第91話 候補
「聖戦……ですか……」
現在は纏め役と補佐役、それと元商会代表を参加させての会議中。
迎撃戦がはじまるまで何も準備しないのも馬鹿らしいので、とりあえずは街の人を避難させてしまおうと思っているのだが。
「そうだ。この街が戦場になる可能性が高いのであれば、まず被害にあいやすいのは一般人だろう? だが彼らに素直にこの街を一時的に出ていて欲しいと言っても各自の生活があるので難しいはず」
「…………確かにその通りです。彼らはよほどのことが起こるまでは何も行動をせず、いつもと同じ様子で暮らすでしょう。だからこそこの街がこうなってしまった事実すら考えもせずに……」
「それは本当にただの一般人であるものならば仕方ないさ。逆にだからこそ一般人であるのだから。……だが貴方の様な責任感のある人がまだこの街に纏め役として居るのは僥倖と言える。これからもこの街のために頑張って欲しい」
「はっ……」
「で……それはそれとして、回避策で彼らへの理由付けとして考えたものが『聖戦』だ。あまり頭を使うことに慣れていない人でも神への信仰は存在する。言葉は悪いがそれを利用して彼らを助けておきたいということだ」
「なるほど……」
「まだ一時的な避難先は用意していないのだが、今のうちに彼らに避難態勢、それを準備しておいて貰うための心構えを持たせる必要がある……」
「では、それらを街の人たちにふれまわってくればよろしいのですね?」
「うむ、まずはまだ悪魔は完全に淘汰されていないという認識を持たせるのが重要だ。彼らに無駄に気を緩ませないような態度で頼むぞ」
「わかりました。謹んでその役目、お引き受けします」
「僕もお手伝いさせていただきます」
「そして、これも関連する事柄だが、避難先の候補についてだ。私のほうでも探してみるつもりだが、一応この中で誰か心当たりはあるのか聞いておきたい」
「うーん、そうですね……この街の人数ですと、小さいとはいえ、それなりの数ですから、主要都市や王都などでないと収容は困難ですし、無用に目立ってしまって難しいと思います」
元商会代表が適切な意見を出してくる。
「ならば、第一候補は王都ということでよいか。これからフランツ殿には押収した財宝を使って土地や店舗や家を買いに王都に行ってもらう予定ではあったが、その際にまず出来るだけ多人数の収容に適した建物などに注視して買い揃えてもらえばよいか?」
「そうですな、一石二鳥と言うことで、まずは固定資産を買い揃える方向で、その時に見繕えばよろしいのではないでしょうか」
「では……その方向でいくとしよう」
俺は出来れば個人的には王都ではなく、もっと別の田舎のほうが都合がよいのだが……
あまりただの一般市民を、無駄に進んだ文化に慣れさせるとろくなことにならない気がするからな。
一般人は進んだ都市の良い部分のみを見て、悪い部分をみられる人間が少なすぎる。
どうせ男連中の大半は最終的には酒や女や賭け事らにしか興味を示さないだろうし。
そして手持ちの金を無くして最後は道端に立ちつくすだろ……
女連中は俺には理解は薄いが、あまり華やかな世界をみて夢と希望に溢れられても、
生まれたときからその世界に居る人たちと混ざることは難しいって事も理解はしてくれなさそうだし。
良いものを良いものとするには、もっとも大事なのは臭いセリフだが、殆ど自分自身の問題なのだ。
良いものというのは、まず自分がそれ相応にならないと良いどころか逆に悪くもなる。
先人の知恵の結晶である本も、それを読み解く頭が無いとただのゴミか、売るぐらいの価値にしかならない。
自分の能力さえ高ければ相手はカモになるし、能力が低ければカモにされる。
自分が美しければ、美しい相手を落とすこともたやすくなる。
良いものを追い求めて幸せを望んだって、自分に相応しくなければ夢破れるだけ。
というか、都会に住む人間と、田舎に住む人間、どちらが幸せそうかというと、俺には両方とも同じに見えるんだが。
いや、むしろ都会に住む人間を大人、田舎に住む人間を純朴な子供として例えると、いつも心を擦り切れさせている大人よりも子供のほうが幸せなのかもな。
刺激ってのは最初は夢のように楽しいものだが、すぐに刺激に慣れて、残るのは不満と苦痛だけだ。
よく言われてるが、『童貞だった頃に戻りたい』って嘆きが一番それを明確にあらわしてる気がするわ。
…………そう言えば男同士にしか興味が無い人とかだと、それで童貞喪失って言うんだろうか?




