっぽどの事情があれば監禁、ということになるのでしょうけれど。でも、確か、娼館に送られたのですよね?偽神子といっしょに」

「そう。考えてみれば彼らが使ったお金を彼らに稼がせる、というのは理に適っているけれど、それを本気で実行したりはしないじゃない?」

「そうですね。しない、というよりはできない、という感じですが」


 こくり、と神妙な面持ちで肯定する隣国の王妃にマリアージュは内心、苦笑する。彼女は幼い。しかし、聡明ではある。道を間違わなければ、隣国も安泰だろう。


「当然、うちでも賛否両論。むしろ、反対する人間ばかりだったわ。外聞がわるいというのもあるものね。国がすることだからお金の損得よりも体面の方がずっと重い。それはあの人にだって十分わかっていたこと。なのに、あの人は娼館送りを実行させた。あれはなぜだかわかって?」


 隣国の王妃は不思議そうに首を横に振った。それはそうだろう。多くの人間が知らないはずだ。なぜ、彼が娼館送りを本当に実行したか、など。


「神子が望んだのですって。国の体面なんてよくわからないものより、生きている人間の方がもっとずっと大事だって」


 それはマリアージュからすれば為政者の言葉ではない。為政者であるがゆえに、体面が必要になることもある。神子はどこか違う世界からきたというから、マリアージュたちとはまた違った感覚を持つのだろう。それをマリアージュは責められない。神子は望んで神子になるものではないのだから。

初代神子を祖先に持つマリアージュは、初代神子の手記を読んだ。そこには、神子の悲痛な本音が書いてあった。


―――神子になりたくなんてなかった。

―――気づいたら勝手にお前が「神子」だとか言われて。知らない世界にあたしは一人。神子なんかじゃないのに。でも神子として生きていかないとこっちにあたしの居場所なんてない。



「まぁ、そこは価値観の違いやなんかもあるから、正しいとか間違ってるとかは後世の人間の判断に任せるしかないんだけど。とにかく、あんな無謀ともいえる処分は神子が望んだからあの人はそれを叶えてあげたかったのだそうよ」




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