02
あと一話で終わるといいなぁと…。
あまりあほの子が出てこなくてしょんぼりです。
次こそはあほの子をいっぱい出したいなー。
今回は主人公が結構頑張ってる…?
「で、聖樹国はどうなっている?」
「陛下の予想通りですよ。あの神子だとかいう女に国のトップが誑かされてるもんだから、内政はぐっだぐだ。警備もざるですね。あと、あの神子にドレスやら宝石やらを与えるため、湯水のようにお金を使ってます。それも全部国庫から出してるんで、国民は重税に苦しんでますよー」
「そうか」
陛下と呼ばれた男はフン、と鼻を鳴らした。
部下に報告させた内容はほぼ予想していた通りで、これならば聖樹国をフィーア国のものとするのに時間はかからないだろう。喜ばしいことだ。
王の機嫌がいいことを悟った部下は、いくつかの報告書を再び王に渡した。
「これが、反乱軍の指導者リストです。聖樹国をどうするかわかんなかったんで、いちおー、傀儡になりそうな人間とあとはフィーアに併合しやすいような人間をそれぞれ用意してますけど。あと、国庫も空に近いんで、その穴埋めは必要っすよ」
「ふむ、国庫の穴埋めには使った人間たちを利用すればいいだろう。あとは不正で私腹を肥やしてる貴族どもから没収すれば良いしな。聖樹国、という名前を残していては後に禍根が残る可能性があるから併合にしろ。そっちはコンラートに任せるから後で聞いておけ」
「はーい」
部下が一礼して部屋を出ていくのを見送ってから、王は満足げに深いため息を吐いた。
すると、そこに音もなくふわりと少女が現れた。
「珠洲」
王の顔が嬉しそうに綻ぶ。しかし、少女は表情も変えず窓際へと近寄ると、窓を開いた。
「王」
「どうかリヒャルト、と」
王の言葉など聞こえなかったかのように、少女は言葉を続ける。
「この世界を保ちたいのであれば、血を流さないようにしなさい」
王であるリヒャルトが、それはどういうことだと聞き返す前に、少女は現れたときと同じように、唐突に姿を消した。
やれやれ、とリヒャルトは頭を横に振る。
少女が開けた窓からは、風に乗って夏の匂いが室内に入ってくる。珠洲という少女が本物の神子であるということに彼は気が付いていた。でなければ、あのように突然現れたりすることなどできぬだろう。
聖樹国の人間も愚かなものだ。
ふ、と外を見つめる。
聖樹国のトップがこぞって異世界人の女に入れ込んでいるという。おそらく彼らは彼女こそが神子だと信じているのだろう。神子の力は本来、余人にわかるものではない。本人が神子だ、と言えば神子になる。
今までそれで良かったのは、召喚されたのが常に一人であり、そしてその一人こそが本物の神子であったからに過ぎない。
今回、召喚されたのは二人。
一人は、召喚されて間もなく姿を消したという。聖樹国のトップは消えたのは神子ではなかったためとし、また、二人召喚されてきたことについては箝口令をしいている。リヒャルトにしてみたら愚かとしか言いようがない。これでは本物の神子たる珠洲が聖樹国にそのままいたとしても、いつの日か遅かれ早かれ滅ぼされていただろう。
リヒャルトはうっそりと嗤った。
+ + +
「すーずっ。また、お前あいつんとこ行っただろ」
アシューの言葉に、あたしは内心、げっと声を上げるけどそれを表に出すほど愚かではない。
「よく知ってるね」
「見てたからな」
「暇人だなぁ」
「すーず」
アシューは珠洲が茶化してみせたのが気に食わなかったらしい。先ほどより低い声で名前を呼ばれた。
「わかってるわよぅ。アシューがあたしを心配してくれてるんだ、ってことは。だけど、それはそれ。無駄な体力使わずに済むように事前の根回しは必須でしょ」
「だからって直で会いに行く必要はないはずだ」
「まあ、そうなんだけど。でも今後のためには直接会っておいたほうが良かったの。聖樹国を滅ぼすのは間違いなくフィーア国だもの」
あたしの言葉にアシューは、げんなりした顔をしてみせた。
いや、あたしだってわかっているんですよ。あんなふうにリヒャルトに会いに行くのはあんまりよくないってこと。よくないっていうより、体力を使う。あんな普通の人間だったらできないようなことをやるのは、神子と雖もなかなか困難であるのだ。そして、それをアシューは知っているがゆえにあたしを心配してくれているのだ、ということも。
というか、アシューは心配性ってやつじゃなかろうか、とあたしは最近疑っている。
なんか、あたしに対して過保護のような気がするのだ。そりゃアシューと違って世界の軛としてはまだまだ未熟だから心配したくなる気持ちもわからなくはないけど。
でもなぁ、って感じ。
フィーア国の王に会ったりするのは、聖樹国が滅びることによって世界のバランスが壊れてしまうのを防ぐためだ。というより、聖樹国が滅ぶことによる世界の混乱を最小限に抑えるためである。
あたしが神子としてこの世界に召ばれたのは、世界のバランスが崩れていたせいだ。そんななか、聖樹国が滅びれば、小さな国とはいえど、世界に与える影響は必至。世界に与えられる打撃が大きければ大きいほど、それはあたしに対するダメージになる。
よっぽどのダメージじゃない限り、死ぬ、ということはないけれど、ダメージはダメージ。傷を癒すためには休まなければならない。
あたしや魔王が傷を癒すための手段なんて、ただ一つ。
――― 死んだように眠る、それだけ。
こっちの世界に来てすぐのころも、大半を寝て過ごしていたけれど、それとはまたわけが違う。
最初、寝てばかりだったのは、この世界とあたしが同化するために必要だったから。眠りの中で膨大な情報を整理していたのだ。
アシューがあたしを聖樹国から連れ出してくれて本当に良かったと感謝している。でなければ、あたしはきっとあの膨大な量の情報を整理しきれず、気が狂ってしまっていただろうから。
麻綾は今日もうっとりと笑っていた。
彼女を取り囲む美形たち。どの美形も麻綾の愛を欲しがる。
麻綾が少し微笑んであげるだけで、全身で喜んでくれているのがわかる。
なんて簡単で素晴らしいのかしら。
王も騎士も神官長も。
麻綾が「サミシイ」と言ったから、ずぅっとそばにいてくれる。ずっとそばにいて、麻綾を愛してくれるのだ。
そこには、彼女の望んだ世界があった。
王らが政治を顧みなくなって、どれくらい経つのだろうか。
王らが神子に溺れている、という噂はとうに国民の間に広まっていた。そして、度重なる重税のお触れ。
重税の理由が神子にあることを知らぬ国民はなかった。
本来であれば、そのようなことが一般市民に知られるにはある程度時間がかるものだ。しかし、王らの怠慢は驚くほどのはやさで様々なところに伝えられた。
少し考えれば、それはおかしいと何かしら疑問が浮かぶはずである。
不幸なことにそんなことに気づくものは誰もなく、今や聖樹国は腐りかけの果実のように、じわり、じわり、と破滅への道を確実に歩み始めたのだった。